Pink Floyd – Atom Heart Mother = 原子心母 (1970)
Pink Floyd『Atom Heart Mother = 原子心母』について
Pink Floydの『Atom Heart Mother』は、1970年にイギリスで発表された5作目のスタジオ・アルバムで、日本盤は1974年にリリースされた1枚。初期のサイケデリック路線から、より長尺で構成を重視する展開へ移っていく時期の作品で、のちのプログレッシブ・ロック的なイメージをはっきり感じさせる内容になっている。
バンドはロンドンで結成された英ロック・バンド。サイケデリックな実験性、哲学的な歌詞、音響効果の使い方、そして大掛かりなライブ演出で知られ、ロック史の中でも大きな存在感を持つ。このアルバムも、そうしたPink Floydの特徴がかなり明確に出ている時期の記録という印象が強い。
作品の位置づけ
『Atom Heart Mother』は、Syd Barrett時代の色合いを残しつつ、David Gilmour加入後の編成でまとまった作品。ギタリストとしてGilmour、ベーシスト兼ヴォーカルのRoger Waters、キーボードのRichard Wright、ドラムのNick Masonという体制で、バンドの基本形が固まりつつある段階のアルバムでもある。
収録曲の中心は、A面いっぱいを使った組曲「Atom Heart Mother」。タイトル曲であり、アルバムを象徴する長編曲だ。ブラスや合唱を含む大きな編成で進む曲で、ロックバンドの演奏を軸にしながら、室内楽や合唱曲に近い手触りもある。Pink Floydのアルバムの中でも、かなり“組曲”の性格が前に出た一曲と言えそうだ。
内容と聴きどころ
このアルバムは、派手なシングルヒットで押すタイプではなく、アルバム全体の流れで聴かせる構成。とはいえ、曲単位で耳に残る場面は多い。
- 「Atom Heart Mother」: 大曲としての存在感が強い組曲
- 「If」: アコースティック寄りの静かな曲調
- 「Summer ’68」: 旋律がはっきりした歌もの
- 「Fat Old Sun」: ギターの展開が印象に残る楽曲
- 「Alan’s Psychedelic Breakfast」: 日常音を取り込んだ組曲形式の曲
特に「Alan’s Psychedelic Breakfast」は、食事の物音を曲の一部として扱う作りで、Pink Floydらしい音響への関心がよく出ている。ロックの曲というより、音のコラージュとバンド演奏が同じ場所に置かれている感じがある。
また「Fat Old Sun」は、後年のライヴでも取り上げられることがある曲で、アルバム内では比較的ストレートに聴こえる。長編中心の作品の中で、楽曲としての輪郭が見えやすい位置にある。
同時代の文脈
1970年という時期は、英国ロックがサイケデリックの延長からプログレッシブ・ロックへと向かっていく流れの中にある。Pink Floydもその中心にいて、曲の長さ、構成、音のレイヤーを重ねる作り方が、この頃から一段はっきりしてくる。
同時代のロックで比べるなら、King CrimsonやYesのようなバンドが見せていた構築性とも並べて語られることがある。ただ、Pink Floydは技巧の見せ場より、音の空間や流れを重視する印象が強い。このアルバムでも、その方向性がかなり見て取れる。
日本盤について
この日本盤は、EMI系の音源として東芝EMIから制作されたもの。ライナーには日本語解説に加えて、1970年当時の英国音楽メディアのレビュー再録や、BathとHyde Parkでの公演に関する資料も収められている。6ページの白黒インサート付きで、歌詞は英語と日本語の両方が載っている。
ジャケットは有名な牛の写真で、作品の印象と強く結びついている。アルバムの音だけでなく、視覚面も含めて記憶に残りやすい仕様だ。
まとめ
『Atom Heart Mother』は、Pink Floydがサイケデリックな実験性を保ちながら、より大きな構成へ踏み込んでいく時期のアルバム。長編組曲、静かな歌もの、日常音を取り込んだ曲まで、曲ごとの性格がはっきりしていて、バンドの変化がそのまま作品に表れている。
1970年オリジナルの作品として見ると、のちのPink Floydを形づくる要素がかなり詰まっている1枚。日本盤の資料面も含めて、当時の空気を追いやすい内容になっている。
トラックリスト
- Atom Heart Mother
- B1 – If
- B2 – Summer ’68
- B3 – Fat Old Sun
- Alan’s Psychedelic Breakfast