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Can – Saw Delight (1977)

Can『Saw Delight』について

Canは、ドイツ・ケルンで1960年代後半に結成された実験的ロック・バンドで、クラウトロックを代表する存在として知られている。『Saw Delight』は1977年に発表された作品で、バンドの後期にあたる時期の1枚。Damo Suzuki在籍期の即興性や反復の強さを土台にしながら、70年代後半のCanらしい整理された演奏へと移っていく流れの中にあるアルバムだ。

この作品の位置づけ

Canは初期のマルコム・ムーニー期、そして日本人シンガーのDamo Suzukiを迎えた時期に、ノイズ、マントラ的な反復、ファンク寄りのリズムを組み合わせた独自の音像を作ってきた。『Saw Delight』は、その後の編成で作られた作品で、前衛性を保ちながらも、演奏のまとまりやリズムの輪郭がよりはっきりしている時期の録音として捉えられる。

Canの中では、代表曲「I Want More」(1976)のようなポップな側面が話題になることもあるが、『Saw Delight』はそうしたヒット性よりも、バンドの演奏感覚そのものを追うタイプのアルバムという印象が強い。

サウンドの特徴

本作は、Innerspace Studioで録音され、Delta Acoustic Studioでミックスされている。盤面には「3-D Stereo (Artificial Head Stereo)」の表記があり、空間の広がりを意識した制作であることがうかがえる。Canの作品らしく、音の配置やリズムの粘りが聴きどころになりやすい。

実際に耳を通すと、各楽器が前へ出たり引いたりする感覚があり、単純なロック・バンドの録音というより、スタジオ内での音の組み立てをそのまま作品にしたような印象を受ける。ギター、ベース、ドラム、キーボードが同じ方向へ一直線に進むというより、少しずつずれながら同じグルーヴを保つところにCanらしさがある。

同時代の文脈

1970年代後半のCanは、クラウトロックの文脈の中でも、単なる“電子音楽寄り”でも“ロック寄り”でも片づけにくい立ち位置にいた。Neu!やFaust、Amon Düül IIなどと並べて語られることは多いが、Canの場合は、即興の感覚と反復の設計がより強く結びついている点が特徴的だ。

『Saw Delight』も、その流れの中で、バンドが長年積み重ねてきた演奏方法を確認できる作品として見ることができる。後年の実験音楽やポスト・パンク、ダブ、オルタナティブ・ロックへの接続も、こうしたアルバムの中に見えてくる。

1981年盤について

ここでの盤は1981年の日本盤で、Made in Japan by Victor Musical Industries, Inc.、Virgin Recordsライセンス盤として流通している。日本語インサートとアンケートカードが付属する仕様。価格表記は¥2,000。

オリジナルの作品年は1977年なので、1981年盤はその後の日本での流通盤という位置づけになる。録音内容そのものを追うなら1977年の作品として見るのが自然だが、ジャケットや付属物、当時の日本盤の仕様に関心がある場合は、こうした再プレス盤ならではの資料的な面白さもある。

Canというバンドの流れの中で

Canは、Holger Czukay、Irmin Schmidt、Jaki Liebezeit、Michael Karoliを中心に、メンバーの入れ替わりを経ながら活動を続けた。『Saw Delight』の時期も、そうした変化の中で作られた作品群のひとつで、バンドの長い歴史の中では後期の章にあたる。

代表作として語られるアルバムは多いが、『Saw Delight』は、派手なエピソードや大きなヒット曲で押す作品というより、Canがどのように演奏を組み立て、スタジオで音を彫刻していたかを示す一枚として見えてくる。

まとめ

『Saw Delight』は、1977年のCanを知るうえで重要な後期作品のひとつ。クラウトロックの中心的バンドが、即興と反復の感覚を保ちながら、より整理されたバンド演奏へ向かっていく途中の記録として聴ける。1981年の日本盤は、その作品を日本で受け取るための一枚として、ライセンス盤ならではの存在感を持っている。

トラックリスト

  • A1 – Don’t Say No (6:29)
  • A2 – Sunshine Day And Night (6:13)
  • A3 – Call Me (5:18)
  • B1 – Animal Waves (15:20)
  • B2 – Fly By Night (4:07)
2026.07.12

Grobschnitt – Rockpommel’s Land (1977)

Grobschnitt『Rockpommel’s Land』について

Grobschnittは、1970年にドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州ハーゲンで結成されたロック・バンドである。
『Rockpommel’s Land』は1977年に発表された作品で、彼らの代表作として語られることが多いアルバムだ。電子的な音の扱いとロックの推進力を行き来しながら、クラウトロックとプログレッシブ・ロックの文脈に置かれる内容になっている。

作品の位置づけ

Grobschnittのキャリアの中でも、『Rockpommel’s Land』はかなり大きな位置を占める作品として知られている。
スタジオ録音の構成と、バンドらしい演奏のまとまりが前面に出たアルバムで、1970年代ドイツ・ロックの流れの中でも存在感が強い一枚だ。

同時代のドイツ勢でいうと、CanやAmon Düül II、Ash Ra Tempel、Kraftwerkといったバンド/プロジェクトが思い浮かぶが、Grobschnittはそれらの中でも、より演劇性や物語性を伴った進め方をするタイプのバンドとして見られやすい。
その意味で、『Rockpommel’s Land』も単なる楽曲集というより、アルバム全体で流れを追う作りの印象が強い。

1977年オリジナルと1981年盤

オリジナルのリリースは1977年で、この1981年盤はその後に出た盤である。
ジャケットまわりでは、帯に内包されたノートが付く仕様になっているようだ。日本盤としての体裁が意識されたリリースと見てよさそうだ。

再発盤らしい違いとしては、内容そのものよりも、国内流通向けのパッケージングに重きがある。
こうした時期の日本盤は、輸入盤とは異なり、帯や解説の有無で手に取ったときの印象がかなり変わる。

聴きどころ

『Rockpommel’s Land』は、曲ごとの展開がはっきりしていて、リフの反復だけで押すのではなく、場面が切り替わるように進むところが特徴だ。
演奏の手触りは硬質になりすぎず、メロディやアンサンブルの動きが前に出る場面が多い。

実際に通して聴くと、単に派手な展開を並べるのではなく、細かい繋ぎや空気の変化で長尺を保っている感じがある。
ギター、キーボード、リズム隊の役割がくっきりしていて、音の層を重ねながら進む構成が耳に残る。

代表曲として知られるもの

このアルバムでは、タイトル曲「Rockpommel’s Land」が作品の核として扱われることが多い。
アルバム全体の性格を示す曲名でもあり、Grobschnittの持つ物語的な組み立てを象徴する存在として見られやすい。

参加メンバー

  • Rolf Möller
  • Joachim Ehrig
  • Axel Harlos
  • Gerd-Otto Kühn
  • Hermann Quetting
  • Stefan Danielak
  • Bernhard Uhlemann
  • Volker Kahrs
  • Wolfgang Jäger
  • Jürgen Cramer
  • Peter Jureit
  • Thomas Waßkönig
  • Toni Moff Mollo
  • Milla Kapolke
  • Manu Kapolke
  • Demian Hache
  • Deva Tattva
  • Nuki

まとめ

『Rockpommel’s Land』は、Grobschnittというドイツのバンドが持っていたロックの推進力と、構成の大きさをまとまった形で示すアルバムだ。
1977年のオリジナル作品としての存在感がありつつ、1981年の日本盤では帯付きの国内仕様で受け止められた一枚でもある。
クラウトロックとプログレッシブ・ロックの交点にある作品として、今も名前が挙がりやすいタイトルである。

トラックリスト

  • A1 – Ernie’s Reise (10:56)
  • A2 – Severity Town (10:05)
  • B1 – Anywhere (4:13)
  • B2 – Rockpommel’s Land (20:55)

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2026.07.12

Holger Czukay – Full Circle (1982)

Holger Czukay『Full Circle』について

『Full Circle』は、Canの元ベーシストとして知られるHolger Czukayが1982年に発表した作品である。ジャンル表記ではElectronic、Rock、スタイルではDub、Electro、Experimental、Krautrockにまたがる内容とされていて、いわゆるロックのアルバムというより、編集、音響処理、断片的な構成を前面に出したソロ作品という位置づけが見えやすい。

Holger Czukayは、Karlheinz Stockhausenに学んだ経歴を持ち、Canでは演奏だけでなく録音やエンジニアリング面でも重要な役割を担った人物である。その後のソロ活動でも、ラジオ音源の使用やサンプリング的な手法で独自性を示してきたが、『Full Circle』もその延長線上にある作品として捉えられる。

作品の輪郭

このアルバムは、Holger Czukayによる「Radio painting」として紹介されている。クレジットには、彼自身が「Editing and processing」を手がけたとあり、録音された素材を組み替え、加工し、音の断片を配置していく作りが中心になっていることがうかがえる。R.P.S.は「Radio Pictures Series」の略とされている。

収録曲のうち、How MuchWhere’s The MoneyTrench WarfareTwilight World は、ヨーロッパで先に12インチ・シングルとして発表されていた。アルバムではそれらの素材がまとまり、ひとつの作品として再構成されている。

1982年という位置づけ

1982年の時点で、Holger CzukayはすでにCanのメンバーとして、そしてソロの実験的な作家としても一定の位置を築いていた。『Full Circle』は、その活動の中でも、バンド演奏の延長というより、音響の編集や放送由来の素材を扱う方向をよりはっきり示す作品に見える。

同時代の文脈で見ると、クラウトロックの残響を引き継ぎながら、ダブや電子音楽、実験音楽の手法が交差する地点に置ける内容である。Can周辺の流れを思わせる一方で、一般的なロックの展開や歌を軸にする作りとは距離がある。

収録曲に触れながら

曲名だけでも、Where’s The MoneyTrench Warfare のように、断片的な言葉を置いたタイトルが目につく。ここでも、メッセージを一直線に伝えるというより、語句、リズム、音色、編集の感触を並べる発想が前に出ている印象がある。

Twilight World のような曲名は、アルバム全体のラジオ断片的な構成と相性がよく、Holger Czukayが得意とした「素材の再配置」という作法を思わせる。聴感としては、演奏の巧さを見せる作品というより、音の切り貼りや距離感そのものを聴かせるタイプのアルバムとして受け取られやすいだろう。

日本盤としての『Full Circle』

今回の盤は日本で1982年に出たもの。価格表記は¥2,500となっている。作品自体はオリジナル年と同じ1982年のリリースで、後年の再発盤ではない。

Holger Czukayのソロ作品の中でも、『Full Circle』は、Can以後の実験性をそのまま持ち込みつつ、ラジオ音源や編集の感覚を強く打ち出した一枚として見てよさそうだ。クラウトロックの文脈、ダブ的な処理、電子音の扱いが交差する、彼らしい作品である。

