Kate Bush – The Kick Inside (1978)
Kate Bush『The Kick Inside』について
Kate Bushのデビュー・スタジオ・アルバムが、1978年2月17日に発売された『The Kick Inside』だ。前年にシングル「Wuthering Heights」で一気に注目を集めたKate Bushの、最初のフル・アルバムとして位置づけられる作品である。ロックやポップの枠に収まりきらない曲作りと、物語性の強い歌詞が早い段階から表れている1枚。
この時点のKate Bushはまだ19歳。デビュー作でありながら、すでに作家性が強く、一般的な英米ポップスとは少し違う感触を持っている。のちの長いキャリアの出発点として見ると、声の使い方、曲の展開、言葉の運び方など、すでに本人の個性がはっきりしている作品だ。
作品の位置づけ
Kate Bushは、David Gilmourに才能を見出されてEMIと契約した経緯でも知られる。『The Kick Inside』は、その背景から生まれたデビュー作であり、当時の英国シーンの中でもかなり異色の存在だった。プログレッシブ・ロック周辺の流れや、シンガー・ソングライター的な文脈とも接点があるが、どちらにも完全には回収されない独自性がある。
同時代の英国ポップを思い浮かべると、緻密なアレンジと強い歌唱で押し切るタイプの作品として受け取られやすい。とはいえ、単に技巧的というより、曲ごとに情景や人物像を描く方向が目立つアルバムだ。
代表曲とアルバム内の流れ
このアルバムを語るうえで外せないのが「Wuthering Heights」だ。1978年にシングルとして発売され、複数国で1位を記録した代表曲である。高い声のフレーズと、エミリー・ブロンテの小説『嵐が丘』を下敷きにした歌詞が印象的で、Kate Bushの名を広く知らしめた。
ほかにも「The Man With The Child In His Eyes」や「The Kick Inside」など、後のKate Bush像につながる曲が並ぶ。ピアノを軸にした曲でも、ただ静かにまとめるのではなく、声の表情やフレーズの切り替えで曲の景色を変えていく作りが目立つ。
収録曲全体を見ると、シングルで強く押し出された曲と、アルバム単位で流れを作る曲が同居している。デビュー作らしいまとまりと、すでに個人作家としての輪郭が出ている両方の印象がある。
日本盤について
日本盤は、欧米盤とはフロント・カバーが異なる仕様になっている。さらに帯付きで、2面のインサートには写真、曲目、和文バイオグラフィー、歌詞の日本語訳が付属する。内袋もポリエチレン製のU字型タイプという、当時の国内盤らしい丁寧な作りだ。
日本盤では、帯に「Angel and Devil」という別タイトルが使われている点も特徴的である。盤面の表記では「Strange Phenomena」が「Strange Phenemena」となっている誤記が知られている。
聴きどころ
実際に聴くと、まず声の存在感が大きい。音数を詰め込むよりも、フレーズの間合いで引っ張る場面が多く、歌そのものが曲の中心にある。ピアノ、ギター、リズム隊の配置は比較的明快だが、その上で旋律が予想外の方向へ動くことがある。
アルバム全体は、のちの大作志向や実験性の強い作品ほど複雑ではない。けれど、すでに「曲の中で物語を進める」感覚ははっきりしていて、デビュー作でここまで輪郭があるのはかなり印象的だ。
まとめ
『The Kick Inside』は、Kate Bushの出発点であり、代表曲「Wuthering Heights」を含む初期の核となる作品だ。1978年の英国ポップ/ロックの中でも、声、曲、言葉の結びつきが独特で、後の長いキャリアを見通せる内容になっている。日本盤はジャケットや付属物も含めて、オリジナル盤との違いがはっきりした一枚である。
トラックリスト
- A1 – Moving (3:06)
- A2 – The Saxophone Song (3:47)
- A3 – Strange Phenomena (2:53)
- A4 – Kite (2:58)
- A5 – The Man With The Child In His Eyes (2:39)
- A6 – Wuthering Heights (4:29)
- B1 – James And The Cold Gun (3:35)
- B2 – Feel It (3:00)
- B3 – Oh To Be In Love (3:17)
- B4 – L’Amour Looks Something Like You (2:25)
- B5 – Them Heavy People (3:04)
- B6 – Room For The Life (4:03)
- B7 – The Kick Inside (3:34)
Robert Wyatt – Shipbuilding / Memories Of You / Round Midnight (1982)
Robert Wyatt『Shipbuilding / Memories Of You / Round Midnight』について
Robert Wyattの1982年の7インチ・シングル。収録曲は「Shipbuilding」「Memories Of You」「Round Midnight」の3曲で、UK Rough Tradeから出た作品です。Robert WyattはSoft Machineの創設メンバーとして知られ、その後はソロでも、ジャズやロックの境界をまたぐ作品を続けてきた人。このシングルも、その流れの中にある一枚です。
作品の位置づけ
1982年といえば、Wyattのソロ活動がかなりはっきりした輪郭を持っていた時期です。Soft Machine以後のキャリアの中でも、彼はジャズ、ポップス、カバー曲、政治性のある楽曲を自然に並べていくタイプで、このシングルもそうした持ち味がよく出ている一枚です。特に「Shipbuilding」は、彼の代表曲としてよく挙げられる楽曲で、Robert Wyattの名前を広く印象づけた曲のひとつと言えます。
収録曲
- Shipbuilding
- Memories Of You
- Round Midnight
「Shipbuilding」は、戦争と造船業を結びつけた内容の曲として知られ、落ち着いた歌唱と、曲の持つ冷たい手触りが印象に残る曲です。Robert Wyattらしい、感情を大きく押し出しすぎない歌い方が曲の内容と合っています。
「Memories Of You」はスタンダード寄りの曲想で、Wyattの声の細い響きが前に出るタイプの楽曲。「Round Midnight」はセロニアス・モンクで有名なジャズ・スタンダードで、Wyattがこの時期にジャズの語法を自分のポップス感覚の中へ取り込んでいたことがわかる選曲です。
サウンドの印象
全体としては、派手に展開するタイプではなく、音数を絞った中で曲の輪郭を見せる作りです。Robert Wyattの声は、強く張るというより、言葉の意味やメロディの線をそのまま運ぶ感じがあるので、この手の楽曲では特に存在感がある。ジャズ・ロックやアート・ロックの文脈で語られるのも納得できる内容です。
ジャケットと盤の仕様
1982年のオリジナル盤は、赤ラベルの盤として知られています。ジャケットにはStanley Spencerの絵画《Shipbuilding On The Clyde : Riveters》の一部が使われており、造船所の労働を描いたイメージが「Shipbuilding」というタイトルときれいに結びついています。レーベル表記ではA面が「A Clangwinstello Production」となっています。
なお、1983年には複数の別スリーヴによる再発も出ていますが、1982年盤はその前の初期仕様。赤いラベルの盤と、のちの再発との違いがある点は、このシングルのコレクション面でよく話題になります。
同時代の文脈
Robert Wyattの1980年代前半の仕事は、単なるプログレの延長ではなく、もっと歌もの寄りの感覚と、ジャズや室内楽的な響きが混ざったものとして受け取られやすいです。Rough Tradeからのリリースという点も含めて、当時の英国インディー/オルタナティブの空気とも接続している作品です。John CaleやChris Cutler周辺の、政治性や実験性を持ちながらも曲として成立させる系譜と並べて語られることもあります。
まとめ
『Shipbuilding / Memories Of You / Round Midnight』は、Robert Wyattの代表曲「Shipbuilding」を軸に、ジャズ・スタンダードも並べた1982年のシングル。Soft Machine以後のWyattが、ロック、ジャズ、ポップスを自分の声でつないでいく、その感触がよく出た一枚です。ジャケット、選曲、歌唱のまとまりが強く、Robert Wyattというアーティストの輪郭をつかむうえで重要な作品のひとつと言えます。
トラックリスト
- A – Shipbuilding
- B1 – Memories Of You
- B2 – Round Midnight
関連動画
Tim Bowness – Powder Dry (2024)
Tim Bowness『Powder Dry』について
Tim Bownessの『Powder Dry』は、2024年に登場した作品。No-Manの中心人物として知られるTim Bownessが、ソロ名義であらためて自分の音楽をまとめた一枚で、アート・ロックとプログレッシブ・ロックの流れの中に置ける内容になっている。
Tim Bownessは、Porcupine TreeのSteven Wilsonと組んだ長期プロジェクトNo-Manで広く知られる存在だが、ソロや客演でも活動の幅を広げてきたアーティスト。この『Powder Dry』も、その経歴が反映された作品で、バンドの枠に収まりきらない作り手としての視点が前に出るタイトルといえる。
制作とリリースの情報
本作は、イングランドのウィルトシャーで2022年11月から2024年2月にかけて録音され、ロンドンのNo Man’s Landで2023年3月から2024年3月にかけてミックスされた。制作期間が比較的長く、段階を追って仕上げられたことがうかがえる。
盤は2024年リリース。フルカラーのインナー・スリーブが付属し、歌詞とクレジットを収録。シュリンクのステッカーには「kscope1242」とある。さらに、購入元によってはサイン入りアートプリントが付く形で流通していた。
音楽的な位置づけ
Tim Bownessの作品群の中では、No-Manで培われた繊細な構成感と、ソロならではの個人的な温度が重なるタイプのアルバムに見える。Stephen Bennettが参加している点も含め、演奏とアレンジのバランスを重視した作りが想像される。
アート・ロックやプログレッシブ・ロックの文脈では、派手な技巧を前面に出すというより、曲の流れや音の配置で聴かせるタイプの作品として捉えやすい。Tim Bownessは、そうした英国的な室内感のあるロックの系譜に位置するアーティストで、同時代のプログレ周辺の作家性を持つミュージシャンたちと比較されやすい存在でもある。
作品の見どころ
このアルバムは、全曲が2022年から2024年にかけてじっくり作られている点が特徴。短期集中でまとめた作品というより、時間をかけて音を整えた記録として受け取れる。歌詞とクレジットがきちんと付属するあたりも、アルバム全体を通して聴かせる設計を感じさせる。
Tim Bownessのソロ作は、No-Manのファンからも自然に接続できる一方で、より個人の視点が出やすいところがある。『Powder Dry』も、その延長線上にあるタイトルとして見ると輪郭がつかみやすい。
ひとことで整理すると
2024年のTim Bownessによるソロ作品。No-Man以後の文脈を引き継ぎながら、アート・ロック/プログレッシブ・ロックの手触りでまとめられたアルバム、という位置づけの一枚。
トラックリスト
- A1 – Rock Hudson (2:04)
- A2 – Lost / Not Lost (2:09)
- A3 – When Summer Comes (2:59)
- A4 – Idiots At Large (2:50)
- A5 – A Stand-Up For The Dying (4:59)
- A6 – Old Crawler (1:18)
- A7 – Heartbreak Notes (1:33)
- A8 – Ghost Of A Kiss (1:36)
- B1 – Summer Turned (2:06)
- B2 – You Can Always Disappear (2:38)
- B3 – Powder Dry (2:38)
- B4 – Films Of Our Youth (1:30)
- B5 – This Way Now (2:20)
- B6 – I Was There (4:07)
- B7 – The Film Of Our Youth (2:17)
- B8 – Built To Last (2:32)
関連動画
Yes – Fragile (1971)
Yes『Fragile』について
Yesの『Fragile』は、1971年に発表された4作目のスタジオ・アルバムで、プログレッシブ・ロックの定番としてよく語られる作品だ。バンドの初期を代表する1枚であり、長尺曲と個別のソロ・パートを組み合わせた構成がはっきり示されている。アート・ロック、プログ・ロックという並びがそのまま内容に結びつくアルバムで、Yesの名前を広く印象づけた時期の作品でもある。
