The Albion Band – A Christmas Present From The Albion Band (1987)

フェアポート・コンヴェンション(Fairport Convention)やスティーライ・スパン(Steeleye Span)の創設メンバーとして、英国エレクトリック・トラッド/フォーク・ロックの礎を築いた名伯楽アシュリー・ハッチングス(Ashley Hutchings)。彼が主宰した流動的コレクティブ、ジ・アルビオン・バンド(The Albion Band)が発表した本作『A Christmas Present From The Albion Band』は、英国の冬の情景と古くからのクリスマスの民俗的儀礼を、演劇的な語りとエレクトリック・フォークの手法で見事に描き出したコンセプチュアルな季節盤だ。

冬至祭の民俗学から第一次世界大戦の休戦までを巡る演劇的構成

1980年代半ばからアルビオン・バンドの風物詩として定着したクリスマス・ツアー「An Albion Christmas」の熱気を反映した本作。単なるホリデー・シーズンの定番曲集とは一線を画し、中世から近世にかけてのイングランド文学の朗読とトラディショナル・ソング、さらには同時代のフォーク・ロックをモザイク状に織り交ぜた構成が最大の魅力となっている。

アルバム随所に挿入されるスポークン・ワード(語り)の選定には、民俗学者肌のハッチングスならではの知的なこだわりが光る。16世紀のピューリタン論客フィリップ・スタッブスによる『悪徳の解剖(The Anatomie of Abuses)』(1583年)の辛辣な一節から、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』、さらにはトマス・ハーディの小説『緑の木陰の下で(Under the Greenwood Tree)』のテキストに至るまで、祝祭に沸く村人たちの息づかいや宗教的・社会的な摩擦の歴史が立体的に浮かび上がる。特にB面のクライマックスでは、第一次世界大戦の記録テキストを背景に、英国の軍歌「Keep the Home Fires Burning」とドイツの聖歌「Es ist ein Ros entsprungen(一輪のばらが咲いて)」が重なり合い、1914年冬の最前線で起きた奇跡の「クリスマス休戦」の光景を痛切な祈りとともに立ち上げている。

キャシー・ルサーフの澄徹な歌声と、フィル・ビアの名人芸

80年代中盤のアルビオン・バンドを支えた布陣も極めて充実している。看板ボーカリストであるキャシー・ルサーフ(Cathy Lesurf)の凛とした歌唱は、厳冬の張り詰めた空気を想起させる「In The Bleak Midwinter」や「Tomorrow Shall Be My Dancing Day」において、トラッドの気品と透明感を鮮烈に印象づける。

演奏面を牽引するのは、のちに名フォーク・デュオ「ショウ・オブ・ハンズ(Show of Hands)」を結成するマルチ奏者フィル・ビア(Phil Beer)だ。フィドル、マンドリン、アコースティック&エレクトリック・ギターを自在に持ち替え、中世舞曲「The Official Branle(Ding Dong Merrily On High)」やイングランド西部のワッセイリング(果樹園や家々を巡り豊穣を祈る伝統儀礼)に由来する「Somerset Wassail」で軽快かつ力強いグルーヴを生み出している。さらにザ・バンド(The Band)のロビー・ロバートソンが書いた名曲「Christmas Must Be Tonight」をルーツ・ロック調にカバーし、伝統曲群と違和感なく繋ぎ合わせている点も聴き逃せない。

商業主義とは対極にある、生きた英国民間伝承の温もり

きらびやかな商業ポップスとしてのクリスマス盤とは対照的に、寒風吹きすさぶ田園地帯の暖炉の温もりや、教会や酒場に集う人々の素朴な歓喜をそのままパッケージしたような本作。英国フォーク・ロックのパイオニアたちが、自国のルーツと年中行事に宿る魂を愛情深く掘り下げた、冬の訪れとともに幾度でも針を落としたくなるタイムレスな名作だ。

トラックリスト

  • A1 - In The Bleak Midwinter
  • A2 - Tomorrow Shall Be My Dancing Day
  • A3 - Extract From Phillip Stubbes' ”Anatomie Of Abuses”, 1583
  • A4 - The Official Brandle (Ding Dong Merrily On High)
  • A5 - Worcester
  • A6 - Christmas Must Be Tonight
  • A7 - Bells Of Paradise & I Sing Of A Maid
  • A8 - Extract From Charles Dickens' A Christmas Carol
  • A9 - Welch Rabbit
  • B1 - Shepherds Arise
  • B2 - Personent Hodie
  • B3 - Extract From Thomas Hardy's ”Under The Greenwood Tree”
  • B4 - On The Christmas Night All Christians Sing
  • B5 - While Shepherds Watched Their Flocks
  • B6 - Keep The Homefires Burning, Extracts From Parnell's ”History Of The First World War” & Es Ist Ein Ros
  • B7 - Somerset Wassail
2026.04.29
この記事をシェア