トラックリスト

  • A1 – How Much Are They? (4:48)
  • A2 – Where’s The Money? (5:02)
  • A3 – Full Circle R.P.S. (No. 7) (10:58)
  • B1 – Mystery R.P.S. (No. 8) (8:47)
  • B2 – Trench Warfare (6:45)
  • B3 – Twilight World (4:20)

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2026.07.11

Jon Hassell – Fourth World Vol. 1 – Possible Musics = 第四世界の鼓動 (1980)

Jon Hassell『Fourth World Vol. 1 – Possible Musics』について

Jon Hassellの『Fourth World Vol. 1 – Possible Musics』は、1980年に発表された作品です。トランペット奏者、作曲家、作家として知られるHassellが、自身のいう「Fourth World」という考え方を前面に出した初期の代表作で、電子音響と即興演奏のあいだを行き来する内容になっている。ジャンル表記はElectronic、スタイルはExperimental、Ambient。

このアルバムは、Hassellの音楽的な方向性を理解するうえで重要な位置にある作品として知られている。西洋の楽器であるトランペットを起点にしながら、インド音楽やミニマル・ミュージック、電子処理の感覚を接続していく流れが、この時点ですでに明確に表れている。

作品の位置づけ

Jon Hassellは、古いものと新しいもの、作曲と即興、東洋と西洋をひとつの音楽語法にまとめようとした人物として語られることが多い。このアルバムは、その発想をタイトルからも示した一枚で、後年の彼の活動を考えるうえでも出発点のような存在といえる。

Hassellはカールハインツ・シュトックハウゼンのもとで電子音楽やセリエル音楽を学び、その後ニューヨークでラ・モンテ・ヤングやテリー・ライリーと接点を持った。その経歴を踏まえると、本作の響きには実験音楽やミニマルの文脈が自然に通っている。

音の特徴

実際に聴くと、中心にあるのは派手な展開ではなく、音の配置と余韻の管理だ。トランペットは旋律を前に出すというより、細く長い音色やフレーズの断片として置かれ、電子的な処理や空間の広がりの中に溶け込んでいく。リズムで押す部分より、持続音や反復、音の距離感が印象に残る。

また、一般的なジャズ・トランペット作品のようなソロの見せ場とは少し違い、音そのものの質感を聴かせる場面が多い。音が鳴ってから消えるまでの時間、背後の層、輪郭の曖昧さが、この作品の聴きどころになっている。

同時代の文脈

1980年前後は、アンビエントや実験電子音楽の領域が広がっていた時期でもある。この作品は、その流れの中で、単なる環境音楽というより、異文化の要素を組み替えながら新しい音楽の地平を探る動きとして受け取られてきた。

比較対象としては、ブライアン・イーノ周辺のアンビエント、あるいはミニマルの反復感を持つ音楽が思い浮かぶ。ただしHassellの場合は、トランペットという生楽器の存在感が強く、電子音楽でありながら身体的な息づかいが残っている点が特徴的だ。

ヒット曲・代表曲について

このアルバムはシングルヒットを前提にした作品ではない。楽曲単位で広く知られるというより、アルバム全体の流れやコンセプトで語られることが多い。代表作としては、やはりこの『Fourth World Vol. 1 – Possible Musics』そのものが挙げられることが多い。

盤の情報について

今回の盤は1980年のオリジナル期のリリースで、作品の初出当時の空気を伝える一枚といえる。クレジットでは、℗ 1980 E.G. Records Ltd.、楽曲著作権はEG Music Ltd. 1980と記されている。

まとめ

『Fourth World Vol. 1 – Possible Musics』は、Jon Hassellが自分の音楽語法をはっきり示した初期の重要作。電子音響、実験性、アンビエントの要素を持ちながら、トランペットの息づかいが前に残る、輪郭のはっきりした作品だ。1980年という時点で、この方向性をここまで明確に打ち出していたこと自体が、このアルバムの大きな特徴になっている。

トラックリスト

  • A1 – Chemistry = ケミストリー (6:48)
  • A2 – Delta Rain Dream = デルタ・レイン・ドリーム (3:22)
  • A3 – Griot (Over “Contagious Magic”) = グリオ (4:00)
  • A4 – Ba-benzélé = バ・ベンゼレ (6:03)
  • A5 – Rising Thermal 14° 16′ N; 32° 28′ E = ライジング・サーマル 北緯14度16分 東経32度28分 (3:34)
  • B – Charm (Over “Burundi Cloud”) = チャーム (21:24)

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2026.07.11

Mark Stewart – Dream Kitchen (1996)

Mark Stewart『Dream Kitchen』(1996)について

Mark Stewartは、ブリストル出身のイングリッシュ・シンガー/ソングライター/アーティスト/プロデューサー。The Pop Groupの創設メンバーとして知られ、その後もソロやさまざまなプロジェクトで活動を続けた人物だ。『Dream Kitchen』は1996年にUKで出た作品で、電子音楽を軸にダブとインダストリアルの要素が交わる一枚として位置づけられる。

作品の輪郭

この時期のMark Stewartは、バンド時代の先鋭的な感覚を土台にしながら、より機械的な質感や音響的な処理を前面に出していく流れにある。『Dream Kitchen』も、その延長線上にある作品として捉えやすい。リズムの組み立て方や音の置き方に、ダブ由来の空間処理と、インダストリアル寄りの硬い手触りが見える。

ブリストル・シーンの文脈で見ると、同じ街の音楽が持っていた低音重視の感覚や、ポストパンク以後の実験性とつながる部分がある。Massive AttackやPortisheadのような“ブリストル・サウンド”が広く知られる少し前後の時期にあたるため、そうした空気と並べて語られることもある。ただし、Mark Stewart本人はよりラディカルで、ポストパンクの緊張感を強く残した立ち位置にいる。

Mark Stewartにとっての位置づけ

Mark Stewartのキャリア全体で見ると、『Dream Kitchen』はThe Pop Group以後のソロ活動の中で、ダブとインダストリアルの接点を深めた作品のひとつとして扱われることが多い。パンクの直線的な勢いだけではなく、音の間、反復、ノイズの扱いに重心を置く方向性がはっきりしている時期だ。

彼の作品群は、単なるソロ作というより、ポストパンク以降の実験音楽、レゲエ/ダブの処理、クラブ以後のビート感を横断する動きとして見たほうがわかりやすい。そうした意味で、『Dream Kitchen』はMark Stewartらしい方法論が比較的よく出たタイトルのひとつといえる。

聴きどころとして見える点

  • ダブ的な残響と間の使い方
  • インダストリアル寄りの硬い音像
  • 電子音楽の枠組みの中で保たれる緊張感
  • ポストパンク由来の声の置き方と語り口

ヒット曲のような形で広く知られた代表曲を前提に聴く作品ではなく、アルバム全体の流れや音の作りそのものを追うタイプの内容だ。曲ごとの派手な展開よりも、音の圧や質感、反復の組み立てで聴かせる構成になっていると見てよさそうだ。

まとめ

『Dream Kitchen』は、Mark Stewartがブリストルの先鋭的な音楽感覚とポストパンク以後の実験性をつなぐ中で生まれた1996年の作品。Electronicを土台に、DubとIndustrialの要素が絡む、彼の活動史の中でも輪郭のはっきりした一枚として捉えられる。

トラックリスト

  • A1 – Dream Kitchen
  • A2 – Crawl Space
  • B – Simulacra (Clone1)

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2026.07.10

Daryl Hall & John Oates – X-Static (1979)

Daryl Hall & John Oates『X-Static』(1979)

Daryl Hall & John Oatesは、1967年から活動を続けるアメリカのポップ・ロック・デュオだ。1970年代後半には、ソウルやポップスの要素に加えて、当時の新しい音の感触も取り入れながら、アルバムごとに少しずつ表情を変えていく。

『X-Static』は1979年に発表された作品で、電子的な質感を前面に出した時期の一枚として位置づけられる。ジャンル表記はElectronic、スタイルはSynth-pop。Hall & Oatesの中でも、いわゆるヒット曲主体のイメージだけでは見えにくい、時代の空気に寄ったサウンドがまとまっている。

作品の輪郭

このアルバムでは、Daryl Hallの歌とJohn Oatesのギター/コーラスの組み合わせを軸にしながら、シンセサイザーの比重が比較的はっきりしている。1979年という時期を考えると、ロック・バンド的な演奏感よりも、鍵盤や機械的なリズムの存在感が先に立つ作りと受け取れる。

レコードのクレジットには、©1979 RCA Records、Manufactured by RVC Corporation, Tokyo, Japan とある。日本盤として流通した一枚で、盤自体は強い光にかざすと半透明に見える translucent vinyl 仕様だ。

Hall & Oatesの中での位置づけ

Hall & Oatesはこの後、1980年代に入ると『Voices』や『Private Eyes』、『H2O』などで大きくヒットを重ねていく。その流れの手前にある『X-Static』は、後年の成功作ほど広く知られるタイプではないが、デュオがポップ・ソングの作り方を更新していく途中の記録として見やすい。

同時代の文脈では、ソウル寄りのポップ・ロックからシンセを使った新しいポップへ移っていく動きの中に置ける。完全にニューウェイヴへ寄るというより、既存のメロディ志向を保ちながら、音の表面を時代に合わせていく感触がある。

聴きどころ

実際の音像としては、歌の輪郭を中心にしつつ、シンセのレイヤーが曲の空間を作るタイプのアルバムといえる。派手なギター・ロックの押し出しより、リズムと音色の配置で聴かせる場面が目立つ。

代表曲としては、アルバムからシングルとして知られる「Wait for Me」が挙げられることが多い。メロディの分かりやすさと、当時らしいシンセの使い方が同居していて、作品全体の方向性をつかみやすい一曲だ。

まとめ

『X-Static』は、Hall & Oatesのディスコグラフィの中で、1970年代末の電子的なポップ感覚を映した一枚。大きなヒット作として語られることは多くないが、デュオの変化の途中をそのまま記録したアルバムとして見ると、なかなか輪郭のはっきりした作品だ。

日本盤の半透明ビニールも含め、1979年当時のRCA周辺のパッケージ感を持ったレコードとして手元で眺める面白さもある。

トラックリスト

  • A1 – The Woman Comes And Goes (3:48)
  • A2 – Wait For Me (4:06)
  • A3 – Portable Radio (4:44)
  • A4 – All You Want Is Heaven (4:00)
  • A5 – Who Said The World Was Fair (4:08)
  • B1 – Running From Paradise (6:35)
  • B2 – Number One (3:43)
  • B3 – Bebop / Drop (3:56)
  • B4 – Hallofon (1:17)
  • B5 – Intravino (3:33)

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2026.07.10

RAH Band – Producers Choice (2020)

RAH Band『Producers Choice』について

RAH Bandは、Richard A. Hewsonを中心に動くUKのスタジオ・プロジェクト。70年代後半から80年代にかけて、ジャズ・ファンク、シンセポップ、ポップの要素を行き来しながら、UKチャートでも結果を残してきたユニットだ。