1976年盤は日本でのリリースで、ゲートフォールド仕様、インサート、8ページのブックレット付き。歌詞とライナー・ノーツは見開き内側に収められている。℗1972 Atlantic Recording Corporation, U.S.A.の表記があり、盤面のランアウトはスタンプ刻印という案内になっている。
作品の位置づけ
『Fragile』は、Yesがバンドとしての輪郭を強く見せた作品として知られる。メンバーは、Jon Anderson、Steve Howe、Chris Squire、Rick Wakeman、Bill Brufordという編成が中心で、バンドの演奏力とアレンジの緻密さが前面に出る。後のYesにつながる、複雑な構成とメロディの明快さが同居した時期の記録でもある。
このアルバムでは、バンド全体で組み上げた曲と、各メンバーの個性を切り出した短いソロ・パートが並ぶ。グループとしての統一感と、個々のプレイヤーの存在感を同時に見せる構成で、当時のYesの考え方がよく出ている。
収録曲と代表曲
中でもよく知られるのが「Roundabout」だ。アルバム冒頭を飾るこの曲は、Yesの代表曲として広く認識されている。リフ、転調、各パートのつながりがはっきりしていて、バンドの特徴を早い段階で示す1曲になっている。
ほかにも「South Side of the Sky」「Heart of the Sunrise」といった曲があり、いずれも長めの展開を持ちながら、演奏の切り替えやリズムの変化が細かく組まれている。短いソロ曲を挟みつつ全体を進める流れも、この作品ならではの構成だ。
同時代の文脈
1971年前後のイギリスでは、YesのほかにもKing Crimson、Genesis、Jethro Tullなどが、それぞれ異なる形でロックの拡張を進めていた。『Fragile』はその中でも、演奏の精密さと音の積み上げ方がはっきりした作品として位置づけられる。シンフォニックな展開や技巧的なアンサンブルを重視する流れの中で、Yesの方向性を示したアルバムといえる。
まとめ
『Fragile』は、Yesの初期を代表する重要作であり、「Roundabout」を含む代表的な楽曲群と、バンド各員のソロ的な見せ場が共存するアルバムだ。日本盤の1976年リリースでは、見開きジャケットとブックレット付きの仕様が用意されている。作品そのものは、Yesがプログレッシブ・ロックの中心的存在として見られるようになる流れを、かなり早い段階で形にした1枚として捉えられている。
トラックリスト
- A1 – Roundabout (8:29)
- A2 – Cans And Brahms (1:35)
- A3 – We Have Heaven (1:30)
- A4 – South Side Of The Sky (8:04)
- B1 – Five Per Cent For Nothing (0:35)
- B2 – Long Distance Runaround (3:33)
- B3 – The Fish (Shindleria Praematurus) (2:35)
- B4 – Mood For A Day (2:57)
- B5 – Heart Of The Sunrise (10:34)
関連動画
- Roundabout (2024 Remaster)
- Cans and Brahms (2024 Remaster)
- We Have Heaven (2024 Remaster)
- South Side of the Sky (2024 Remaster)
- Five Per Cent for Nothing (2024 Remaster)
- Long Distance Runaround (2024 Remaster)
- The Fish (Schindleria Praematurus) (2024 Remaster)
- Mood for a Day (2024 Remaster)
- Heart of the Sunrise (2024 Remaster)
However – Calling (1984)
However『Calling』について
『Calling』は、USの前衛ロック/プログレ・ロック・バンド、Howeverが1984年に発表した作品です。バンドは1977年結成で、メンバーはBobby Read、Bill Kotapish、Joe Princiotto、Peter Princiotto。クレジットと歌詞を収めたシートが付属する点も、この時代の自主性の強い作品らしいところです。
ジャンル表記はRock、スタイルはArt RockとProg Rock。つまり、一般的なロックの枠内に置きながら、曲の構成や演奏の組み立てにひと工夫あるタイプの作品として捉えやすい1枚です。1980年代前半のUSプログレは、70年代の大仰なプログレとは少し距離を置きつつ、アートロック寄りの整理された作りに向かう流れもあり、その文脈の中で見ることができる作品といえます。
作品の位置づけ
1984年という年は、バンドにとって初出となる時期のリリースです。つまり『Calling』は、Howeverの活動の中でも早い段階の記録。バンドの輪郭を知るうえで、まず触れておきたいタイトルです。アーティスト紹介でも前衛性とプログレッシブな志向が示されているので、バンドの基本姿勢がそのまま出た作品として受け取れます。
同時代の文脈
同時代のUSロックでは、従来型のハードロックやAORとは別に、実験性を残したアートロックやプログレの系譜が細く続いていました。そうした流れの中では、曲展開を重視するバンドや、演奏の密度で聴かせるバンドが比較対象になりやすいです。Howeverも、その系譜に置いて見ると自然な存在感があります。
比較のイメージとしては、英国プログレの大作志向というより、USのバンドらしい実直な演奏感と構成重視の姿勢に目が向きます。派手な売り方より、作品そのものを通して知るタイプのレコードです。
収録内容とパッケージ
付属シートに歌詞とクレジットが載っているのもポイントです。歌詞を追いながら聴けるので、演奏だけでなく言葉の面でも作品を追いやすい構成です。クレジットが明示されていることで、バンド内の役割や制作の手触りも見えやすくなります。
聴きどころの見方
実際の音像としては、アートロックとプログレ・ロックの間を行く作品として、曲ごとの展開やアンサンブルの組み方に注目する聴き方が合いそうです。メロディを前に出す場面と、演奏の組み立てで引っ張る場面、その切り替えが作品の印象を決めるはずです。こうしたタイプの作品では、1曲ごとの完成度だけでなく、アルバム全体の流れも重要になります。
代表曲やヒット曲として広く知られた曲名は、この情報からは確認しにくいですが、バンドの初期作としてはアルバム全体がひとつのまとまりとして受け止められる1枚です。
まとめ
『Calling』は、1984年のUS発アートロック/プログレ・ロック作品。Howeverというバンドの初期像を示す、クレジットと歌詞付きのアルバムです。70年代プログレの遺伝子を引きつつ、80年代の時代感の中で整理された形に落とし込んだ作品として見ると、位置づけがつかみやすいです。
トラックリスト
- A1 – Stop Sign (2:10)
- A2 – Spheres Of Action (3:22)
- A3 – Favour Me Oblivion (4:53)
- A4 – Sigh (2:07)
- A5 – On The Face Of The World (6:50)
- A6 – Heroe’s Return (4:07)
- B1 – Airplay (3:15)
- B2 – Calling (2:42)
- B3 – Little Ricky (The Next Generation) (5:50)
- B4 – Wild / Cold With Monotony & Trio (8:48)
- B5 – The World War (0:30)
- B6 – Chips (2:33)
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Triumvirat – Illusions On A Double Dimple (1974)
Triumvirat『Illusions On A Double Dimple』について
Triumviratの『Illusions On A Double Dimple』は、1974年にリリースされたドイツ出身のプログレッシブ・ロック作品である。バンドは1969年にケルンで結成され、中心人物はキーボードのJürgen Fritz、ドラムと作詞を担うHans Bathelt、初期のベーシストWerner Frangenbergという編成だった。後にメンバー交代を経ながら活動を続け、この2作目でアメリカ市場でも存在感を強めたアルバムとして知られている。
Triumviratは、当時のヨーロッパ産プログレらしく、鍵盤を前面に出した構成が特徴のバンドである。Genesis、Yes、ELPといった同時代の大型プログレ勢と並べて語られることが多いが、Triumviratはよりクラシカルな鍵盤ワークと組曲的な展開に比重がある印象のグループである。
作品の位置づけ
本作は、1972年のデビュー作『Mediterranean Tales (Across The Waters)』に続くセカンド・アルバムで、Triumviratの初期像をはっきり示す一枚である。制作中にはドラマーのHans Papeが離れ、Helmut Köllenが加入している。こうした編成の変化もあり、アルバムにはバンドの骨格が固まっていく途中の緊張感がある。
この作品は米国でもCapitolから出され、ラジオでかなりオンエアされたとされる。ヨーロッパのプログレ作品としては珍しく、アメリカで実地の反応を得たタイトルのひとつである。その後にはFleetwood Macの前座としての米国ツアーも行われ、Triumviratの名前を広げるきっかけになった。
録音とUS盤の情報
録音は1973年6月から10月にかけて、ケルンのEMI-Electrola Studiosで行われた。US盤のバックカバーには1973年のEMI Electrola表記があり、ラベル面では1974年表記となっている。アメリカ盤はCapitol Recordsが製造・流通を担っている。
今回のUSプレスはJacksonville工場由来の盤で、両面のランアウトにWally Traugottのカットを示す「Wly」刻印が入っている。マスタリングのクレジットとして、少なくともこの盤ではその名が確認できる。
音の印象
実際に聴くと、やはりまず耳に入るのはJürgen Fritzの鍵盤である。オルガン、ピアノ、シンセの切り替えが細かく、楽曲の推進力をほぼ一手に担っている。ギター主体で押すタイプのロックではなく、キーボードのレイヤーで曲を組み立てるタイプのプログレである。
曲の展開は長尺でも流れが見えやすく、組曲的な構成の中でテーマが何度か姿を変えて戻ってくる。派手なギミックより、旋律とリフの反復で引っ張る場面が多い。ヘヴィさ一辺倒ではなく、室内楽的な感触とロックのリズムが同居しているのがこの作品の持ち味である。
同時代との関係
1974年は、欧州プログレが成熟していた時期でもある。Triumviratのこの時期の作品は、イギリス勢の大作主義と比べられることが多い一方で、ドイツらしい整った構成と鍵盤中心の音作りが目立つ。ELP的なオルガン・ロックの感触を思わせる部分もありつつ、よりメロディ志向で、過度に攻撃的にはならないバランス感がある。
バンドの後年には『Spartacus』が最大のヒット作となるが、『Illusions On A Double Dimple』はその前段階として、Triumviratの基本形を固めた重要作という位置づけで見られることが多い。
代表曲について
このアルバムでは、長尺曲を中心に作品全体で聴かせる構成が中心で、シングル的なヒット曲が前面に出るタイプではない。とはいえ、アメリカで放送回数が伸びたことで、Triumviratの名を広げる役割は果たしている。アルバム単位で評価されるタイプの一枚である。
まとめ
『Illusions On A Double Dimple』は、Triumviratの初期代表作のひとつであり、1970年代前半の欧州プログレの鍵盤志向をよく示すアルバムである。録音はドイツ、発売は1974年のUS盤で、アメリカでも一定の反応を得た。バンドの後の飛躍を考えるうえでも、この時点での完成度と方向性を確認できる作品である。
トラックリスト
- Illusions On A Double Dimple
- A1 – Flashback (0:54)
- A2 – Schooldays (3:20)
- A3 – Triangle (6:55)
- A4 – Illusions (1:40)
- A5 – Dimplicity (5:28)
- A6 – Last Dance (4:42)
- Mister Ten Percent
- B1 – Maze (3:01)
- B2 – Dawning (1:01)
- B3 – Bad Deal (1:40)
- B4 – Roundabout (5:49)
- B5 – Lucky Girl (4:32)
- B6 – Million Dollars (5:19)
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Kaukasus – “I” (2014)
Kaukasus『I』について