『Producers Choice』は2020年にUKでリリースされた2枚組アナログ盤。Record Store Day 2020向けの限定盤として出た作品で、RAH Bandの各アルバムから選ばれた楽曲を、オリジナル・テープからリマスターしてまとめた編集盤になっている。印刷スリーブ付きの仕様で、Atjazz Record Companyからのライセンス盤でもある。

作品の位置づけ

RAH Bandの代表曲を、あらためてまとまった形で聴ける一枚という位置づけ。70年代のスタジオ志向の作り込みと、80年代のダンス寄りの感触、その両方を横断する内容になっている。

Richard Hewsonは、編曲家、指揮者、マルチ・インストゥルメンタリストとして活動を始めたのち、自身のイニシャルを冠したRAH Band名義で制作、作曲、演奏まで手がけるようになった。そうした個人プロジェクトとしての性格が、編集盤であってもはっきり見えるのがこの作品の面白さだ。

収録曲の中心となる代表曲

この盤の核としてまず挙がるのが「Clouds Across The Moon」と「Messages From The Stars」。どちらもRAH Bandを語るときによく触れられる曲で、前者はUKヒットとして知られ、後者も後年まで広く親しまれてきた。

「Clouds Across The Moon」は、曲名のイメージどおり宇宙的な題材を持ちながら、打ち込みとバンド的な演奏感が同居するところが特徴。RAH Bandのシンセポップ面と、ソウル寄りの感触が重なる1曲として位置づけられる。

「Messages From The Stars」は、80年代のRAH Bandらしい軽快さと電子音の整理された鳴りが前に出る楽曲。のちにクラブ文脈や再評価の流れでも名前が出やすい代表曲だ。

聴きどころ

この編集盤は、曲ごとの年代差をそのまま並べるというより、RAH Bandの制作スタイルの変化を追いやすい構成になっている。ジャズ・ファンク寄りの楽器の運び、ポップとしての覚えやすさ、シンセを使った音の設計、その3つが曲ごとに違う比重で現れる。

リマスター盤なので、オリジナル盤で聴かれていた曲も、現在の再生環境で輪郭をつかみやすい。とくに低音のラインやシンセのレイヤー、コーラスの重なり方は、編集盤としてまとめて聴くと整理して追いやすい印象がある。

同時代の文脈

RAH Bandは、UKの70年代後半から80年代初頭にかけての、スタジオ主導のポップ/ダンス音楽の流れに位置する。派手なバンド・サウンドというより、作曲、編曲、録音の作業を前面に出したタイプで、同時代のシンセポップやジャズ・ファンクと接点を持つ。

その意味では、ディスコ以後のダンス・ミュージックや、英国のソウル/ファンク寄りポップと並べて語られることが多い存在だ。RAH Bandの曲は、ラジオ向けのポップ感と、スタジオ作品としての細かな構成が同居している。

まとめ

『Producers Choice』は、RAH Bandの主要曲をオリジナル・テープからリマスターし、2枚組LPにまとめた2020年の編集盤。代表曲「Clouds Across The Moon」や「Messages From The Stars」を軸に、Richard Hewson主導のスタジオ・プロジェクトとしてのRAH Band像をつかみやすい内容だ。

70年代のジャズ・ファンク的な流れと、80年代のシンセポップ/ダンス・ポップの接点を一度にたどれる盤、という見方がしやすい。

トラックリスト

  • A1 – Beyond
  • A2 – Downside Up
  • A3 – Out On The Edge
  • B1 – Float
  • B2 – Perfumed Garden
  • B3 – Shadow Of Your Love
  • C1 – Clouds Across The Moon (Supanova Mix)
  • C2 – Electric Fling
  • C3 – Messages From The Stars
  • D1 – Falcon
  • D2 – Slide
  • D3 – Riding On A Fantasy

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2026.07.10

Steve Hillage – L (1976)

Steve Hillage『L』(1976年)

Steve Hillageのソロ作『L』は、1976年に発表されたアルバムだ。Gongでの活動を経て、ソロ・ギタリストとしての輪郭がさらにはっきりしてくる時期の作品で、UKのプログレッシブ・ロックと実験的な音響感覚が前面に出ている。後年のアンビエント寄りの仕事や、System 7での活動を知っていると、この時点ですでにエコーやリバーブを活かしたギターの処理がかなり意識されていることがわかる。

作品の位置づけ

Hillageは、Uriel、Egg、Arzachel、Kevin Ayers周辺の活動を経てGongに参加し、Daevid Allen流のグリッサンド・ギターを吸収しながら独自の演奏へ進んだ人物だ。『L』は、その流れの中でソロ・アーティストとしての個性を固めていく初期の重要作として位置づけられる。Gong的なサイケデリック感覚を残しつつ、より整理されたバンド・サウンドと、ギターの音色そのものを聴かせる作りになっている。

音の印象

この時期のHillageのギターは、速いフレーズを並べるだけではなく、音の伸びや残響で空間を作るところが特徴だ。歪みの質感も含めて、単なる技巧派というより、音響の流れを組み立てるプレイヤーという印象が強い。シンセサイザーとの重なりもあり、ロックの推進力と実験性が同じ場に置かれている感じがある。

同時代の文脈で見ると、HawkwindやGong、あるいはCamelや初期のYes周辺のプログレと並べて語られることがあるタイプの作品だが、『L』はよりギターの処理に焦点がある。のちのアンビエント・テクノやニューエイジ寄りの感触を先取りしているようにも聴こえる。

収録曲と代表曲

『L』には、のちにHillageの代表曲として知られる「Hurdy Gurdy Glissando」が収録されている。この曲は、タイトルどおりグリッサンドを軸にした演奏で、Hillageのギター表現を端的に示す一曲だ。メロディをなぞるというより、音の滑りと持続で印象を作る曲で、彼のソロ活動を語るうえで外せない存在になっている。

制作とリリース情報

US盤はPresswellでのプレス。プロモーション盤にはゴールドのDJスタンプやタイミング・ストリップが付くものがあり、一部にはTodd RundgrenのUtopiaの写真が同封されるものもある。クレジット上でも「Todd Rundgren’s Utopia appear by courtesy of Bearsville Records」と記されており、当時のUSロック/プログレ周辺のつながりが見える。

同時代とのつながり

Steve Hillageはこの時代、演奏技術だけでなく、音色や残響の扱いで個性を出していた。のちにSimple Mindsのプロデュースで知られる一方、The Orbに自身の音源をサンプリングされたことをきっかけにSystem 7へつながっていく流れを見ると、『L』の時点で既にロックの枠を越える要素があったことがわかる。1976年という年のプログレ作品としては、構築性と実験性のバランスに特徴があるアルバムだ。

まとめ

『L』は、Gongを経たSteve Hillageが、ソロ・ギタリストとしての言語を固めていく途中の重要作だ。ギターのグリッサンド、残響、シンセとの絡み、そして「Hurdy Gurdy Glissando」に代表される演奏の組み立て方。そのあたりに、この人の後年まで続く核がはっきり出ている作品といえる。

トラックリスト

  • A1 – Hurdy Gurdy Man (6:32)
  • A2 – Hurdy Gurdy Glissando (8:54)
  • A3 – Electrick Gypsies (6:24)
  • B1 – Om Nama Shivaya (3:33)
  • B2 – Lunar Musick Suite (11:59)
  • B3 – It’s All Too Much (6:26)

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2026.07.09

The Flying Lizards – The Flying Lizards = ミュージック・ファクトリー (1980)

The Flying Lizards『ミュージック・ファクトリー』について

The Flying Lizardsは、David Cunninghamを中心にした実験色の強いポップ・グループだ。1970年代後半のイギリスで始まり、既成のロックやポップの型をずらした音作りで知られている。この1980年作『ミュージック・ファクトリー』は、日本ではこのタイトルで紹介された作品で、英題はThe Flying Lizards。日本盤は1980年リリースで、帯、英日対訳の歌詞折り込み、そして日本語解説紙が付いた仕様になっている。

作品の位置づけ

オリジナル・アルバムとしては1979年のデビュー作に続く時期の作品で、The Flying Lizardsの初期の流れをつかむうえで重要な一枚といえる。バンドの核にあるのは、David Cunninghamのプロデュース感覚と、入れ替わる演奏者・ヴォーカリストの組み合わせだ。実験音楽の側面がありながら、曲の骨格はポップ寄りに保たれているところが、このグループらしさになっている。

聴こえてくるもの

この作品では、音の配置がかなり特徴的だ。リズムやボーカルが前に出たり引いたりしながら、普通のバンド演奏の流れから少し外れた場所で曲が進む。電子的な処理、硬いビート、短いフレーズの反復が目立ち、ロックの体裁を取りつつも、パンク以後の制作感覚やアート寄りの手つきが強い。

実際に聴くと、音の抜き差しがはっきりしていることが印象に残る。メロディを大きく押し出す場面より、声や音色の置き方で引っかかりを作る場面が多い。単純な「聴きやすさ」ではなく、音がどこに置かれているかを追っていくタイプの作品だ。

同時代とのつながり

1970年代末から1980年前後のイギリスでは、ポストパンクやニューウェーブの文脈で、ロックの形式を崩す試みが多く見られた。The Flying Lizardsもその流れの中に置けるが、一般的なバンド像からはかなり離れている。アート寄りの感覚、スタジオ作業の比重、既存曲の扱い方などから、同時代の実験的なポップ・アクトや、切り貼りの感覚を持つ作品群と並べて語られることがある。

David Cunninghamの関与を軸に見ると、演奏の生々しさよりも編集や構成の面白さが前に出る。David Toop、Steve Beresford、Patti Palladinらの名前が並ぶのも、このバンドの流動的な性格を示している。

日本盤の仕様

この日本盤は、ジャケットに帯が付き、英語と日本語の歌詞を収めた4ページの折り込みインサート、さらに日本語解説の一枚紙が付属する。盤を光にかざすとやや透けて見える茶色味があり、JVC Supervinylでプレスされたことがわかる仕様だ。背面表記には、ロンドンのBerry StreetとBrixtonで録音されたこと、さらにニューヨーク、ミュンヘン、Maidstoneなどでも追加録音が行われたことが記されている。制作の移動の多さも、この作品の断片的な手触りにつながっているように見える。

代表曲について

The Flying Lizardsといえば、一般にはシングル曲の印象が先に来ることが多い。特にデビュー期の「Money (That’s What I Want)」は、このグループの代表的な楽曲として知られている。『ミュージック・ファクトリー』は、その一曲だけで語れる作品ではないが、バンドの輪郭を理解するうえでは、あのずらした感覚がアルバム全体にも通じている。

まとめ

『ミュージック・ファクトリー』は、The Flying Lizardsの初期像を日本盤の丁寧な体裁で伝える1980年の一枚だ。ポップの形を借りながら、その中身を少しずつ組み替えていくような作り。ロック、電子音、編集感覚が同居する、当時の実験的な空気をそのまま閉じ込めた作品として見えてくる。