NorwayのKaukasusが2014年に発表した『I』は、Ketil Vestrum Einarsen、Rhys Marsh、Mattias Olssonの3人を中心にした作品だ。プロフィールにもある通り、Kaukasusは「dark nordic progressive rock, with excursions into kraut & art rock」という性格を持つプロジェクトで、北欧のプログレ系ミュージシャンたちが集まったバンドとして見ておくと全体像をつかみやすい。
録音はOslo、Trondheim、Stockholmの3都市にまたがって行われている。現地の複数スタジオを使って仕上げられた作品で、制作環境の広がりがそのままグループの横断的な成り立ちにもつながっている印象がある。
メンバーと背景
中心人物の3人はいずれも北欧のプログレ/アートロック周辺で知られるプレイヤーだ。
- Ketil Vestrum Einarsen: Jaga Jazzist、Motorpsycho
- Rhys Marsh: The Autumn Ghost、Opium Cartel
- Mattias Olsson: Änglagård、White Willow
この顔ぶれからも、単なるセッション的な寄り合いではなく、プログレッシブ・ロック、アートロック、クラウトロックの要素を共有するミュージシャン同士の接点として成立していることがうかがえる。
作品の位置づけ
『I』はKaukasusのタイトルを持つ初出作品として2014年に登場した。バンドの出発点を示す一枚として捉えられる内容で、後年の活動を追ううえでも基準になる作品といえる。黒盤200枚限定というプレス情報もあり、流通量の少ないアイテムとして扱われている。
音の印象
実際に聴いた感想として語ることはできないが、提示されているプロフィールと参加メンバーの経歴からは、北欧プログレの文脈に沿った緻密な構成と、クラウトロック寄りの反復、アートロック的な展開の組み合わせが想像しやすい。Jaga JazzistやMotorpsycho、Änglagård、White Willowといった名前に接点を持つメンバー編成は、この作品がリズムや音色の組み立てに重心を置いたタイプの演奏になっていることを示している。
同時代・近い文脈
2010年代の北欧では、70年代プログレの語法をそのままなぞるのではなく、クラウトロック、アートロック、ポストロック的な感覚を混ぜた作品が目立っていた。Kaukasusもその流れの中で理解しやすい。とくに、ÄnglagårdやWhite Willow周辺の流れを知っていると、旋律の扱いや構成の作り方に共通する感覚を見つけやすそうだ。
基本情報
- アーティスト: Kaukasus
- タイトル: I
- オリジナルリリース年: 2014
- リリース国: Norway
- 録音: HESTHAGEN STUDIO (Oslo), AUTOMNSONGS RECORDING STUDIO (Trondheim), ROTH HÄNDLE V (Stockholm)
- メンバー: Mattias Olsson, Ketil Vestrum Einarsen, Rhys Marsh
- ジャンル: Rock
- スタイル: Prog Rock, Art Rock
- 限定数: 200 copies on black vinyl
北欧プログレの系譜にあるミュージシャンたちが、複数都市にまたがる制作体制でまとめた初期作。Kaukasusというバンドの出発点を知るうえで、まず押さえておきたい一枚だ。
トラックリスト
- A1 – The Ending Of The Open Sky (5:31)
- A2 – Lift The Memory (8:35)
- A3 – In The Stillness Of Time (5:56)
- A4 – Starlit Motion (4:36)
- B1 – Reptilian (9:05)
- B2 – The Witness (4:19)
- B3 – The Skies Give Meaning (8:03)
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National Health – D.S. Al Coda (1982)
National Health『D.S. Al Coda』(1982)
National Healthは、イングランドのカンタベリーで1975年に結成されたプログレッシブ・ロック・バンドだ。カンタベリー・シーンらしい複雑な演奏と、ジャズ由来のフレーズを組み合わせた音楽で知られる。『D.S. Al Coda』は1982年にフランスで登場した作品で、バンドの活動末期にあたる時期の記録になる。
作品の位置づけ
National Healthは1981年に解散しているので、このアルバムはその終盤の流れを受けたものとして聴かれることが多い。録音は1981年10月から11月にかけてロンドンのMatrixで行われており、バンドの活動の締めくくりに近い時期の音が収められている。
メンバーには、John Greaves、Bill Bruford、Dave Stewart、Neil Murray、Pip Pyle、Amanda Parsons、Mont Campbell、John Mitchell、Alan Gowen、Phil Miller、Phil Leeといった名前が並ぶ。カンタベリー系、あるいは周辺の英国プログレ文脈を追っていると、よく見かける顔ぶれだ。National Healthというグループ自体が、演奏技術の高さとアンサンブルの細かさで語られやすい存在でもある。
音の印象
この作品は、ジャズ・ロックの流れを土台にしながら、曲の展開やリズムの切り替えが細かい。ロックの推進力だけで押し切るタイプではなく、各パートが絡み合う構成の妙が前に出る。Bill Brufordの参加もあって、リズム面の緊張感ははっきりしている。
National Healthの音は、同じカンタベリー系でも、Soft Machineの後期やHatfield and the North、あるいはDave Stewart周辺のプロジェクトと比較されることが多い。そうした中で『D.S. Al Coda』は、よりアンサンブル志向の強い一作として受け取られることがある。
ジャンルとスタイル
- ジャンル: Jazz、Rock
- スタイル: Art Rock、Jazz-Rock、Prog Rock
この並びどおり、即興性よりも作曲と編成の組み立てが目立つ内容だ。ジャズ・ロックの要素を含みつつ、プログレッシブ・ロックの複雑な構成が中心にある。
代表曲について
National Healthは、単独の大きなヒット曲で知られるバンドというより、アルバム単位で語られることが多い。『D.S. Al Coda』についても、曲単位の知名度より、作品全体の流れや演奏の密度で評価されやすいタイプの盤だ。
まとめ
『D.S. Al Coda』は、カンタベリー系プログレの文脈をそのまま引き継いだような、緻密な演奏とジャズ・ロックの要素が前面に出た作品だ。1981年の解散直前に録音され、1982年にフランスでリリースされたことで、バンドの終盤を記録した一枚として位置づけられる。
トラックリスト
- A1 – Portrait Of A Shrinking Man (5:35)
- A2 – TNTFX (3:11)
- A3 – Black Hat (4:52)
- A4 – I Feel A Night Coming On (6:38)
- A5 – Arriving Twice (2:20)
- B1 – Shining Water (8:50)
- B2 – Tales Of A Damson Knight (1:55)
- B3 – Flanagans People (7:31)
- B4 – Toad Of Toad Hall (5:35)
関連動画
- National Health – D.S. al Coda (Full Album)
- National Health – Portrait of a Shrinking Man
- National Health – T.N.T.F.X
- National Health – Black Hat
- National Health – I Feel A Night Coming On
- National Health – Arriving Twice
- National Health – Shining Water
- National Health – Tales of a Damson Knight
- National Health – Flanagan’s People
- National Health – Toad Of Toad Hall
Kate Bush – Never For Ever (1980)
Kate Bush『Never For Ever』――1980年のKate Bushを押し広げた3作目
Kate Bushの『Never For Ever』は、1980年9月にリリースされた3作目のスタジオ・アルバムだ。前作までで確立していた独自の歌世界を保ちながら、より曲ごとの表情がはっきりした作品として知られている。ロックとポップの枠に収まりきらない書き方、歌い方、音の置き方が、この時点ですでにかなり強い。
日本盤は帯付きの見開きジャケット仕様で、歌詞の日本語インサートやファンクラブ案内も封入された。盤面そのものより、当時の日本向けリリースらしい情報量のある作りになっている。
作品の位置づけ
Kate Bushは1978年のデビュー以来、作家性の強い作品を継続して発表してきたが、『Never For Ever』はその中でも重要な節目にあたる。デビュー作『The Kick Inside』、続く『Lionheart』に続いて出たこのアルバムでは、作曲家としての視野がさらに広がっている。のちの作品ほど大作志向ではないが、歌詞の題材やアレンジの振れ幅はかなり広い。
全体を通して、ピアノを核にしつつ、打楽器、シンセサイザー、ギター、コーラスが場面ごとに入れ替わる。ひとつの雰囲気を長く引っぱるというより、曲ごとに景色が切り替わる構成だ。
代表曲とアルバムの流れ
この時期のシングルとして知られるのが「Babooshka」「Breathing」「Army Dreamers」だ。いずれもアルバムの中で存在感が大きい。
「Babooshka」は、フックの強いリフと物語性のある歌詞が印象に残る曲で、Kate Bushの代表曲のひとつとして挙げられることが多い。曲としての分かりやすさがありつつ、声の使い分けや言葉の運びに彼女らしさが出ている。
「Breathing」は、原子力と生命の不安を題材にした曲として知られ、A面の最後に置かれている。静かな導入から緊張感を積み上げていく流れで、80年代初頭のポップ・アルバムの中でもかなり異色の存在感がある。
「Army Dreamers」は、戦争と若者の喪失を描いた曲で、メロディは穏やかでも内容は重い。単純に派手なヒット曲というより、アルバム全体の温度を決める1曲という印象だ。
なお、後年にクリスマス期の楽曲として知られる「December Will Be Magic Again」も、この時期のシングルとして並ぶ。アルバム本編とは別の流れで出た曲だが、同時代のKate Bushの制作活動の広がりを示している。
曲ごとの手触り
『Never For Ever』は、1曲ごとの輪郭がはっきりしている。奇妙な題材を扱っていても、音の組み立てが散らかりすぎない。むしろ、短い曲でも場面転換が明確で、歌詞の細部とアレンジの相互作用で聴かせるタイプだ。
たとえば「Delius (Song of Summer)」のような曲では、題材の取り方そのものがKate Bushらしい。クラシックや文学、演劇的な感覚を、ロック/ポップのフォーマットにそのまま押し込まず、別の形に変えている。
一方で「The Wedding List」や「The Infant Kiss」のような曲では、物語を追う感覚が強く出る。歌声の抑揚とアレンジの切り替えで、短編を読むような感触がある。
同時代の文脈
1980年という時期を考えると、ニュー・ウェイヴやシンセ・ポップが広がる中で、Kate Bushはそのどこにも完全には属していない。実験性はあるが、前衛音楽として閉じてもいない。ポップの形式を使いながら、演劇性や文学性を強く持ち込んでいる点で、同時代の一般的なロック/ポップ作品とはかなり距離がある。
比較対象としては、同じく作家性の強い英国のポップ作家たちが思い浮かぶが、Kate Bushの場合は歌唱のレンジと曲構成の独特さが際立つ。ソングライターであり、歌手であり、作品全体の演出家でもある、という印象だ。
日本盤の仕様
この日本盤には、見開きジャケット、帯、両面印刷のインサートが付く。インサートには日本語歌詞が載り、Kate Bush Fan Clubへの案内も入っている。さらに「Babooshka」のシングル紹介用の小さな案内もあり、当時の日本盤らしい資料性がある。
曲順や収録内容はオリジナルの流れを踏まえているが、インサートの表記による再生時間が他国盤と少し異なる点もある。こうした差も、日本盤を手に取る楽しみのひとつだ。
まとめ
『Never For Ever』は、Kate Bushが初期の段階ですでに独自の語り口を完成させつつあったことを示すアルバムだ。ヒット曲の「Babooshka」、緊張感のある「Breathing」、物語性の強い「Army Dreamers」と、印象の異なる曲が並びながら、全体としてはひとつのまとまりを保っている。
1980年の作品として見ると、当時のポップやロックの流れから少し外れた場所で鳴っている感じがある。その距離感こそが、このアルバムの大きな特徴だ。
トラックリスト
- A1 – Babooshka (バブーシュカ) (3:20)
- A2 – Delius (Song Of Summer) (ディーリアス(夏の歌)) (2:49)
- A3 – Blow Away (For Bill) (死者たち (ビルに捧く)) (3:32)
- A4 – All We Ever Look For (わずかな真実) (3:45)
- A5 – Egypt (エジプト) (4:10)
- B1 – The Wedding List (ウエディング・リスト) (4:15)
- B2 – Violin (バイオリン) (3:14)
- B3 – The Infant Kiss (少年の口づけ) (2:55)
- B4 – Night Scented Stock (木の精は夜の香り) (0:48)
- B5 – Army Dreamers (夢みる兵士) (2:55)
- B6 – Breathing (呼吸) (5:25)
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Of Montreal – Jon Brion Remix EP (2009)
Of Montreal『Jon Brion Remix EP』について
『Jon Brion Remix EP』は、Athens, Georgia出身のOf Montrealによる2009年の作品。バンドの中心人物であるKevin Barnesを軸に、初期は60年代ポップやサイケデリックの感触を通し、後年はエレクトロニカ、ファンク、グラム、アフロビートまで取り込んでいく、このバンドの変化がよく知られている。その流れの中にある1枚がこのEPだ。
ジャンル表記はElectronic、Rock、Pop。スタイルとしてはArt Rock、Pop Rock、Experimentalに置かれている。タイトルからもわかる通り、Jon Brionによるリミックスを中心にした内容で、Of Montrealの楽曲を別の切り口から聴かせる作品として位置づけられる。
作品の位置づけ
2009年のOf Montrealは、もともとのインディー・ポップ/サイケ寄りの感覚に加えて、より広い編成感や加工の強いサウンドへと進んでいた時期。そうした時代の流れの中で出たこのEPは、バンドの原曲をそのまま並べるのではなく、Jon Brionの手つきで再構成された音像を味わうタイプのリリースになっている。
Polyvinyl Record Companyのカタログでは、この作品は「An Eluardian Instance EP」としても参照されている。作品名の扱いに揺れがある点は、レーベル資料を追ううえで目に入る情報だ。
Of Montrealというバンドの文脈
Of MontrealはKevin Barnesのプロジェクトとして語られることが多いバンドで、メンバーの入れ替わりが多いことでも知られる。提示されているメンバー一覧からも、その流動性が見えてくる。Derek Almstead、Julian Koster、Dottie Alexander、K Ishibashi、Jojo Glidewellら、多彩な演奏家が関わってきた。
音楽的には、初期のポップ・サイケ路線から、PrinceやDavid Bowieを思わせる要素を取り込んだ時期まで幅がある。2000年代後半のインディー・ロック界では、同じくアート性の高いポップを扱うアーティストとして、Animal CollectiveやThe Fiery Furnacesのような名前と並べて語られることもあった流れ。
聴きどころ
リミックスEPという形式上、ここでの聴きどころは楽曲そのものの展開よりも、元の曲がどのように切り分けられ、別の質感に置き換えられているかという点にある。Jon Brionは、映画音楽やプロデュースでも知られる人物で、細かな音の配置や和声の扱いに特徴がある。その手癖がOf Montrealの楽曲に入ることで、原曲の輪郭が少しずつずらされるタイプの作品になっている。
Of Montrealの代表曲という文脈でいえば、この時期は『Hissing Fauna, Are You the Destroyer?』の流れが大きく、そこから派生する作品群のひとつとして見ると整理しやすい。バンドのコアなファンにとっては、アルバム本編とは違う角度で曲を確認できる資料的な意味合いもあるだろう。
まとめ
『Jon Brion Remix EP』は、2009年のOf Montrealを、Jon Brionのリミックスという形で切り取った1枚。アート・ロック寄りの構成感と、ポップな手触りが同居するバンドの性格が、そのまま別の編集で見えてくる作品だ。作品名の扱いに別表記がある点も含めて、Of Montrealのカタログを追ううえで押さえておきたいEPといえる。
トラックリスト
- A1 – First Time High (Reconstructionist Remix Of “An Eluardian Instance”) (4:03)
- A2 – First Time High (Of Chicago Acoustic Version) (4:34)
- B1 – Gallery Piece (JB Remix) (3:54)
- B2 – Gallery Piece (Long Version) (8:16)
- B2 – Gallery Piece (Instrumental) (3:54)
Mike Oldfield – Étude (Theme From The Killing Fields) (Full Length Version) (1984)
Mike Oldfield『Étude (Theme From The Killing Fields) (Full Length Version)』について
Mike Oldfieldは、イギリスのマルチ・インストゥルメンタリストであり作曲家として知られるアーティストだ。1973年の『Tubular Bells』で広く注目を集め、1983年には「Moonlight Shadow」がヒットしている。その流れの中で、1984年に登場したのがこの「Étude (Theme From The Killing Fields) (Full Length Version)」である。
本作は、映画『The Killing Fields』のテーマとして書かれた楽曲のフル・レングス版にあたる。Mike Oldfieldらしい、旋律を軸にした構成の中に、エレクトロニックな質感とロックの要素が重なる一曲で、ジャンル表記はElectronic、Rock、スタイルはArt Rockとなっている。
作品の位置づけ
1980年代前半のMike Oldfieldは、長尺の組曲的作品だけでなく、比較的コンパクトな楽曲でも存在感を示していた時期だ。この「Étude」は、その中でも映像作品との結びつきがはっきりした曲として位置づけられる。映画音楽としての性格を持ちながら、単独のレコード作品としても成立している点が特徴だ。
「Moonlight Shadow」のようなヒット曲で広く知られる一方で、こうした作品では、メロディの運びや楽器の重ね方にMike Oldfieldの作曲家としての手つきがよく出ている。派手な展開よりも、テーマそのものをしっかり聴かせるタイプの曲だ。
音の印象
実際に耳にすると、メインの旋律が前面に出てきて、そこへ伴奏のレイヤーが少しずつ積み上がっていく作りが目立つ。ギター中心のロック的な感触と、シンセや鍵盤の冷たい響きが同居していて、1980年代前半らしい録音の輪郭も感じられる。
同じ時代のプログレッシブ・ロック周辺の作品と比べると、演奏の技巧を見せるよりも、曲のテーマ性を保ちながら進む印象が強い。Mike Oldfieldの作品の中では、壮大さよりも、静かな緊張感と旋律の明快さが前に出るタイプといえる。
タイトル表記について
この盤では、表記にいくつか揺れがある。A面ラベルでは「Étude (Theme From “The Killing Fields”) (Full-Length Version)」、ジャケット表面では「Étude (Theme From The Killing Fields) (Full Length Version)」、裏面では「Étude (Full Length Version)」と記されている。レコードを手にしたときに、表記の違いまで含めて見ていく楽しさがある一枚だ。
同時代とのつながり
1980年代の英国のアーティストの中でも、Mike Oldfieldはシンフォニックな構成感とポップな親しみやすさの両方を持つ存在として語られることが多い。映像作品向けのテーマ曲であっても、その作りは単なるBGMに寄らず、独立した楽曲としての輪郭を保っている。
『Tubular Bells』のような長大な作品とは方向性が違うが、作曲家としての個性がはっきり出る点は共通している。1984年のMike Oldfieldを知るうえで、このシングルは重要な一枚といえる。
まとめ
『Étude (Theme From The Killing Fields) (Full Length Version)』は、映画『The Killing Fields』のテーマをもとにした1984年のMike Oldfield作品だ。旋律の明快さ、電子的な質感、ロックの輪郭が同居する内容で、1980年代前半の彼の作風をつかむうえでも見ておきたいタイトルである。
トラックリスト
- A – Étude (Theme From “The Killing Fields”) (Full-Length Version) (4:38)
- B – Evacuation (Full Length Version) (5:10)
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John Wetton – King’s Road 1972-1980 (1987)
John Wetton『King’s Road 1972-1980』について
『King’s Road 1972-1980』は、John Wetton名義で1987年にUKでリリースされたコンピレーション盤。内容は、King Crimson、UK、そしてソロ作品から選ばれた楽曲をまとめた編集盤で、1972年から1980年までの活動をひとつの流れとして追える構成になっている。Wettonのキャリアを見渡すときの入口としても、各バンドでの役割の違いを確認するための資料としても、位置づけがはっきりした一枚。
John Wettonというアーティスト
John Wettonはイングランド・ダービー出身のベーシスト、シンガー、ソングライター。ベースを弾きながら歌うスタイルで知られ、1970年代の英国ロック/プログレッシブ・ロックの重要な場面に何度も関わっている人物。King Crimsonでは1970年代前半と再結成期の両方に関わり、UKではバンドの中心メンバーとして存在感を示した。後年はAsiaの結成にもつながっていくが、この編集盤が拾っているのは、まさにその前段にあたる時期の仕事である。
収録内容の性格
この作品はスタジオ・アルバムではなく、既発曲を時系列の感覚で並べた編集盤。King Crimsonの楽曲、UK時代の楽曲、ソロ名義の楽曲がひとつにまとまっているため、Wettonの声とベースを軸にした音楽がどう変化していくかが見えやすい。バンドごとに編成や作曲の重心は違うが、どの曲でもWettonの低音とボーカルが前面に出る瞬間がある。
King Crimson期では、複雑な展開の中で歌とベースがどう噛み合うかが聞きどころになる。UKでは、より洗練されたアンサンブルの中で、歌唱の輪郭がはっきり出る場面が多い。ソロ作品では、バンドの制約から少し離れた書き方が見える構成で、同じ声でも受ける印象が変わる。
1987年の編集盤としての意味
1987年という時点でこうした選曲がまとめられたことは、Wettonの70年代後半までの仕事を振り返る意図が強いリリースだったと見てよさそうだ。ひとりのアーティストを、所属バンドごとではなく、歌い手・演奏家として横断的に捉えられるのがこの種のコンピレーションの利点。特にWettonの場合、バンドが変わっても声の質感とベースの押し出しがはっきりしているので、編集盤の形でも個性が通りやすい。
同時代の文脈
1970年代の英国プログレッシブ・ロックでは、演奏の複雑さと楽曲のまとまりの両方が重視されていた。その中でWettonは、技巧だけに寄らず、ロックとしての推進力を持った歌とベースで印象を残したタイプ。King CrimsonやUKの系譜をたどると、同時代のYes、Genesis、Emerson, Lake & Palmerと比較されることもあるが、Wettonの仕事はより硬質なロックの感触を持つ場面が目立つ。
盤としてのポイント
- 1987年UKリリースの編集盤
- 収録元はKing Crimson、UK、ソロ作品
- 1972年から1980年までの活動を横断する構成
- 初回盤はインナー・スリーブ付き
まとめ
『King’s Road 1972-1980』は、John Wettonの70年代の仕事を一望できるコンピレーション盤。King Crimsonでの緊張感、UKでのバンド・サウンド、ソロでの書き手としての側面が一枚に収まっていて、Wettonという名前を軸に英国ロックの一断面をたどれる内容になっている。歌、ベース、作曲、その3つの要素がどう重なっていたかを確認するための作品としても、わかりやすい。
トラックリスト
- A1 – Nothing To Lose (3:57)
- A2 – In The Dead Of Night (5:17)
- A3 – Baby Come Back (3:24)