トラックリスト

  • A1 – Mandelay Song = マンドレイ・ソング (2:28)
  • A2 – Her Story = ハー・ストーリー (4:40)
  • A3 – TV (4:00)
  • A4 – Russia = ロシア (6:36)
  • A5 – Summertime Blues = サマータイム・ブルース (3:31)
  • B1 – Money = マネー (5:49)
  • B2 – The Flood = ザ・フラッド (4:56)
  • B3 – Trouble = トラブル (2:48)
  • B4 – Events During Flood = イベンツ・デュアリング・フラッド (3:24)
  • B5 – The Window = ザ・ウィンドウ (5:35)

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2026.07.09

Rupert Hine – Waving Not Drowning (1982)

Rupert Hine / Waving Not Drowning(1982)

Rupert Hineは、英国内で長く活動したシンガー、ソングライター、キーボード奏者、プロデューサーだ。1960年代半ばから自分名義でもバンドでも録音を重ねていて、このWaving Not Drowningは1982年にUKで出たアルバムになる。電子音を前面に出した作りで、ジャンル表記としてはElectronic、スタイルとしてはSynth-popに置かれている。

作品の位置づけ

Rupert Hineのキャリアの中では、作曲と制作の感覚がかなり前に出た時期の一枚として見える。本人はアーティスト活動だけでなくプロデューサーとしても知られていて、歌とキーボード、スタジオワークが自然につながっている人だ。このアルバムも、その持ち味がそのまま表れた作品という印象になる。

1982年UKの空気感

1982年という年は、UKのポップスでシンセサイザーが広く浸透していた時期だ。Rupert Hineの音作りも、その流れの中にある。硬質な打ち込み感と、メロディを前に出す歌もののバランスがこの時代らしい。周辺の文脈でいえば、同時代の英国シンセポップに通じる耳ざわりがありつつ、プロデューサー気質の整理された響きが特徴になっている。

聴きどころ

実際に聴くと、音のレイヤーが多すぎず、要所でシンセのフレーズやリズムの刻みがはっきり分かる作りだ。歌を覆い隠すというより、歌の輪郭を支えるような配置になっている。タイトル曲のWaving Not Drowningは、作品全体の方向性を示す中心曲として受け取られやすいだろう。派手なロック的高揚より、一定のテンポ感の中で細部を聴かせるタイプのアルバムという印象が残る。

盤の情報

  • オリジナルリリース年: 1982年
  • リリース国: UK
  • 盤の表記: Made in England
  • 一部の流通盤には、裏ジャケットに金色のプロモーションスタンプが付く例あり

アーティストについて

Rupert Hineは、演奏者としてだけでなく、音楽業界の制度面にも関わった人物でもある。BASCAのソングライター委員会を率い、Ivor Novello Awards委員も務めた。のちには、技術ライターで起業家のAlan GrahamとともにOne-Click Licence(OCL)を立ち上げ、NDiiDやTotemといった仕組みにも関わっている。音楽制作と著作権、テクノロジーの接点に早くから目を向けていた人でもある。

まとめ

Waving Not Drowningは、1982年のUKシーンに置くと、電子音を使いながらも歌を中心に据えたRupert Hineの代表的な時期を示すアルバムとして捉えやすい。プロデューサーとしての整理された音像、シンセポップ期の空気、そして本人の作家性が重なる一枚だ。

トラックリスト

  • A1 – Eleven Faces (3:44)
  • A2 – The Curious Kind (4:46)
  • A3 – The Set Up (4:29)
  • A4 – Dark Windows (3:22)
  • A5 – The Sniper (5:32)
  • B1 – Innocents In Paradise (3:24)
  • B2 – House Arrest (4:18)
  • B3 – The Outsider (5:29)
  • B4 – One Man’s Poison (6:13)

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2026.07.08

Propaganda – p: Machinery (Polish) (1985)

Propaganda「p: Machinery (Polish)」について

Propagandaは、ドイツ・デュッセルドルフ出身のシンセポップ・グループだ。1982年にRalf DörperとAndreas Theinを中心に始まり、1985年の時点ではClaudia Brücken、Susanne Freytag、Michael Mertens、Ralf Dörperの編成で活動していた。ZTT周辺の80年代英国ポップの文脈で語られることの多いグループで、緻密な打ち込みと強いビート、女性ボーカルの存在感を軸にしたサウンドが持ち味である。

この「p: Machinery (Polish)」は、1985年に登場した「p: Machinery」のポーリッシュ・ヴァージョンを収めた盤。Propagandaの代表曲のひとつとして知られる「p: Machinery」の別形態で、同曲の12インチ展開の中でも長尺版にあたる。オリジナルの「p: Machinery」は「A Secret Wish」期の重要曲で、Propagandaの代表作を語るうえで外せない1曲だ。

曲の位置づけ

Propagandaにとって1985年は、アルバム「A Secret Wish」に結実する時期だ。その中で「p: Machinery」は、鋭い機械的リズムとボーカルの切り替わりがはっきりした、バンドの個性がよく出た楽曲として扱われている。マスターノートによると、今回の「Polish」は9分24秒のヴァージョンで、最後に1分15秒のリプリーズを含む構成だ。単なる延長ではなく、曲の終わり方まで含めて別の流れを作っている。

同曲には複数のヴァージョンが存在していて、3分台の7インチ向けミックス、ギターを足した再構成版、そしてこの長尺の「Polish」など、用途ごとに性格が分かれている。Propagandaのシングル制作が、当時の12インチ・シーンらしい編集感覚に支えられていたことが分かる。

サウンドの印象

実際に聴くと、打ち込みのリズムとシンセの層がかなり明確に分かれていて、音数は多いのに整理されている。ボーカルは前に出すぎず、ビートの上で言葉を置いていく感じが強い。長尺版のため、同じフレーズの反復が続いても、途中の展開や抜き差しで流れが保たれている。短いシングル版とは違って、曲の構造そのものを楽しむタイプの仕上がりだ。

Propagandaのサウンドは、同時代の英国シンセポップの中でも、単純な明るさや軽快さより、冷たさや緊張感が前に出る。Depeche ModeやCabaret Voltaire周辺と並べて語られることがあるのも、そうした要素が理由になりやすい。とはいえ、Propagandaは女性ボーカルの配置やコーラスの扱いで、よりポップ・ソングとしての輪郭も強い。

日本盤としての特徴

この盤は日本でのリリースで、付属物として日本語のインフォシートと英語詞が入っている。80年代の輸入盤/国内盤の文脈では珍しくないが、歌詞を追いながら聴ける仕様は、当時のリスナーにとって分かりやすい作りだ。収録内容そのものは1985年当時のシングル・ヴァージョンの範囲に収まっている。

Propagandaというバンドの中で

Propagandaは、メンバー変動の多いバンドだが、1985年はClaudia Brückenのボーカルが前面に出た時期として印象が強い。「Dr. Mabuse」に続いて「p: Machinery」もグループの代表曲となり、ZTTレーベルを象徴する80年代ポップの一角として定着していく流れにある。

制作面では、Stephen Lipsonがプロデュースを担った時期でもあり、音の密度や編集の細かさにその特徴が出ている。Propagandaの中でも、アルバム曲とシングル曲の境目がはっきりしつつ、12インチでさらに構造を広げる手つきがよく見える作品だ。

まとめ

「p: Machinery (Polish)」は、Propagandaの代表曲「p: Machinery」を長尺で味わえる1985年の12インチ・ヴァージョンだ。シングルとしての推進力と、12インチならではの展開の長さが両立していて、Propagandaの80年代的な完成度がまとまった1枚になっている。日本盤は日本語インフォシート付きで、英語詞も付属する構成である。

トラックリスト

  • A – p: Machinery (Polish) (9:20)
  • B1 – p: Machinery (Passive) (3:44)
  • B2 – Frozen Faces (5:30)

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2026.07.07

Exmagma – Goldball (1974)

Exmagma「Goldball」について

Exmagmaは、ドイツ・シュトゥットガルト周辺を拠点にしたアンダーグラウンドなジャズ・ロック・トリオである。メンバーは、キーボードのThomas Balluff、ギター/ベースのAndy Goldner、ドラムのFred Braceful。いずれも経歴がはっきりしていて、Balluffは1960年代のソウル・バンドMuli & The Misfits、Goldnerはローカルなリズム&ブルース・コンボFive Fold Shade、Bracefulは1950年代後半にドイツへ移ったアメリカ人ジャズ・ドラマーとして知られる。Exmagmaは、そうした背景の違う3人が合流した、ドイツのクラウトロックと即興ジャズの交差点にあるグループという位置づけになる。

「Goldball」は、Exmagmaの2作目にあたる作品で、1974年3月に録音され、1974年にUrusまたはDisjuncta名義で初出した。ここで取り上げている盤は2003年リリースの再発盤で、オリジナルの1974年盤とは年代が異なる。録音とミックスは1974年にWolperathで行われている。

作品の輪郭

ジャンル表記はElectronic、Jazz、Rock、スタイルはKrautrock、Fusion、Space Rock、Free Improvisation。Exmagmaらしいのは、この複数の要素が別々に並ぶというより、演奏の中でひと続きに現れる点である。ギター、キーボード、ドラムの3人編成で、曲の骨格がはっきりした場面と、即興に寄る場面が行き来するタイプの作品として捉えやすい。

同時代のドイツ勢でいえば、クラウトロックの枠に収まりつつも、よりジャズ寄りの緊張感を持ったバンドとして語られることが多い。Wolfgang DaunerやEt Cetera周辺の流れ、あるいは即興性の強いジャズ・ロックの文脈に置くと見えやすい作品である。Fred Bracefulの経歴が示す通り、アメリカのジャズ感覚が土台にあり、その上にドイツの実験的なロックの感触が重なる構図。

作品の位置づけ

「Goldball」は、Exmagmaのディスコグラフィーの中でも重要な位置にある2作目。バンドの基本形が固まった段階の記録として見ることができる。1作目で示した方向性を受けつつ、より演奏の密度や展開の幅が出た作品として扱われることが多い。

タイトル曲「Goldball」が作品名になっているが、特定のヒット曲として広く知られた楽曲というより、アルバム全体の流れの中で聴かれるタイプの作品である。曲単位の派手な代表曲を押し出すというより、トリオの即興と構成の切り替えそのものが聴きどころになっている。

2003年盤について

この盤は2003年のリリースで、オリジナルの1974年盤を後年に再発したものにあたる。カタログ番号は、ジャケット表記ではDaily009、レーベル表記では000.009となっている。再発盤としては、まずオリジナル音源を改めて聴ける点が大きい。

作品そのものは1974年の録音とミックスに基づくため、音楽内容はオリジナル時点のものをそのまま伝える形になる。再発盤としては、当時のクラウトロックやジャズ・ロックを後年の視点で聴き直す際の入口になっている。