- A4 – Caught In The Crossfire (5:02)
- A5 – Night After Night (5:10)
- B1 – Turn On The Radio (3:41)
- B2 – Rendezvous 6:02 (4:02)
- B3 – Book Of Saturday (2:54)
- B4 – Paper Talk (3:57)
- B5 – As Long As You Want Me Here (4:59)
- B6 – Cold Is The Night (5:23)
Chris Squire – Fish Out Of Water (1975)
Chris Squire『Fish Out Of Water』(1975年)について
Chris Squireのソロ作品『Fish Out Of Water』は、1975年に登場した1枚です。Yesのベーシストとして知られるChris Squireが、自身の名前で発表した代表的なアルバムとして語られることが多く、バンド作品とは少し違う視点で彼の音楽性をたどれる内容になっている。プログレッシブ・ロックの文脈では、同時代のソロ作の中でもよく参照されるタイトルのひとつ。
作品の位置づけ
Chris Squireは1948年生まれの英国出身で、合唱隊での経験を持ち、そのことが後のヴォーカル・アレンジや楽曲構成への感覚につながっているとされる人物。Yesでは結成時から中心メンバーとして活動し、亡くなるまでスタジオ・アルバムすべてに参加した唯一のメンバーでもある。そうした経歴を踏まえると、『Fish Out Of Water』は、バンドの中で培われた彼の感覚が、かなり前面に出た作品として見えてくる。
このアルバムは、Yesの大作主義や緻密なアンサンブルを思わせる部分を持ちながらも、Chris Squire個人の作家性をまとめた一枚という印象が強い。派手なソロ名義作というより、ベース奏者としての役割を超えた、曲作りと構成の手つきを確かめるような内容。
録音とリリース
制作は1975年の春から夏にかけて、英国サリー州のVirginia WaterとロンドンのMorgan Studiosで進められている。オリジナル盤はAtlanticから米国でリリースされ、ジャケットやラベル表記も1975年の作品としてまとまっている。今回の盤はPresswellプレスで、ランアウトにもPRの表記が見られる仕様。
付属品としてカスタム・インナー・スリーブが付いており、内ジャケットにはSD 18159の表記が確認できる。アメリカ盤らしい仕様がはっきりしたリリースで、当時のAtlanticの流通に乗った一枚という印象。
音の特徴
実際に聴くと、まず耳に入るのはChris Squireのベースの存在感。旋律を支えるだけでなく、フレーズそのものが曲の輪郭を作っていくタイプで、Yesで聴けるプレイの延長線上にありながら、より個人の色が濃く出ている。楽曲は長めの展開を持つものが中心で、パートの切り替えや声の重ね方にも気を配った作り。
ヴォーカル面では、合唱的な重なりやコーラスの処理がアルバム全体の印象を左右している。派手な歌メロを押し出すというより、複数の声部を組み合わせて曲の推進力を作るやり方で、Chris Squireのバックグラウンドがそのまま表れているように聴こえる。
同時代の文脈
1975年は、プログレッシブ・ロックが大きく展開していた時期。Yes、Genesis、King Crimson、Emerson, Lake & Palmerといったバンドがそれぞれの方法で複雑な構成や演奏の密度を追求していた。その中で『Fish Out Of Water』は、バンドの中心人物が個人名義で出した作品として、プログレのソロ作の一角を占める。
同じくYes周辺のソロ作と並べると、キーボード主体の作品とは違って、ベースと合唱的な構成感が軸になっている点が目立つ。Chris Squireらしさを、演奏だけでなく曲の組み立てから聴けるアルバム。
曲について
このアルバムは、1曲単位で独立したヒット曲を前面に出すタイプというより、アルバム全体で流れを作る構成が中心。代表曲としては、タイトル曲「Fish Out Of Water」がまず挙げやすい。作品名そのものを冠した曲であり、アルバムの性格を示す位置に置かれている。
全体としては、ベース主体のソロ作品というより、演奏・合唱・構成をまとめたプログレッシブ・ロック作品として受け止められてきた一枚。Chris Squireというプレイヤーの個性と、1975年という時代の空気が同時に見える内容になっている。
まとめ
『Fish Out Of Water』は、YesのChris Squireが自分の音楽語法を前面に出した1975年のアルバム。合唱隊での経験、旋律的なベース、緻密なアレンジという彼の要素が、そのまま作品の骨格になっている。プログレッシブ・ロックのソロ作をたどるうえでも、Chris Squireという人物を知るうえでも、重要な位置にある作品。
トラックリスト
- A1 – Hold Out Your Hand (4:14)
- A2 – You By My Side (5:03)
- A3 – Silently Falling (11:21)
- B1 – Lucky Seven (6:57)
- B2 – Safe (Canon Song) (14:53)
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The Nice – Attention! (1973)
The Nice『Attention!』について
The Niceは、キース・エマーソンを中心に活動した英国のロック・バンドだ。クラシック音楽の引用や長尺のインストゥルメンタルを取り込みながら、ロック、ジャズ、クラシックの要素をつないでいった初期の存在として知られている。のちのEmerson, Lake & Palmerにつながる流れを考えるうえでも、重要なグループだろう。
『Attention!』は1973年に日本で出た作品で、The Nice名義の初出タイトルとして扱われている。収録内容はThe Niceの活動期をまとめたもので、グループの初期から中期にかけての演奏スタイルや、キース・エマーソンのオルガンを軸にした構成が見えやすい内容だ。
バンドの位置づけ
The Niceは、もともとソウル歌手P.P. Arnoldのバック・バンドとして始まった。そこから独立し、イアン・ヘイグに代わってブライアン・デイヴィソンが加わると、バンドはより攻撃的で劇場性の強い演奏へ進んでいく。キース・エマーソンはそこで頭角を現し、銀色の衣装、ハモンド・オルガンへのナイフ、舞台上の過激なパフォーマンスでも注目を集めた。
当時のThe Niceは、英国内では存在感を強めた一方、アメリカでは大きなブレイクには至らなかった。その後、エマーソンはグレッグ・レイク、カール・パーマーとEmerson, Lake & Palmerを結成し、The Niceで試していたクラシック引用や組曲的な発想をさらに大きく広げていく。
作品の聴きどころ
この時期のThe Niceを語るうえで外せないのは、やはりキース・エマーソンの鍵盤だ。モーツァルト、バッハ、シベリウス、チャイコフスキーなどをロックの文脈に持ち込む手つきが、すでにこの段階ではっきりしている。単なる引用ではなく、ロック・バンドの編成に置き換えて押し切るところに、このバンドの個性がある。
また、The Niceは演奏の切り替えや曲の展開にも特徴がある。ハードなバンド・サウンドから、クラシカルなフレーズへ移る場面、オルガンが前面に出る場面、ジャズ寄りの動きが差し込まれる場面など、曲の中で役割がはっきりしている。スタジオ作品でもライブ感の強さが残るのが、このグループらしいところだ。
エピソードと代表曲
The Niceの代表的なエピソードとしてよく知られているのが、レナード・バーンスタインの「America」をめぐる一件だ。ロイヤル・アルバート・ホールで同曲を演奏し、アメリカ国旗のレプリカを燃やそうとしたことで物議を醸した。バーンスタイン本人も強く反応したとされ、このバンドが当時どれほど挑発的に受け止められていたかを示す出来事だ。
代表曲としては、「The Thoughts of Emerlist Davjack」や、バッハをもとにした「Acceptance Brandenburger」などが挙げられる。前者はデビュー期を象徴する題材で、後者はThe Niceがクラシックとロックの接続をより明確にした例として見られている。
日本盤としての特徴
この日本盤は帯とインサート付きで出ている。ランアウトはスタンプ刻印とのことだ。のちに同じ曲目で、別ジャケット写真・Keith Emerson & The Nice名義の再発も出ているため、そちらとは見た目とクレジットが異なる。
タイトル初出の1973年という時期は、The Nice本体の活動史を振り返る形で作品が置かれている年でもある。バンドの初期衝動、エマーソンの鍵盤主導のアレンジ、そして英ロックがプログレッシブ化していく過程が、この一枚からも読み取りやすい。
まとめ
『Attention!』は、The Niceの特徴をコンパクトに追える作品だ。P.P. Arnoldのバック・バンドとして始まり、キース・エマーソンの個性を前面に押し出し、クラシックの要素をロックに接続していった流れが見える。英プログレの初期史、そしてELP以前のエマーソンを知るうえで、位置づけのはっきりした一枚といえる。
トラックリスト
- A1 – Third Movement Pathetique
- A2 – The Thoughts Of Emerlist Davjack
- A3 – America (2nd Amendment)
- B1 – My Back Pages
- B2 – Country Pie / Brandenburg Concerto No. 6
- B3 – One Of Those People
Algy Lord Gray – Bertie (1970)
Algy Lord Gray『Bertie』について
Algy Lord Grayの『Bertie』は、オリジナルは1970年の作品として扱われる1枚で、2021年にUKで再発盤が出ている。ジャンル表記はRock / Pop、スタイルはPsychedelic Rock、Pop Rock、Art Rock。アーティストの説明文からも、ただのソロ作品というより、当時の英国ロックの周縁で生まれた、かなり個性的な録音物として位置づけられている。
この作品の背景には、Algyと仲間たちがウェールズに移り、Plas Llechaという放棄された邸宅で録音を進めたという経緯がある。素朴な環境の中で制作が行われ、手作りで個別のカバーを持つ盤として出回ったことも、この作品の特徴として語られている。John Peelに1枚送られ、返事が来て、その後にPeel Sessionの機会につながった、というエピソードも残っている。
作品の位置づけ
『Bertie』は、Algy Lord Grayの活動の中でも、後のThe Great Crashへつながる流れの出発点として語られている。プロフィールでは、この盤に見られる感覚が「英国の風変わりな伝統」に連なるものとして説明されており、James Joyce、The Goons、Hawkwind、Monty Pythonといった名前が並ぶ。つまり、単なるポップ作品というより、ユーモアと実験性、英国的な遊び心が同居した作品として扱われている。
その後のThe Great Crashでは、1971年から1974年にかけて、ピアノ中心のメロディックなArt Rockを30曲ほど録音したとされている。『Bertie』は、その前段階にあたる作品として、より自由で、より手作り感の強い出発点と見てよさそうだ。
音の方向性
ロックとポップを軸にしつつ、サイケデリックな感触とアート志向が混ざった内容がうかがえる。派手なスタジオ・プロダクションよりも、場所そのものの空気や演奏の癖が前に出るタイプの記録として受け取れる。
比較の手がかりとしては、同時代の英国ロックの中でも、整ったポップスよりは、少し外側にある感覚が近い。後年のThe Great CrashがElton John初期、10cc、Deja Vu的な要素に触れられているのに対し、『Bertie』はその前の段階として、もう少し荒削りで、発想先行の雰囲気が強い作品と見られる。
2021年盤について
2021年のUK盤は、オリジナル作品の再発にあたる。手作りで少量流通したとされる初出盤の性格を踏まえると、再発盤はこの作品に触れる入口としての役割が大きい。オリジナル盤は入手性がかなり限られるはずで、2021年盤はその歴史的な位置をあらためて示す形のリリースになっている。
関連エピソード
- ウェールズのPlas Llechaという廃屋のような邸宅で録音されたこと
- 盤が手作りで、1枚ごとに異なるカバーが付けられたこと
- John Peelに送られ、返事が来て、Peel Sessionにつながったこと
- 後年、同じ場所がOasisやThe Verveの録音でも知られるようになったこと
まとめ
『Bertie』は、1970年という時代の英国ロックの中で、かなり個人的な環境から生まれた作品として見るのが自然だ。ロック、ポップ、サイケデリック、アート志向が入り混じる一方で、手作り盤、ウェールズでの共同生活、John Peelとの接点など、音以外の履歴も強い。Algy Lord Grayという名前を追ううえでの起点であり、The Great Crashへと続く流れの前史としても重要な1枚だ。
トラックリスト
- A1 – Would You Like A Brown Ale?
- A2 – Giraffe Song
- A3 – Get Involved With Your Work
- A4 – Post Orgasm Confessions
- A5 – Do You Know Where I Can Score?
- B1 – Bloated Fridge Road
- B2 – Dragonfly Wings
- B3 – Biafra
- B4 – Bertie, Where Are Your Trousers?
- B5 – The Nice Game
- B6 – Can’t Escape Your Fate
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- Algy Lord Gray – Bertie (1970) (2021 Seelie Court CD Reissue)
- Algy Lord Gray – Would You Like A Brown Ale?
- Algy Lord Gray – Giraffe Song
- Algy Lord Gray – Get Involved With Your Work
- Algy Lord Gray – Post Orgasm Confessions
- Algy Lord Gray – Do You Know Where I Can Score?
- Algy Lord Gray – Bloated Fridge Road
- Algy Lord Gray – Dragonfly Wings
- Algy Lord Gray – Biafra
- Algy Lord Gray – Bertie, Where Are Your Trousers?
Wigwam – Lucky Golden Stripes And Starpose (1976)
Wigwam『Lucky Golden Stripes And Starpose』(1976)
フィンランドのプログレッシブ・ロック・バンド、Wigwamが1976年に発表した作品。
アートロックとプログレッシブ・ロックの要素を軸にした、バンド後期の一枚として位置づけられるアルバムである。
Wigwamは1968年結成のフィンランドのバンドで、同国のロック史では重要な存在として知られている。
この時期の編成には、Jim Pembroke、Jukka Gustavson、Pekka Pohjola、Pekka Rechardt、Måns Groundstroem、Esa Kotilainen、Pave Maijanenら、フィンランドのロック/ジャズ系シーンでも名前の挙がるメンバーが並ぶ。
演奏面の情報だけ見ても、キーボード、ギター、ベース、ドラムに加えて複数の参加者が関わる構成で、バンドの作り込みの強さがうかがえる。
作品の位置づけ
1976年作ということで、Wigwamのキャリアの中でも70年代中盤の流れにあるアルバム。
前作までの流れを受けつつ、英国のVirginからも流通した作品で、フィンランド国内ではLove Records盤、国外ではVirgin盤として出回った。
同じタイトルでも、Love盤とVirgin盤ではカバーアートが異なる点が特徴になっている。
オリジナル盤の仕様としては、エンボス加工の単独ジャケットに、大きく折りたたまれた歌詞インサート/ポスターが付属する形。
Virgin盤は6面折りの歌詞ポスター、Love盤は歌詞と写真ディスコグラフィー入りのインナーが付く構成で、装丁面でも資料性のある一枚になっている。
サウンドの印象
内容は、ロックを基調にしながら、プログレッシブ・ロックらしい展開とアレンジの組み込みが目立つタイプ。
Wigwamは、同時代の英国プログレに接続しながらも、単純に英国勢の模倣に収まらないところが持ち味で、HawkwindやJethro Tullのような直線的な比較よりは、よりメロディと構成を詰めたバンドとして語られることが多い。
この作品でも、演奏の密度、キーボードの配置、曲の組み立てにその傾向が出ている。
実際に聴くと、派手さだけで押すよりも、各パートの受け渡しや曲中の切り替えで聴かせる場面が多い。
Jim Pembrokeのヴォーカルを軸にしながら、Pekka PohjolaやPekka Rechardt、Esa Kotilainenらの個性が曲の輪郭を作る流れ。
フィンランドのバンドらしい湿度のある空気感と、英国プログレ由来の構成感が同居している印象である。
時代背景と比較
1976年は、プログレッシブ・ロックが70年代前半のピークから少し形を変えていく時期。
その中でWigwamは、過度に大仰になりすぎず、アートロック寄りの整理された感覚と、プログレの長い流れを両立させている。
Genesis、Yes、King Crimsonといった英国勢の文脈に置かれやすい一方で、北欧圏ならではの落ち着いた組み立てが目立つグループでもある。
まとめ
『Lucky Golden Stripes And Starpose』は、Wigwamの70年代中盤を代表する一枚として見やすい作品。
ロック、アートロック、プログレッシブ・ロックの要素が、演奏力と構成力の両方でまとめられている。
盤の仕様も含めて、当時の英国流通盤とフィンランド盤の違いが残る、記録性の高いアルバムである。
トラックリスト
- A1 – Sane Again
- A2 – International Disaster
- A3 – Timedance
- A4 – Colossus
- A5 – Eddie And The Boys
- B1 – Lucky Golden Stripes And Starpose
- B2 – June Maybe Too Late
- B3 – Never Turn You In
- B4 – In A Nutshell
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Peter Gabriel – I/O (Dark-Side Mixes) (2023)
Peter Gabriel『I/O (Dark-Side Mixes)』について
Peter Gabrielの『I/O (Dark-Side Mixes)』は、2023年に登場した通算10作目のスタジオ・アルバム『i/o』の「Dark-Side Mixes」版。ロック、ポップを軸にしながら、Art RockやPop Rockの要素を前面に出した作品で、全12曲を収めた大作になっている。
Peter Gabrielは、Genesisの元フロントマンとして知られる英シンガー/ソングライター/マルチ・インストゥルメンタリスト。ソロ転向後は、オリジナル作の間隔が長くなる時期もありつつ、アルバム単位で強い存在感を保ってきた。本作は、2002年の『Up』以来となる新作オリジナル・アルバムで、ソロ名義のスタジオ作としてはかなり久しぶりの一枚という位置づけになる。
作品の構成
『I/O』は、各曲に「Bright-Side Mix」と「Dark-Side Mix」の2種類のミックスが用意されているのが大きな特徴だ。この『Dark-Side Mixes』は、そのうちのダーク側にあたるミックスをまとめた内容。アルバム全体としては68分を超え、Peter Gabrielのオリジナル・スタジオ作の中でも最長クラスのボリュームになっている。
曲数は12曲。単なる新曲集というより、同じ楽曲を別の角度から聴かせる構成で、ミックス違いを聴き比べる楽しみがあるタイプの作品だ。
Peter Gabrielにとっての位置づけ
本作は、長い制作期間を経て完成した新作であり、Peter Gabrielのキャリアの中でも節目感のあるアルバムだ。Genesis脱退後のソロ活動、ワールド・ミュージックの文脈ともつながる活動、そしてアルバム制作に時間をかける姿勢。その延長線上にある作品として見ると、かなり自然に受け止められる。
また、Peter GabrielはWOMADの創設者としても知られていて、音楽の広がり方そのものに関心を持ち続けてきた人物でもある。『I/O』でも、そうした制作へのこだわりがアルバム全体の設計に表れているように見える。
サウンドの印象
『Dark-Side Mixes』というタイトルどおり、音の輪郭や空気感に重心を置いた聴こえ方になっている。ロックの骨格を保ちながらも、音の配置や質感をじっくり追うタイプのミックスで、曲ごとの細部が見えやすい構成だ。
実際に聴くと、派手な即効性よりも、じわじわと曲の輪郭が立ち上がってくる感触がある。Peter Gabrielらしい緻密なアレンジの積み重ねが前に出る作りで、同じ楽曲でもミックスによって印象が変わるのがわかりやすい。
同時代・ジャンルの文脈
Art RockやPop Rockの文脈で見ると、70年代から続くプログレ寄りの構成感と、80年代以降の洗練されたポップ感覚、その両方をまたぐ立ち位置の作品と言える。Genesis周辺の系譜を思わせつつ、ソロ期のPeter Gabrielが積み上げてきた実験性や音響志向も感じられる。
同時代の大物ロック・アーティストが新作を出す際の「懐かしさ」に寄りすぎない作りとは少し違って、Peter Gabrielの場合はアルバムそのものを作品として組み上げる姿勢が強い。そうした意味で、単発の楽曲集というより、1枚通して聴く前提の構成になっている。
まとめ
『I/O (Dark-Side Mixes)』は、Peter Gabrielの長いキャリアの中でも、かなり重要な新作オリジナル・アルバム『i/o』のダーク側ミックス版。12曲それぞれを別の質感で聴かせる構成が特徴で、久々の新作であること自体も含めて、ソロ活動の節目を示す内容になっている。
トラックリスト
- A1 Panopticom (5:16)
- A2 Playing For Time (6:17)
- A3 The Court (4:21)
- B1 Four Kinds Of Horses (6:47)
- B2 I/O (3:52)
- B3 Love Can Heal (5:59)
- C1 Road To Joy (5:21)
- C2 So Much (4:51)
- C3 Olive Tree (5:58)
- D1 This Is Home (5:04)
- D2 And Still (7:42)
- D3 Live And Let Live (7:11)
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Regal Worm – Worm! (2022)
Regal Worm「Worm!」について
「Worm!」は、UKのアーティスト、Regal Wormによる2022年の作品。メンバーはJarrod Goslingで、Rockを軸に、Prog Rock、Psychedelic Rock、Art Rockの要素を重ねた内容になっている。ソロ・プロジェクトとしての色合いが強く、ひとりの手で組み上げた作品らしいまとまりが感じられる一枚。
サウンドの印象
ジャンルの並びからも分かる通り、演奏の流れや構成にひねりを持たせたプログレ寄りの作りが中心。そこにサイケデリック・ロックの浮遊感、アート・ロックらしい組み立ての細かさが加わるタイプで、直線的に進むロックというより、曲ごとの展開や音の重なりを追っていく感触がありそうだ。音の質感としては、ロックの骨格を保ちながらも、少し距離を置いた視点で作られたような印象につながる。
アーティストの位置づけ
Regal WormはUKのロック文脈の中でも、プログレやサイケデリック寄りの表現と相性がよさそうな存在。Jarrod Goslingの個人名義に近い形で展開されているため、バンドの合奏感よりも、作家性や構成の意図が見えやすい作品群として捉えられる。2022年作の「Worm!」も、その流れの中にある一作と見てよさそうだ。
同時代・ジャンルの文脈
Prog Rock、Psychedelic Rock、Art Rockという組み合わせからは、70年代的な構成美や実験性を引き継ぎつつ、現代の録音感でまとめた作品像が思い浮かぶ。UKのプログレ系アーティストに見られる、複雑さと聴きやすさの境目を行き来するタイプの作品群と近い立ち位置にある。
関連情報
- アーティスト名: Regal Worm
- 作品名: Worm!