まとめ

Exmagmaの「Goldball」は、ドイツのアンダーグラウンド・ジャズ・ロックを語るうえで外しにくい1枚である。シュトゥットガルト周辺のローカルな背景、アメリカ人ジャズ・ドラマーの参加、そして1974年という時代の空気が、3人編成の演奏にそのまま刻まれている作品と言える。

トラックリスト

  • A1 – Marilyn F. Kennedy (2:25)
  • A2 – Dada (3:35)
  • A3 – Adventures With Long S. Tea 25 Seconds Before Sunrise (2:25)
  • A4 – Groove (4:50)
  • A5 – Tango Wolperaiso (2:30)
  • B1 – Jam Factory (For People Insane) (4:00)
  • B2 – Habits (5:55)
  • B3 – Dance Of The Crass (0:50)
  • B4 – Greetings To The Maroccan Farmers (6:45)
  • B5 – Last But One Train To Amsterdam (0:55)

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2026.07.07

Zygoat – Zygoat (1974)

Zygoat / Zygoat(1974年作品、1982年盤)

「Zygoat」は、ニューヨークを拠点に活動したキーボード奏者、Burt Alcantaraによるプロジェクトの名義作として知られる作品だ。1974年にオリジナルが出ているが、ここで扱うのは1982年に日本で出た盤。電子音楽の初期、しかもシンセサイザーを前面に置いた先駆的なアルバムとして位置づけられている。

作品の輪郭

内容は、電子音の動きそのものを聴かせるタイプのアルバム。ジャンル表記はElectronic、スタイルはExperimentalとAmbient。楽曲を強く押し出すというより、音色、持続音、モジュレーションの変化で空気を組み立てていく作りに目が向く。ダンス作品を専門にしていたキーボード奏者のプロジェクトという背景もあり、リズム感のある場面と、音の広がりを重視する場面が同居している印象の一枚だ。

1970年代前半のシンセサイザー作品として見ると、同時代の電子音楽の流れの中でもかなり早い段階の記録に入る。ドイツのクラウトロック系や、米国の実験音楽、初期アンビエント周辺と並べて語られることがありそうな内容で、機材の新しさをそのまま作品化したような性格がある。

聴きどころ

実際の音像は、メロディを追うというより、シンセの発音や残響の変化を追っていくタイプだ。音の輪郭がくっきり出る場面もあれば、レイヤーが重なってまとまりのある流れになる場面もある。電子音の表情をひとつずつ見せる進行で、当時のシンセ作品らしい手触りが前に出ている。

代表曲として広く知られた曲名が目立つ作品ではなく、アルバム全体で聴かれる性格が強い。なので、1曲だけを切り出すより、通して聴いたときの音の配置や質感の変化が、この作品の中心になっている。

アーティストの位置づけ

Burt Alcantaraのプロジェクトとしては、ダンス作品向けの仕事を背景にしながら、より実験的な電子音楽へ踏み込んだ記録と見てよさそうだ。シンセサイザーがまだ新しい表現手段として扱われていた時期に、その可能性を前面に出した点で、彼の仕事の中でも特に実験性の強い位置を占める作品に見える。

1982年盤について

この盤は日本でのリリースで、ジャケットには帯と片面印刷のインサートが付く仕様。1982年盤として流通しているため、オリジナルの1974年盤とは発売時期が異なる。日本盤らしい丁寧な体裁で再紹介された一枚、と捉えられる。

まとめ

「Zygoat」は、初期シンセサイザー音楽の記録として見どころのある作品だ。実験性とアンビエント性が前に出た構成で、1970年代前半の電子音楽が持っていた試行錯誤の空気を、そのまま封じ込めたような内容になっている。

トラックリスト

  • A1 – Leaves Of Sand
  • A2 – Zygoat
  • A3 – Ybur Knom
  • A4 – Pillar Of Salt
  • A5 – Movement To The Earth
  • A6 – Seeds Cast To The Wind
  • B1 – Zy-Clone
  • B2 – Ybur Doon
  • B3 – Zygomania
  • B4 – The Ladder Of Zeugma
  • B5 – The Libran Sea
  • B6 – Perseverance Furthers

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2026.07.05

Neuronium – Supranatural (1987)

Neuronium『Supranatural』(1987)

Neuroniumの『Supranatural』は、1987年にUKでリリースされた電子音楽作品だ。バルセロナを拠点に活動してきたNeuroniumにとっては、ミシェル・ウイゲンを中心とする体制が定着した時期のアルバムで、クレジット上は Neuronium 名義ながら、実質的にはウイゲンの意志が強く反映された一枚として位置づけられる。

Neuroniumというグループ

Neuroniumは1976年に、キーボード/シンセサイザーのMichel Huygen、キーボード/シンセサイザー/ギターのCarlos Guirao、マルチ楽器奏者のAlbert Giménezによって結成された。初期にはEMI-Harvestから『Quasar 2C361』(1977年)と『Vuelo Quimico / Chemical Flight』(1978年)を発表し、その後も編成を変えながら活動を継続している。

Huygenはこのプロジェクトの音楽を「psychotronic music」「cosmic electronic music」と表現しており、少なくともプロフィール上は、電子音響を中心に据えた宇宙的なイメージの作品群として整理できる。

『Supranatural』の位置づけ

本作は1986年12月から1987年3月にかけてバルセロナで録音され、1987年6月に最終ミックスが行われた。クレジットには「Issued under licence from Michael Huygen」とあり、Neuroniumという名称がMichel Huygenの登録商標であることも記されている。つまり、この時期のNeuroniumは、グループ名でありながらHuygenの主導性が強いプロジェクトとして見えてくる。

1980年代のNeuroniumは、初期メンバーの変動を経て、HuygenとSanti Picóの組み合わせが中心になっていく流れにある。『Supranatural』もその時代の延長線上にある作品として捉えやすい。

音の印象

ジャンル表記はElectronic、スタイルはElectro、Ambient。実際の音像も、その枠組みを外れない。シンセサイザーのレイヤーを軸に、リズムを強く前面へ出すというより、音の持続や空間の広がりで聴かせるタイプの作品として受け取れる。電子音楽としての構造がはっきりしていて、派手な展開や大きな歌メロを中心に置く作りではない。

同時代のヨーロッパの電子音楽、たとえばVangelisや、よりアンビエント寄りのシンセ作品を好む文脈と並べて語られやすいタイプでもある。実際、NeuroniumはVangelisとのコラボレーション作『A Separate Affair』の存在でも知られており、1980年代のスペイン発電子音楽の流れを考えるうえで外せないグループだ。

この時期のNeuroniumらしさ

『Supranatural』では、バンドというよりも、Huygenの制作ユニットとしてのNeuroniumが前に出ている。録音地がバルセロナであること、そしてUK盤として出ていることからも、ローカルな制作環境と国際流通の両方を持った作品として見てよさそうだ。

Neuroniumのディスコグラフィーの中では、初期のEMI-Harvest期とはまた違う、より後年の成熟した電子音響の局面に置ける一枚。1980年代半ばのNeuroniumを追うなら、その流れを確認できる作品として重要な位置にある。

補足

  • 録音: 1986年12月〜1987年3月、スペイン・バルセロナ
  • 最終ミックス: 1987年6月
  • リリース: 1987年、UK盤
  • 名義: Neuronium
  • 主な表記: Electronic / Electro / Ambient

派手なヒット曲で押す作品ではなく、シンセサイザー主体の構築感をじっくり聴かせるアルバムだといえる。

トラックリスト

  • A1 – When The Goblins Invade Madrid (3:35)
  • A2 – Digitron (3:55)
  • A3 – Priorite Absolue (6:43)
  • A4 – Europe Is Europe (5:44)
  • B – Sundown At Tanah Lot (17:30)

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2026.07.03

Can – Can (1978)

Can『Can』について

Canは、1960年代末にケルンで結成されたドイツの実験音楽/ロック・バンドである。ジャキ・リーベツァイトの一定したリズム、イルミン・シュミットの鍵盤、ホルガー・シュカイの編集的なベース/テープ処理、マイケル・カローリのギターを軸に、サイケデリック・ロック、スペース・ロック、実験音楽を行き来する作風で知られる。

本作『Can』は1978年に登場した作品で、バンド名をそのまま冠したタイトル盤。レーベルや流通の事情で別名義でも出ているが、中心にあるのはCanの1980年代以前の活動をまとめる形の音源群である。録音はInner Space Studio、ミックスはベルリンのHansa-Tonstudiosで行われている。2010年盤は180グラム仕様の再発盤。

作品の位置づけ

Canのディスコグラフィの中では、1970年代後半の時期を示す一枚として見やすい。初期の強い即興性と編集感覚、リズムの反復、音の断片をつなぐ構成といった、バンドの特徴がそのまま残っている時期の記録である。

Canはクラウトロックの代表格として語られることが多く、Neu!、Faust、Amon Düül II などと並べて言及されることも多い。とはいえ、単純に同時代のドイツ産ロックというだけではなく、ロック、ファンク、ミニマルな反復、ノイズ処理、映画音楽的な場面転換が同居する点に独自性がある。

この盤で聴こえるCanらしさ

Canの音は、派手なソロや分かりやすい展開より、反復の中で少しずつズレや変化が起きる構造に特徴がある。本作でもその手触りは変わらず、リズムが前に出る場面、空間の広がりを感じる場面、断片的な歌やフレーズが差し込まれる場面が並ぶ。

実際に聴くと、演奏がきっちり固定されているというより、各パートが互いに様子を見ながら進む感じがある。ジャキ・リーベツァイトのドラムは拍を強く主張しすぎず、一定の推進力を保ちながら曲の輪郭を作る。そこにホルガー・シュカイの低音や編集的な処理が重なり、イルミン・シュミットの鍵盤が空間を埋める。ロックでありながら、曲の中心が常に少しずつ動いている印象である。

メンバーと時代背景

Canの中核は、イルミン・シュミット、ホルガー・シュカイ、ジャキ・リーベツァイト、マイケル・カローリの4人。そこにマルコム・ムーニーやダモ鈴木が加わった時期には、即興と反復のバランスがさらに際立った。1970年代後半のCanは、初期の荒さを残しつつも、より構成の意識が見える段階にある。

この時代のCanは、英国や米国のロックとは別の流れで語られることが多い。プログレッシブ・ロックのように大仰な組曲へ向かうわけでもなく、ハードロックのようにリフを前面に出すわけでもない。むしろ、反復、断片、空気感、ミックスの処理によって曲を成立させる点が重要である。

代表曲との関係

Canの代表曲としては、国際的に知られたポップ・サティア「I Want More」や、「Halleluwah」「Vitamin C」「Mother Sky」などが挙げられることが多い。本作はそうした広く知られた代表曲中心の編集盤というより、バンドの語法そのものを確認するための一枚として捉えやすい。

そのため、Canの名前だけを知っている場合でも、単発の名曲集とは違う聴き方になる。曲単位の強さより、セッション的な流れ、バンド内で共有されている反復の感覚が前面に出る。