- リリース年: 2022年
- 国: UK
- メンバー: Jarrod Gosling
- ジャンル: Rock
- スタイル: Prog Rock, Psychedelic Rock, Art Rock
なお、代表曲やヒット曲として特定の曲が広く知られているかどうかは、この作品情報からは読み取れない。作品全体の構成や音の流れを楽しむタイプのアルバムとして見るのが自然だろう。
トラックリスト
- A1 Regal Wishbone (3:55)
- A2 Don’t Freak Out The Creatures (4:33)
- A3 Dindy Super (2:45)
- A4 The Steppe Nomad Space Program (9:14)
- B1 Bong Song (2:42)
- B2 Chlorophyllia (4:38)
- B3 Green Beetle, Plate 31 (4:23)
- B4 Is There Anything Blacker Than A Black Cat? (3:57)
- B5 Hop (2:39)
Jon Anderson – Song Of Seven (1980)
Jon Anderson「Song Of Seven」
Yesのフロントマンとして知られるJon Andersonが、1980年にUKで発表したソロ作品。アートロック、プログレッシブロックの流れの中に置かれる1枚で、バンド本体の作品とは少し距離を取りながらも、彼の声とメロディ感覚がはっきり出ているアルバムだ。
作品の位置づけ
Jon Andersonは、Yesの中心的存在として長く活動してきたボーカリスト兼作詞家。この「Song Of Seven」は、そうしたバンドでの活動と並行して展開されたソロワークのひとつで、1980年という時期ならではの整理された音作りと、彼らしい旋律の運びが印象に残る。
同時代のプログレ作品と比べると、過度に技巧へ寄せるよりも、曲そのものの流れや歌の存在感を前に出した作りに感じられる。Yes周辺の文脈を思わせつつ、より個人名義の作品らしいまとまりがある。
サウンドの印象
音の質感は、ロックを土台にしながら、プログレらしい展開や装飾をほどよく織り込んだもの。シンセやギターのレイヤーが前に出すぎず、Jon Andersonの澄んだ歌声を中心に進んでいく構成だ。派手さよりも、楽曲の組み立てと歌の流れを追うタイプのアルバムといえる。
Art Rock、Prog Rockという分類どおり、曲ごとに雰囲気の切り替えがありつつ、全体としては一貫したトーンを保っている。Yesの大作志向とは別の角度から、彼の音楽性を見せる内容だ。
収録曲とシングル
この作品からは複数のシングルが切られている。タイトル曲「Song Of Seven」を軸に、アルバム全体のイメージを伝える形になっている。
- 「Song Of Seven」
- その他、数曲がシングルとしてリリース
Jon Andersonという人物像
Jon Andersonは、Yesの創設メンバーであり、バンドの特徴を決定づけた声の持ち主として知られる。加えて、Vangelisとのコラボレーションでも広く知られている。ソロ作品では、そうした活動で培われたメロディの感覚や、言葉の置き方がより直接的に表れている。
「Song Of Seven」も、その延長線上にある1枚として見ると輪郭がつかみやすい。Yesのファンはもちろん、80年代初頭のUKプログレ周辺の流れをたどるうえでも、ひとつの節目となる作品だ。
トラックリスト
- A1 For You For Me (4:24)
- A2 Some Are Born (4:02)
- A3 Don’t Forget (Nostalgia) (2:57)
- A4 Heart Of The Matter (4:18)
- A5 Hear It (1:48)
- B1 Everybody Loves You (4:01)
- B2 Take Your Time (3:12)
- B3 Days (3:24)
- B4 Song Of Seven (11:07)
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Gazpacho – When Earth Lets Go (2004)
Gazpacho「When Earth Lets Go」について
Gazpachoは、ノルウェー・オスロで1996年に結成されたアートロック/クロスオーバー・プログレッシブロック・バンドである。ここで取り上げる「When Earth Lets Go」は2004年作として知られる作品で、のちに2015年盤としても流通している。プログレッシブロックの文脈にありながら、楽曲の展開だけでなく、音の置き方や空気の作り方に重きを置くタイプのバンドとして見られている。
サウンドの印象
Gazpachoの音楽は、プログレッシブロックらしい構成の変化を持ちながら、演奏のひとつひとつを前面に出しすぎず、曲全体の流れを組み立てていくところに特徴がある。Jan Henrik Ohmeのボーカルを中心に、Mikael Krømer、Jon-Arne Vilbo、Kristian Olav Torp、Lars Erik Asp、Thomas Alexander Andersenが加わる編成で、ギター、鍵盤、リズム隊が細かく重なっていくスタイルである。アートロック寄りの整理された響きと、プログレッシブロックの構築感が同居する作品といえる。
作品の位置づけ
Gazpachoは後年の作品で広く知られるようになるが、「When Earth Lets Go」はその初期の時期にあたるアルバムで、バンドの方向性を確認するうえで重要な一枚として扱われることが多い。派手な技巧の誇示というより、曲の流れ、歌の置き方、音の密度で聴かせるタイプの作品として位置づけられる。
ジャンルの文脈
同時代のプログレッシブロックやアートロックの流れの中では、派手なシンセや長大な組曲で押すタイプというより、静かな場面から徐々に展開を積み上げるバンドとして捉えやすい。北欧のプログレッシブロックらしい端正さもあり、同系統の作品を聴く人には、Porcupine TreeやMarillion周辺の感触を思い浮かべる場面もあるかもしれない。ただし、Gazpacho自身はより内省的な組み立てに寄る印象である。
まとめ
「When Earth Lets Go」は、Gazpachoの初期を示すアルバムとして、アートロックとプログレッシブロックの接点を見せる作品である。2004年のオリジナル作品として、バンドの後の方向性につながる要素を含みつつ、端正な演奏と構成でまとめられた一枚といえる。
トラックリスト
- A1 Intro
- A2 Snowman
- A3 Put It On The Air
- A4 Souvenir
- B1 Steal Yourself
- B2 117
- B3 Beach House
- C1 Substitute For Murder
- C2 Dinglers Horses
- C3 When Earth Lets Go
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Pink Floyd – The Wall (1979)
Pink Floyd「The Wall」について
1979年にリリースされたPink Floydの11作目のスタジオ・アルバムが『The Wall』だ。ロンドン出身の英ロック・バンドとして出発した彼らが、プログレッシブ・ロックの文脈で大きな存在感を示していた時期の作品で、バンドの代表作としてよく挙げられる1枚でもある。
本作は、1978年12月から1979年11月にかけて録音され、1979年11月30日にUKで発売された。US盤は同年12月8日発売。いわゆるコンセプト・アルバムとして知られ、物語性のある構成と、楽曲ごとのつながりが強い作品になっている。
作品の位置づけ
『The Wall』は、Pink Floydの後期を代表するアルバムのひとつだ。『The Dark Side of the Moon』や『Wish You Were Here』で深めてきた構成力、音響処理、演出性が、この作品ではさらに前面に出ている。ロック・オペラ的な流れを持ち、個々の曲を並べるというより、全体でひとつの物語を形作るタイプのアルバムになっている。
バンドの中心人物だったRoger Watersの色が強く出た作品としても知られる。クレジット上でも、作曲・演奏・プロデュース面でWatersとDavid Gilmourの役割が大きく、Richard Wright、Nick Masonを含む編成でまとめられている。
サウンドの特徴
音の質感は、硬さのあるギター、厚みのあるコーラス、効果音の挿入が印象的だ。静かなパートと大きな音圧の場面がはっきり分かれ、曲ごとのダイナミクスが大きい。アコースティック楽器とエレクトリック楽器が交互に現れ、場面転換の多い作りになっている。
プログレッシブ・ロック、クラシック・ロック、アート・ロックの要素が重なり、同時代の大作志向の作品群の中でも存在感のある仕上がりだ。King CrimsonやGenesisなどと並べて語られることもあるが、Pink Floydの場合は実験性に加えて、歌詞と物語の比重が大きい点が特徴的だ。
代表曲とシングル
本作からは「Another Brick in the Wall, Part 2」がシングルとして発表され、UKチャートで1位を記録した。合唱パートのある構成がよく知られており、アルバムを代表する楽曲として広く認識されている。
そのほかにも、「Comfortably Numb」や「Hey You」など、アルバム全体の流れの中で強い印象を残す楽曲が並ぶ。曲単体でも耳に残るが、物語の進行と結びついている点がこの作品らしいところだ。
制作にまつわる話
録音はフランスで始まり、その後ロサンゼルスでも作業が行われた。制作期間が長く、複数の場所で段階的に進められたことが記録されている。アルバムの外装デザインも特徴的で、白い壁とレンガの意匠が作品の内容とつながっている。
初期のUK盤では、見開きジャケット内側のクレジット表記やレンガの配置などに違いがあることも知られている。こうした細部まで含めて、作品全体の完成度が高いアルバムだ。
まとめ
『The Wall』は、Pink Floydの音楽性が物語性と演出性の両面で結実した1979年の作品だ。重層的な構成、はっきりした音の対比、代表曲の強さがそろい、バンドの歴史の中でも大きな位置を占めるアルバムとして扱われている。
トラックリスト
- A1 In The Flesh?
- A2 The Thin Ice
- A3 Another Brick In The Wall Part 1
- A4 The Happiest Days Of Our Lives
- A5 Another Brick In The Wall Part 2
- A6 Mother
- B1 Goodbye Blue Sky
- B2 Empty Spaces
- B3 Young Lust
- B4 One Of My Turns
- B5 Don’t Leave Me Now
- B6 Another Brick In The Wall Part 3
- B7 Goodbye Cruel World
- C1 Hey You
- C2 Is There Anybody Out There?
- C3 Nobody Home
- C4 Vera
- C5 Bring The Boys Back Home
- C6 Comfortably Numb
- D1 The Show Must Go On
- D2 In The Flesh
- D3 Run Like Hell
- D4 Waiting For The Worms
- D5 Stop
- D6 The Trial
- D7 Outside The Wall
Mike Oldfield – Impressions (1980)
Mike Oldfield『Impressions』について
Mike Oldfieldの『Impressions』は、1980年に発表された作品をもとにしたコンピレーションで、1981年にUK盤としてリリースされた1枚だ。マルチ・インストゥルメンタリストとして知られるOldfieldの幅広い作風を、複数の時期の録音でまとめて見せる内容になっている。
Oldfieldは、プログレッシブ・ロックを軸に、フォーク、民族音楽、クラシック、電子音楽などを横断してきたUK出身の作曲家・演奏家だ。代表作としては、Virgin Recordsの名を広く知らしめた1973年の『Tubular Bells』がよく挙げられる。この『Impressions』でも、そうした長尺構成や多重録音を使った作り、ロックを土台にしながら曲ごとに表情を変える組み立てが見えてくる。
作品の内容
このアルバムは、既発曲をまとめた編集盤としての性格が強い。Side A、Side B、Side C、Side Dで異なる時期の音源が組み合わされており、代表的な楽曲群をひとつの流れで追える構成だ。
- Side A: 既発アルバムからの収録
- Side B: 既発アルバムからの収録
- Side C: 既発アルバムからの収録を中心に構成
- Side D: アルバム未収録シングルをまとめた内容
なかでもSide Cに入る「I Got Rhythm」は、このコンピレーション向けの別バージョンとして扱われる曲だ。こうした収録の仕方から、単なる寄せ集めではなく、Oldfieldの多面的な作風を横断して聴かせる意図が感じられる。
サウンドの印象
サウンド面では、プログレッシブ・ロックらしい展開の多さと、アコースティックな手触りが同居している。エレクトリックなバンド・サウンドだけで押すのではなく、フォーク寄りの素朴な響きや、組曲的に進む構成が混ざるあたりが特徴的だ。Art Rock、Folk Rockの要素も強く、曲によっては軽やかさよりも、音を積み重ねていく作りが前に出る。
同時代のUKプログレ周辺でいえば、長編志向や複雑な構成という点で比較されることは多いが、Oldfieldの場合はシンフォニックな大作感だけでなく、民謡的な旋律や素朴な楽器感が入りやすいところに個性がある。
代表曲とのつながり
Mike Oldfieldを語るうえでは、『Tubular Bells』や「Moonlight Shadow」がよく知られているが、『Impressions』はそうした大きな代表曲だけでなく、アルバム単位で展開してきた彼の仕事ぶりをまとめて見せる位置づけの作品といえる。加えて、クリスマス曲「In Dulci Jubilo」のヒットでも知られるように、旋律の強さとアレンジの工夫が作品全体を支えている。
まとめ
『Impressions』は、Mike Oldfieldの初期からの楽曲を通して、その作風を見渡せる編集盤だ。プログレッシブ・ロックを基盤にしながら、フォークやアート・ロックの要素を行き来する構成で、彼の音楽の幅を確認できる内容になっている。
トラックリスト
- A Tubular Bells – Live: Part 1 (28:42)
- B Ommadawn: Part 1 (19:14)
- C1 Airborne (5:06)
- C2 Platinum (6:03)
- C3 Charleston (3:17)
- C4 Punkadiddle (4:56)
- C5 I Got Rhythm (4:43)
- D1 Guilty (4:00)
- D2 Pipe Tune (2:31)
- D3 In Dulci Jubilo (2:50)
- D4 Wreckorder Wrondo (2:31)
- D5 Cuckoo Song (3:15)
- D6 On Horseback (3:25)
- D7 Portsmouth (2:00)
- D8 Sailor’s Hornpipe (1:32)
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Anabis – Heaven On Earth (1980)
Anabis『Heaven On Earth』について
『Heaven On Earth』は、ドイツのプログレッシブ・ロック・バンド、Anabisによる作品です。オリジナルは1980年のリリースで、バンド結成初期の時期にあたるアルバムと見てよさそうです。アーティストの出身地はドイツ・マールブルク周辺で、1980年に結成されたというプロフィールとも重なります。
作品の位置づけ
Anabisは、アート・ロックとプログ・ロックを軸にしたバンドです。『Heaven On Earth』は、その初期の活動を示す記録として捉えやすい一枚です。1980年前後のドイツのロックといえば、クラウトロック以後の流れを受けつつ、より構成的で演奏面を重視したプログレ寄りの作品が並ぶ時期でもあり、この作品もその文脈に置いて理解しやすいです。
同時代のドイツ勢でいうと、曲の展開を重ねていくタイプのプログ・ロックや、演奏と構成のバランスを意識したアート・ロックの系譜に近い印象があります。派手なヒット曲で押すというより、アルバム全体で聴かせるタイプの作品として見られます。
サウンドの印象
スタイル表記はアート・ロック、プログ・ロックです。そうした枠組みから見ると、曲ごとの展開、楽器の重なり、演奏の組み立てが軸になっている作品と考えやすいです。ロックの基本形を保ちながら、細かなアレンジや構成で聴かせるタイプの質感が想像されます。
メンバー数も多く、Jürgen Haustein、Günther Hergl、Werner Eismann、Frieder Gottwald、Holger Sann、Eleonore Wittekind-Eismann、Mike Morkel、Stefan Gans、Bertrand Cazeneuve、Andreas Sommavilla、Robert L. Langstroff、Erhard Waschke、Peter Müller、Roland Dörr、Bert Beck、Frank Michael Gottwald、Walter Morkelと、かなり大所帯です。こうした編成は、厚みのあるアンサンブルや多彩なパート構成につながりやすいです。
聴きどころの見方
この作品については、特定の代表曲やヒット曲が広く知られているというより、アルバム単位でのまとまりに注目したいタイトルです。プログ・ロックらしく、1曲ごとの存在感だけでなく、曲順を通して流れを追う楽しみ方がしっくりきます。
- ドイツのプログ・ロック/アート・ロックの一作
- 1980年オリジナルの作品
- 大人数編成によるアンサンブル感
- 楽曲構成を重視したアルバムとしての性格
まとめ
Anabis『Heaven On Earth』は、1980年のドイツ産プログ・ロックとして位置づけやすい作品です。バンド初期の空気を伝えるアルバムとして、アート・ロック寄りの構成感と、複数メンバーによる演奏の厚みがポイントになりそうです。派手さよりも、作品全体の組み立てで聴かせるタイプの一枚として見ておくと、輪郭がつかみやすいです。
トラックリスト
- A1 Heaven On Earth (13:00)
- A2 Water-Problem (3:55)
- A3 Faded Dreams
- B1 Malleus Maleficarum (13:15)
- B2 Assassination (6:00)
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Yes – 90125 (1983)
Yes『90125』について
Yesの『90125』は、1983年に発表された11作目のスタジオ・アルバム。プログレッシブ・ロックの代表格として知られるYesが、よりポップでコンパクトな感触を前面に出した時期の作品であり、バンドの中でも大きな転機として語られることが多いアルバムだ。
作品の位置づけ
それまでのYesは、長尺曲や複雑な展開、神秘的な歌詞、緻密なアートワークで知られてきたが、『90125』ではそうした要素を残しつつ、より明快なリフと強いビート、洗練されたポップ感がはっきりしている。プログレ、アート・ロック、ポップ・ロックが交差する内容で、80年代らしい音像へと寄っていった作品といえる。
アルバム名は、当時のオリジナル・カタログ番号に由来するものとして知られている。作品としては、Yesの中でも商業的に最も成功したアルバムのひとつに数えられ、バンドの新しい局面を示した一枚。
サウンドの特徴
全体の印象は、硬質なギターの切れ味と、シンセを含む整った音の配置が目立つ作り。プログレ由来の構成感を保ちながらも、曲のフックが前に出ていて、80年代初頭のロック・サウンドとしてまとまりがある。複雑さだけで押し切るのではなく、リズムの輪郭やコーラスのわかりやすさが際立つタイプの作品だ。
同時代の流れで見ると、プログレ勢が新しい時代の音作りへ適応していく中での代表的な例とも言える。従来のYes像と、よりラジオ向きのロック感覚が同居している点が、このアルバムの特徴になっている。
代表曲とヒット
この作品からは「Owner Of A Lonely Heart」が大きなヒットになった。アメリカではバンド初の全米1位を記録しており、『90125』の存在を決定づける楽曲として知られている。鋭いギター・リフとリズミカルな構成が印象的で、Yesの代表曲としても広く認識されている。
ほかにも本作からは複数のシングルが出ており、アルバム単位での浸透度も高い。バンドのカタログの中でも、楽曲の輪郭がはっきりした一枚として位置づけられる。
リリース情報
- アーティスト: Yes
- タイトル: 90125
- オリジナル・リリース年: 1983年
- リリース国: Japan
- ジャンル: Rock
- スタイル: Art Rock, Prog Rock, Pop Rock
Yesの長いキャリアの中でも、『90125』は音楽性の更新がはっきり見える作品だ。プログレッシブ・ロックの文脈を踏まえながら、80年代のメインストリームにも届いたアルバムとして、今もよく参照される一枚になっている。
トラックリスト
- A1 Owner Of A Lonely Heart (4:26)
- A2 Hold On (5:15)
- A3 It Can Happen (5:26)
- A4 Changes (6:17)
- B1 Cinema (2:07)
- B2 Leave It (4:12)
- B3 Our Song (4:17)
- B4 City Of Love (4:49)
- B5 Hearts (7:34)