再発盤について

2010年の盤は180グラム仕様の再発盤である。オリジナルの1978年盤とは発売時期が異なるため、音源そのものの時代と、手元にあるレコード盤の製造年は分けて見ておく必要がある。ジャケットやプレス仕様は再発盤ならではの要素で、内容面はオリジナルの作品を基にしている。

まとめ

『Can』は、Canというバンドの輪郭をそのまま示すようなタイトル盤である。クラウトロックの文脈、反復と即興のあいだを行き来する演奏、映画音楽にも通じる場面転換など、グループの核が見えやすい。

1970年代ドイツの実験ロックを知るうえで、Canの位置を確認するための一枚として整理できる内容である。

トラックリスト

  • A1 – All Gates Open (8:16)
  • A2 – Safe (8:36)
  • A3 – Sunday Jam (4:17)
  • B1 – Sodom (5:42)
  • B2 – A Spectacle (5:48)
  • B3 – E.F.S. Nr. 99 (“Can Can”) (3:16)
  • B4 – Ping Pong (0:25)
  • B5 – Can Be (3:00)

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2026.07.03

AIR – The Virgin Suicides Redux (2000)

AIR『The Virgin Suicides Redux』について

AIRは、ジャン=ブノワ・ダンケルとニコラ・ゴダンによるフランスの電子音楽デュオ。1995年の始動以来、エレクトロニカ、ロック、映画音楽の領域をまたぎながら活動してきた。この『The Virgin Suicides Redux』は、2000年に発表された映画『ヴァージン・スーサイズ』のサウンドトラックを、25周年記念盤としてあらためてまとめた2025年盤である。

原作はソフィア・コッポラ監督の長編デビュー作『The Virgin Suicides』。AIRにとっては、映画作品と強く結びついた代表的な仕事のひとつであり、バンドのディスコグラフィーの中でも、アルバム単体というより「映像のための音楽」としての存在感がはっきりした作品だ。

作品の位置づけ

『The Virgin Suicides』は、AIRが映画音楽の文脈で広く知られるきっかけになったタイトルのひとつ。以後のAIRにも通じる、空間の広いシンセ、低めのテンポ、音数を絞ったアレンジが中心で、作品全体を通して「劇伴として機能すること」と「単独のアルバムとして聴けること」の両方が意識された作りになっている。

2000年当時のAIRは、同時代のフレンチ・エレクトロニックの流れの中でも、ダフト・パンクのようなダンス寄りの方向性とは少し異なり、ブライアン・イーノ、ヴァンゲリス、クラフトワーク、あるいは映画音楽の系譜に近い耳で語られることが多かった。『The Virgin Suicides』も、その文脈でとらえやすい一枚である。

サウンドの特徴

この作品では、シンセサイザーを軸にした旋律、控えめなビート、空気を含んだ鍵盤音、ロックの編成を思わせる要素が、かなり整った形で並ぶ。ジャズやフューチャー・ジャズ、アンビエントといったタグが付くのも、音の隙間やコード感、リズムの置き方に理由がある。派手な展開で引っ張るというより、同じ温度のまま場面を切り替えていく印象が強い。

映画音楽としては、登場人物の心理や郊外の空気感を説明しすぎず、画面の外側にある余白を埋める役割が大きい。アルバムとして聴くと、短い曲がつながりながら一つの流れを作っていく構成で、曲ごとの主張より、全体の距離感が前に出る。

今回の2025年盤について

2025年盤は「New Analog Mix – 25th Anniversary Edition」として案内されている。オリジナルの2000年盤と比べると、単なる再発ではなく、アナログ・ミックスを前面に出した記念盤という位置づけになる。印刷されたインナー・スリーブが付属し、ドイツで印刷・製造された盤であることも明記されている。

クレジット面では、インナー・スリーブにドラムの表記ミスがあること、またランアウト部の「1+」と「V=」が鏡像になっていることが記録されている。こうした点も、再発盤ならではの細かな特徴である。

聴きどころとして目に入る曲

『The Virgin Suicides』では、映画の中で使われた楽曲や、作品全体の印象を決定づけるモチーフがいくつか知られている。中でも、バンドの代表作として語られやすいのは、アルバム全体の空気を象徴するような曲群で、サウンドトラックでありながら、AIRらしいメロディの見え方がはっきりしている点が特徴だ。

ただし、この作品はシングルヒットで押すタイプではなく、1曲ごとの知名度よりも、アルバム全体の統一感で記憶される作品である。

まとめ

『The Virgin Suicides Redux』は、AIRが映画音楽の領域で残した代表的な作品『The Virgin Suicides』を、25周年記念盤として再提示した2025年のアナログ盤。2000年のオリジナルが持っていた、静けさ、郊外的な距離感、シンセ主体の劇伴性はそのままに、再発盤としての仕様が加わった一枚である。

AIRのディスコグラフィーをたどるうえでも、ソフィア・コッポラ作品との関係をたどるうえでも、重要な位置にあるタイトルと言える。

トラックリスト

  • A1 – Playground Love (3:32)
  • A2 – Clouds Up (1:30)
  • A3 – Bathroom Girl (2:26)
  • A4 – Cemetary Party (2:36)
  • A5 – Dark Messages (2:29)
  • A6 – The Word ‘Hurricane’ (2:31)
  • A7 – Dirty Trip (6:14)
  • B1 – Highschool Lover (Theme From The Virgin Suicides) (2:40)
  • B2 – Afternoon Sister (2:24)
  • B3 – Ghost Song (1:58)
  • B4 – Empty House (2:57)
  • B5 – Dead Bodies (2:59)
  • B6 – Suicide Underground (5:54)

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2026.07.02

Three Angry Poles – Motorcycle Maniac (1986)

Three Angry Poles / Motorcycle Maniac(1986)

Three Angry Polesの「Motorcycle Maniac」は、1986年にベルギーで出た作品です。メンバーはLuc Van Acker、Jean-Marc Lederman、Didier Moensの3人。Electronicを軸に、EBMとElectroの感触を持つ、80年代中盤のベルギーらしい一枚として見ておきたい作品です。

作品の輪郭

タイトルからも分かる通り、バイクや速度感を連想させる語感を持つ作品ですが、内容は単なる勢い頼みではなく、当時の欧州エレクトロ/EBMの文脈にある、機械的なリズムと直線的なビートが前面に出た作りです。ベルギーはこの時期、Front 242をはじめとするEBMの重要な産地として知られていて、この作品もその空気の中に置くと見えやすいです。

Luc Van Ackerはベルギーのエレクトロ/インダストリアル周辺で知られる人物で、Jean-Marc Ledermanも同じく80年代ベルギーのシーンで存在感を持つミュージシャンです。3人の名前が並ぶだけでも、当時のローカルな実験性とクラブ向きの硬さが同居するイメージが立ちます。

音の特徴

この時代のEBMらしく、打ち込みの反復、乾いたシンセ音、ベースの押し出しが核になっているタイプです。メロディを大きく歌い上げるというより、リズムの反復と音色の質感で引っ張る方向性。Electroの要素もあるので、完全に無機質へ寄り切るというより、フックのあるビート感が残るのもポイントです。

聴感としては、ロックのバンド編成よりも、クラブやダンスフロアを意識した設計に近い印象を持ちやすい作品です。ギターの主張で押すのではなく、シーケンスとドラムマシンの推進力で前へ進む感じ。80年代半ばのベルギー製ダンス・エレクトロの空気がそのまま残っているような手触りです。

同時代の文脈

1986年という時期は、EBMがひとつの形式として固まりつつあった頃です。Front 242、The Neon Judgement、Nitzer Ebbのような名前が思い浮かぶ時代で、Three Angry Polesもその周辺にある作品として整理しやすいです。とはいえ、彼らは大きなアルバム作品で知られるというより、ベルギーのシーンの中で短く鋭い存在感を残すタイプのプロジェクトとして見られます。

その意味では、「Motorcycle Maniac」は、当時のEBM/Electroの最前線にある、ベルギー産の1枚として位置づけられる作品です。クラブ、シンセ、機械的反復というキーワードでつながる時代性がはっきりしています。

リリース時のポイント

この作品には「Dedicated to the spirit of Ecstasy.」というリリースノートが付いています。スピードや移動のイメージを呼び込む一文で、タイトルとあわせて作品全体のイメージを補強している形です。レコードとしては1986年当時の空気をそのまま抱えた初出作品として見るのが自然です。

まとめ

「Motorcycle Maniac」は、1986年のベルギー産Electronic作品として、EBMとElectroの交差点に置きやすい一枚です。Three Angry Polesという名義のもと、Luc Van Acker、Jean-Marc Lederman、Didier Moensの3人が、80年代中盤の機械的なダンス音楽の感覚を凝縮した作品、と捉えられます。

ベルギーEBMの文脈に触れるときに、Front 242などと並べて見たくなるタイプのタイトルです。

トラックリスト

  • A – Motorcycle Maniac (4:43)
  • B1 – It’s All Over (3:59)
  • B2 – 5 A.M. (3:51)

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2026.07.02

Liquid Liquid – Remixes (1998)

Liquid Liquid『Remixes』について

Liquid Liquidは、1980年代前半のニューヨーク地下シーンを代表するバンドのひとつで、99 Recordsから活動を広げたグループだ。本作『Remixes』は1998年に登場したタイトルで、バンドの既発曲を別の形で捉え直した内容として位置づけられる。Liquid Liquidといえば、〈Cavern〉が後年ヒップホップ文脈でも語られる存在で、Grandmaster Flash & The Furious Fiveの〈White Lines〉との関連でも名前が挙がることが多い。

Liquid Liquidというバンドの輪郭

このバンドは、最初から現在よく知られる形だったわけではない。もともとは別名義でより実験的な音を鳴らしていたが、Liquid Liquidとして再編されると、打楽器を軸にしたリズム主体のスタイルへ寄っていく。観客にパーカッションを持ち寄ってもらうようなライブもあったとされ、その中でDennis Youngがマリンバを持ち込んだことをきっかけに加入したというエピソードも残っている。こうした経緯から、彼らの音はロックのバンド編成というより、パーカッション・アンサンブルに近い感触を持つ。

『Remixes』の内容と聴こえ方

タイトルどおり、元曲の構造を別角度から見せる作品として受け取れる一枚だ。Liquid Liquidの元来の持ち味である反復、細かい打撃音、ベースの粘りが前面に出やすく、ダンス・ミュージックと実験性のあいだを行き来するバンドの性格が見えやすい。メロディを追うというより、リズムの配置や音の間を聴くタイプの内容で、同時代のポストパンクや初期ヒップホップの周辺にあった空気ともつながる。

実際に聴くと、音数そのものは多くなくても、各パートの入り方と抜け方にかなり意識が向く。マリンバ、ベース、ドラム、ヴォーカルがそれぞれ別の役割を保ちながら、全体としては推進力を作る形だ。派手に展開するというより、同じフレーズを少しずつずらしていく感覚が目立つ。そうした作りは、後のブレイクビーツやインディー・ダンス系の耳にもつながりやすいだろう。

代表曲との関係

Liquid Liquidを語るうえで避けて通れないのが〈Cavern〉だ。本作でも、グループを象徴するあの鋭いリズム感や反復の設計が重要な要素として残る。〈White Lines〉の件で広く知られるようになったことで、彼らは「サンプリング元」として語られがちだが、元の音源を聴くと、単なる素材以上に独特のバンド感がある。そこがこのグループの面白さだと思う。

同時代の文脈

Liquid Liquidは、ESGやBush Tetras、Materialあたりと並べて語られることが多いタイプの存在だ。ニューヨークのダウンタウン・シーンの中で、ロック、ファンク、ダブ、初期ヒップホップの要素が交差していた時代のバンドとして見ると、輪郭がつかみやすい。いわゆるギター主体のロックとは少し違い、リズムの切り方や音の空間の使い方に重心がある。

盤としての情報

この盤はUKリリースで、ダイカット仕様のスリーブという点も特徴になっている。1998年時点の作品として、80年代初期のオリジナル活動をそのまま並べるというより、後年の視点でLiquid Liquidの音を再確認する意味合いが強い。

Liquid Liquidの作品群の中では、バンドの核にある反復とパーカッシブな感覚を、比較的わかりやすく示す一枚として捉えられる。ヒップホップ史の文脈でも、ポストパンクの文脈でも名前が出てくる理由が、音の作り方から伝わる内容だ。

トラックリスト

  • A – Cavern (The Cut Chemist Rocks A Rave In A Missile Silo Remix)
  • B – Scraper (Psychonauts Remix)

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2026.07.02

Of Montreal – Jon Brion Remix EP (2009)

Of Montreal『Jon Brion Remix EP』について

『Jon Brion Remix EP』は、Athens, Georgia出身のOf Montrealによる2009年の作品。バンドの中心人物であるKevin Barnesを軸に、初期は60年代ポップやサイケデリックの感触を通し、後年はエレクトロニカ、ファンク、グラム、アフロビートまで取り込んでいく、このバンドの変化がよく知られている。その流れの中にある1枚がこのEPだ。

ジャンル表記はElectronic、Rock、Pop。スタイルとしてはArt Rock、Pop Rock、Experimentalに置かれている。タイトルからもわかる通り、Jon Brionによるリミックスを中心にした内容で、Of Montrealの楽曲を別の切り口から聴かせる作品として位置づけられる。

作品の位置づけ

2009年のOf Montrealは、もともとのインディー・ポップ/サイケ寄りの感覚に加えて、より広い編成感や加工の強いサウンドへと進んでいた時期。そうした時代の流れの中で出たこのEPは、バンドの原曲をそのまま並べるのではなく、Jon Brionの手つきで再構成された音像を味わうタイプのリリースになっている。

Polyvinyl Record Companyのカタログでは、この作品は「An Eluardian Instance EP」としても参照されている。作品名の扱いに揺れがある点は、レーベル資料を追ううえで目に入る情報だ。

Of Montrealというバンドの文脈

Of MontrealはKevin Barnesのプロジェクトとして語られることが多いバンドで、メンバーの入れ替わりが多いことでも知られる。提示されているメンバー一覧からも、その流動性が見えてくる。Derek Almstead、Julian Koster、Dottie Alexander、K Ishibashi、Jojo Glidewellら、多彩な演奏家が関わってきた。

音楽的には、初期のポップ・サイケ路線から、PrinceやDavid Bowieを思わせる要素を取り込んだ時期まで幅がある。2000年代後半のインディー・ロック界では、同じくアート性の高いポップを扱うアーティストとして、Animal CollectiveやThe Fiery Furnacesのような名前と並べて語られることもあった流れ。

聴きどころ

リミックスEPという形式上、ここでの聴きどころは楽曲そのものの展開よりも、元の曲がどのように切り分けられ、別の質感に置き換えられているかという点にある。Jon Brionは、映画音楽やプロデュースでも知られる人物で、細かな音の配置や和声の扱いに特徴がある。その手癖がOf Montrealの楽曲に入ることで、原曲の輪郭が少しずつずらされるタイプの作品になっている。

Of Montrealの代表曲という文脈でいえば、この時期は『Hissing Fauna, Are You the Destroyer?』の流れが大きく、そこから派生する作品群のひとつとして見ると整理しやすい。バンドのコアなファンにとっては、アルバム本編とは違う角度で曲を確認できる資料的な意味合いもあるだろう。

まとめ

『Jon Brion Remix EP』は、2009年のOf Montrealを、Jon Brionのリミックスという形で切り取った1枚。アート・ロック寄りの構成感と、ポップな手触りが同居するバンドの性格が、そのまま別の編集で見えてくる作品だ。作品名の扱いに別表記がある点も含めて、Of Montrealのカタログを追ううえで押さえておきたいEPといえる。

トラックリスト

  • A1 – First Time High (Reconstructionist Remix Of “An Eluardian Instance”) (4:03)
  • A2 – First Time High (Of Chicago Acoustic Version) (4:34)
  • B1 – Gallery Piece (JB Remix) (3:54)
  • B2 – Gallery Piece (Long Version) (8:16)
  • B2 – Gallery Piece (Instrumental) (3:54)
2026.07.01

Jasun Martz – The Pillory (1978)

Jasun Martz『The Pillory』について

Jasun Martzは、US出身の画家・彫刻家・ミュージシャンとして知られる人物で、音楽ではオーケストラや合唱を用いた大編成の作品でも活動している。『The Pillory』は、1978年に制作された作品として位置づけられるアルバムで、電子音楽と現代音楽のあいだを行き来するような性格を持つ。盤としては1981年のリリース。録音、ミックス、マスタリングまでロサンゼルス周辺とロンドンで行われており、USの作家が国際的な制作環境を使って仕上げた作品という見え方になる。

制作クレジットと録音環境

レコーディングは California Recording Studios(Hollywood)、Riverside Recordings(London)、Neoteric Recording Studios(Los Angeles)で行われている。ミックスは California Recording Studios、マスタリングは Burbank の L.R.S.。さらに、作曲・スコア作成・リハーサルは、カリフォルニアの「The Village」やロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドンの拠点で進められたと記されている。作品全体が、単独のスタジオ録音というより、複数都市をまたいだ制作体制の中で組み上げられたものだとわかる。

カバーには「The Pillory」のために特別に描かれたドローイングが使われている。視覚表現も含めて作家性を強く打ち出すタイプの作品と見てよさそうだ。

音楽性と聴きどころ

ジャンル表記は Electronic、Classical、スタイルは Modern Classical、Experimental。実際の内容も、ロック的な歌ものというより、構成と音色の変化を中心に聴かせるタイプの作品として捉えられる。Martz のほかの活動歴から見ても、合唱やオーケストラを扱う設計と親和性が高い。電子音の質感だけで押し切るのではなく、現代音楽寄りの書法やアンサンブルの重なりを含んだ作りが想像しやすい。

この時代のUSの実験音楽、現代音楽、電子音楽の周辺では、Morton Subotnick や Terry Riley、さらに欧州の電子音楽やコンテンポラリー・クラシカルの流れとも接点を持つ聴かれ方をしやすい。『The Pillory』も、そのあたりの文脈に置くと輪郭がつかみやすい作品だろう。とはいえ、単純なミニマル作品や純粋電子音楽に収まるわけではなく、編成の大きさや構成の意識が前面に出るあたりに特徴がある。

アーティストにとっての位置づけ

Jasun Martzは、視覚芸術と音楽の両方で活動してきたアーティストで、この作品もその多面的な作家性を示す一枚として見やすい。後年の合唱・オーケストラ系プロジェクトを含む活動を踏まえると、『The Pillory』は、電子音響とクラシカルな書法を結びつける方向性を早い段階で示した作品のひとつといえる。

まとめ

『The Pillory』は、1978年の制作を背景に持つ、Jasun Martz の初期代表作として押さえやすいアルバム。USのアーティストが、ロサンゼルスとロンドンを結ぶ制作環境の中で、電子音楽と現代音楽の接点を探った作品として整理できる。派手なヒット曲で知られるタイプではなく、作品全体の構成と音の配置で聴かせる一枚だ。

トラックリスト

  • A – The Pillory (21:53)
  • B – The Pillory (22:27)

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2026.06.29

Tangerine Dream – Atem (1973)

Tangerine Dream『Atem』(1973)レビュー

Tangerine Dreamの『Atem』は、1973年にUKで発表された4作目のアルバムである。のちに「ベルリン・スクール」と呼ばれる電子音楽の流れを強く印象づける前段階にあり、シンセサイザー主体へ移る直前の、より実験色の濃い時期を映した作品でもある。初期Tangerine Dreamの中では、ロックのバンド感よりも、音そのものの配置や持続、空間の扱いに意識が向いた一枚という位置づけが見えてくる。

作品の位置づけ

1973年のTangerine Dreamは、Edgar Froese、Christopher Franke、Peter Baumannを中心に、電子楽器を軸とした独自の方向へ進みつつあった時期である。前年までのより即興的で生々しいサウンドから、のちの『Phaedra』で決定的になるシーケンサー主体の形へ向かう途中にあり、『Atem』はその過程に置かれている。UK盤として出たことも含め、当時の英国プログレッシブ・ロック、あるいは実験音楽の文脈で受け止められた作品といえる。

レーベル面では「Cosmic Couriers」の作品として扱われている。Tangerine Dreamの初期作品群に通じる、ジャーマン・エクスペリメンタルの空気を持った一枚である。

音の特徴

『Atem』の中心にあるのは、曲の展開をはっきり示すというより、音の断片や持続音、打楽器的な要素を組み合わせていく構成である。電子音の冷たさだけで押し切るのではなく、フレーズの間に余白があり、音響の動きがゆっくりと変わっていく。

この時期のTangerine Dreamは、後年の「整った電子音楽」という印象とは少し異なり、もっと手触りのある演奏感を残している。キーボード、フルート、パーカッション、テープ操作のような要素が混ざることで、曲ごとに輪郭が変わるのが面白いところである。ロックバンドとしての推進力より、スタジオでの実験と即興の記録という性格が前に出る。

同時代との関係

同時代のドイツ音楽では、CanやAmon Düül II、Ash Ra Tempel、Faustなどがそれぞれ異なる方法でロックと実験を結びつけていた。Tangerine Dreamはその中でも、より電子音響の側へ寄っていく立場で、のちのクラウトロック/電子音楽のイメージ形成に大きく関わることになる。

『Atem』は、そうした潮流の中でも、まだ「曲」より「場」の感覚が強い。後年のテクノやアンビエントに接続されるような反復感は、ここではまだ輪郭段階にあり、むしろ音の発生そのものを追っている印象である。

アルバム内で注目される点

この作品では、タイトル曲「Atem」がアルバムの核として語られることが多い。静かな導入から徐々に音の層が重なっていく流れがあり、初期Tangerine Dreamの方法論を端的に示す楽曲である。派手なフックで押すタイプではないが、アルバム全体の方向をつかむ入口になっている。

また、ジャケットと音像の結びつきも強い作品で、当時のTangerine Dreamらしい内省的な空気がそのままパッケージされている。視覚と音の両方で、1973年のバンドの位置が見える構成である。

聴きどころの整理

  • シンセサイザー主導へ移る直前の初期Tangerine Dreamの記録
  • 即興性と音響実験の比重が大きい構成
  • のちの『Phaedra』につながる前史としての面白さ
  • クラウトロック、英国プログレ、実験音楽の交点にある作品

まとめ

『Atem』は、Tangerine Dreamが後年に確立するシーケンサー主体のスタイルに到達する前、電子音楽の可能性を手探りで広げていた時期を示すアルバムである。1973年という時点で、すでにこのバンドがロックの枠外へ踏み出していたことがよくわかる内容で、初期作品群の中でも過渡期の重要作として位置づけられる。

派手な代表曲で覚えるタイプのアルバムではないが、Tangerine Dreamの原点をたどるうえで外せない一枚である。

トラックリスト

  • A – Atem (20:25)
  • B1 – Fauni-Gena (10:43)
  • B2 – Circulation Of Events (5:49)
  • B3 – Wahn (4:31)

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2026.06.28

Diana Ross – Ross (1983)

Diana Ross『Ross』(1983)について

Diana Rossの『Ross』は、1983年にリリースされた14作目のソロ・スタジオ・アルバムである。録音は1982年から1983年にかけて行われ、USでは1983年6月9日にMotownから発売された。ソロ転向後のDiana Rossが、80年代前半のポップ/R&B路線をそのまま反映した一枚として位置づけられる作品だ。

作品の輪郭

この時期のDiana Rossは、60年代のThe Supremesでの成功を経て、ソロ・アーティストとして長く活動を続けていた。『Ross』は、そのソロ期の中でも1980年代のシンセサイザー主体のサウンドを前面に出したアルバムで、Electronic、Funk / Soul、Popの要素を持ち、スタイルとしてはSynth-pop、Soul、Discoにまたがる内容である。

タイトルがそのまま自身の名前である点も印象的で、アーティスト名を冠した作品らしく、当時のDiana Rossの現在形を示す役割を持つアルバムと見られる。Motown期のディスコ・イメージを引き継ぎつつ、80年代らしい打ち込みやシンセの質感が加わった時代性のある仕上がりである。

サウンドと聴きどころ

このアルバムでは、リズムの輪郭がはっきりしたトラックと、艶のある歌声の組み合わせが軸になる。Diana Rossのボーカルは、前に出すぎず、それでも曲の中心を外さないタイプで、ソウルやダンス寄りの曲でもポップ・シンガーとしての明瞭さが保たれている。

1983年という年を考えると、同時代にはMichael JacksonやWhitney Houstonの大ブレイク前夜の空気があり、R&Bとポップの境界がより近づいていた。『Ross』もその流れの中にある作品で、ディスコ以後のダンス・ミュージックとポップ・アルバムの接点に置かれる一枚といえる。

作品の位置づけ

Diana Rossのキャリアの中では、ソロ・アルバムを継続して重ねていた時期の作品であり、80年代の音像へ自然に移行していく過程を示すアルバムでもある。1970年代のディスコ時代に強い印象を残した彼女が、その後の時代にどう対応していたかを知るうえで、ひとつの手がかりになる。

なお、この盤はSterling SoundでTed Jensenによってマスタリングされている。フロント・カバーにはエンボス加工のタイトル表記がある点も、物理メディアとしての存在感を持たせる要素である。

ヒット曲・代表曲について

『Ross』については、アルバム全体の流れを追う聴き方がしやすい作品で、シングル単位の強い記憶だけで語るタイプというより、80年代初頭のDiana Ross像をまとめて示す内容として捉えやすい。ソロ・キャリアの中で、ダンス・ポップとソウルの接点を確認できるアルバムである。

まとめ

『Ross』は、Diana Rossのソロ・キャリアの中で1983年という時代の空気をはっきり映した作品である。Motownの伝統を背にしつつ、当時のポップ/R&Bの音作りへ寄せたアルバムとして、1980年代前半の彼女の立ち位置を知るには見やすい一枚だ。

トラックリスト

  • A1 – That’s How You Start Over (4:09)
  • A2 – Love Will Make It Right (4:44)
  • A3 – You Do It (4:31)
  • A4 – Pieces Of Ice (4:54)
  • B1 – Let’s Go Up (4:01)
  • B2 – Love Or Loneliness (4:17)
  • B3 – Up Front (3:56)
  • B4 – Girls (3:58)

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2026.06.28

Latitude – 40° North (1987)

Latitude『40° North』について

Latitudeの『40° North』は、1987年に登場した作品。アーティストはUSAとカナダにまたがるクレジットで、メンバーはCraig PeytonとBen Verderyの2名。ジャンル表記はElectronic、Folk、World、& Country、スタイルはNew Ageとなっている。タイトルからも伝わる通り、地理や方角のイメージを持った作品名で、内容もそうした広がりを感じさせる流れになっている。

作品の位置づけ

1980年代後半のNew Age周辺の作品として見ると、シンセサイザーを中心にした音作りと、アコースティック楽器の質感を組み合わせた流れの中にある1枚。Craig PeytonとBen Verderyという2人の名前が前面に出ている点からも、演奏を軸にした作品として受け取れる。電子的なレイヤーとフォーク寄りの響きが並ぶ構成で、当時のNew Age作品に見られる整った音の配置が印象に残るタイプ。

聴きどころ

実際に耳を傾けると、音の立ち上がりが急ではなく、ひとつひとつの音が前に出すぎない作りが目につく。ギターの輪郭と電子音の背景が分かれすぎず、同じ空間に収まっている感じがある。派手な展開で押すより、音色の重なりと余白で進む作りで、長めに聴いても流れが崩れにくい印象。New Age作品にありがちな“雰囲気だけ”に寄りすぎず、演奏の手触りが残るところがこの盤の特徴といえそうだ。

1987年という時代感

1987年は、シンセサイザーやクリーンな録音が広く浸透していた時期でもあり、New Ageやインストゥルメンタル作品が一定の存在感を持っていた時代。『40° North』も、その流れの中で、電子音を使いながらもアコースティックな要素を残す作りになっている。周辺ジャンルの作品と比べると、同時代のスムーズなシンセ主体の作品よりも、楽器の音そのものを聴かせる側に寄っているように感じられる。

盤としての情報

この盤はUSAとカナダでリリースされた作品で、盤面の表記としては「Printed and manufactured in Canada」とある。1987年のオリジナル期のリリースとして扱える1枚。北米圏で流通したタイトルらしい仕様で、印刷・製造がカナダという点も当時のプレス事情を反映している。

総じて

『40° North』は、電子音とアコースティック楽器の接点に置かれた1987年のNew Age作品。Craig PeytonとBen Verderyの演奏を軸に、音の流れと質感を重視した作りが見える。大きなヒット曲を前面に出すタイプではなく、アルバム全体のまとまりで聴かせる内容。時代の空気と演奏中心の設計、その両方が見える一枚。

トラックリスト

  • A1 – Trust (6:23)
  • A2 – Al Campo De Paco (6:07)
  • A3 – She Slowly (5:30)
  • A4 – There’s A Hole In The Ozone (5:01)
  • B1 – 40° North (3:59)
  • B2 – The Champ (5:19)
  • B3 – Pilot (5:42)
  • B4 – Partial Recall (4:43)
  • B5 – Mombasa (5:11)

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2026.06.28

Jerry Goodman – On The Future Of Aviation (1985)

Jerry Goodman『On The Future Of Aviation』について

Jerry Goodmanは、アメリカ・シカゴ出身のヴァイオリニスト/ギタリスト。Mahavishnu Orchestraの初期メンバーとして知られ、フュージョン以降の文脈でもよく語られる人だ。そうした経歴を踏まえると、『On The Future Of Aviation』は、彼の演奏技術を前面に出しつつ、エレクトロニックな要素とロックの輪郭を組み合わせた1985年の作品として位置づけられる。

この作品は1985年に発表されたタイトルで、日本盤も同年リリース。帯と、日本語のトラックリストおよびライナーノーツを収めたインサートが付属する仕様になっている。日本で流通した盤として、当時の国内向けの体裁がきちんと整えられている点も特徴だ。

作品の印象

このアルバムは、ジャズ・ロック的な切れ味だけで押し切るタイプというより、音の空間や余韻を意識した作りが目につく。タイトルから受けるイメージどおり、直線的に進むというより、飛行する感覚、浮遊する感覚に寄った組み立て。Jerry Goodmanのヴァイオリンは、旋律をなぞるだけでなく、音色そのものを聴かせる役割も担っているように感じられる。

エレクトロニックとロック、そしてアンビエントの要素が重なることで、演奏の密度が高い場面でも、音がむやみに混み合わない。1980年代半ばという時期を考えると、フュージョンの語法を土台にしながら、よりシンセサイザー寄りの質感へ視線を向けた作品として見えてくる。

Jerry Goodmanという人物の流れの中で

Jerry Goodmanは、もともとアコースティックなヴァイオリン奏者として出発しながら、Mahavishnu Orchestraでエレクトリックなロックの現場に入っていった経歴を持つ。そこから考えると、『On The Future Of Aviation』は、技巧派ヴァイオリニストというだけでなく、ロックと電子音響のあいだを行き来する表現者としての側面が出やすい時期の作品と見ることができる。

同時代の文脈では、フュージョンやプログレッシブ・ロックの周辺で、シンセサイザーや空間処理を取り入れた作品が増えていた。そうした流れの中で、ヴァイオリンを主役に置いたインストゥルメンタル作品として耳に入るはずだ。

内容面での注目点

  • 1985年作品としての発表
  • Jerry Goodmanのヴァイオリンを軸にしたインストゥルメンタル性
  • Electronic、Rock、Ambientの要素が並ぶ構成
  • 日本盤は帯付き、和文ライナー付き

なお、ヒット曲や広く知られた代表曲として語られるタイプの作品というよりは、アルバム全体の流れで聴かれる性格が強い。曲単位での派手な知名度より、全体の音像や演奏の配置に目が向く一枚という印象だ。

まとめ

『On The Future Of Aviation』は、Jerry Goodmanの演奏家としてのキャリアを踏まえると、フュージョン以後の表現を電子的な質感とともに整理した作品として見やすい。1985年という時代の空気、そして日本盤に添えられた帯や日本語ライナーも含めて、当時のリリースとしてのまとまりがある一枚だ。

トラックリスト

  • A1 – On The Future Of Aviation (6:36)
  • A2 – Endless November (8:40)
  • A3 – Outcast Islands (6:34)
  • B1 – Orangutango (6:26)
  • B2 – Waltz Of The Windmills (5:50)
  • B3 – Sarah’s Lullaby (5:42)

関連動画

2026.06.28