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Martha And The Muffins – Trance And Dance (1980)

世界的な大ヒットとなったシングル「Echo Beach」の瑞々しいメランコリーによって、一躍ニューウェイヴ・シーンの寵児となったカナダ・トロント出身のアート・ポップ・グループ、マーサ・アンド・ザ・マフィンズ(Martha and the Muffins)。世界的な成功のプレッシャーが押し寄せる中、わずか半年余りのインターバルで英DinDiscより1980年秋に放たれた2ndアルバム『Trance And Dance』は、前作のポップな親しみやすさを大胆に裏切り、より冷徹で催眠的なポストパンクの実験精神へと潜行した意欲作である。

マイク・ハウレットのプロデュースと、マナー・スタジオでの濃密なセッション

元ゴング(Gong)のベーシストであり、OMDやシンプル・マインズ初期の名盤を手掛けたニューウェイヴの職人プロデューサー、マイク・ハウレット(Mike Howlett)が前作に引き続いて指揮を執り、英国オックスフォードシャーの名門マナー・スタジオ(The Manor)で録音された。本作が持つ特異な音響空間は、マイク・ハウレットの明晰なプロダクションと、バンドが持つ醒めたアート・スクール的感性との摩擦から生まれている。

マーサ・ジョンソンとマーサ・ラドリーという「2人のマーサ」が織りなす無機質でクールなヴォーカル・アンサンブル、カール・フィンクルの強靭なベースライン、そしてアンディ・ハースによる時に不協和音を奏でるフリーキーなサックス。ポップ・ソングの定型を脱構築し、ミニマルな反復とニューウェイヴ特有のアンニュイを前景化させたアレンジメントが随所に光る。

都市の倦怠を描く「Suburban Dream」から、7分に及ぶ表題曲のトランスへ

遊園地の不穏な情景をスケッチした「Luna Park」に続き、郊外生活の退屈と閉塞感を鋭く切り取るシングル曲「Suburban Dream」では、乾いたギターカッティングと跳ねるビートが絶妙な緊張感を醸し出す。さらに「Was Ezo」や「Symptomatic Love」で見せるミニマルでダビーな空間処理は、トーキング・ヘッズやヤング・マーブル・ジャイアンツの同時代的なアプローチとも共鳴している。

クリス・スペディングの痛快なロックンロール「Motorbikin’」を無機質なニューウェイヴ・ファンクへと解体した異色のカヴァーを経て、アルバムの掉尾を飾る7分超の表題曲「Trance And Dance」へと至る展開は圧巻だ。タイトル通り、執拗なリズムの反復と冷ややかなシンセサイザーのレイヤーが聴き手を催眠的なトランス状態へと誘い込む。

オリジナル・ラインナップ最後の煌めきと、深化を遂げたアート・ポップの結晶

本作のリリース後、ヴィジュアル面でも重要な役割を果たしていたマーサ・ラドリー(のちにピーター・サヴィルらとアートデザインに携わる)やカール・フィンクルが脱退したため、本作はオリジナル・メンバー6人が揃った最後の記録となった。「Echo Beachの続編」を期待した当時の商業的評価からは賛否を呼んだものの、安易なヒットの複製を拒絶し、アート・パンクとしての矜持と冷徹な実験性を貫いた本作の価値は、今日において極めて高い再評価を獲得している。

トラックリスト

  • A1 - Luna Park (3:11)
  • A2 - Suburban Dream (3:27)
  • A3 - Was Ezo (4:00)
  • A4 - Teddy The Dink (3:27)
  • A5 - Symptomatic Love (4:08)
  • A6 - Primal Weekend (5:10)
  • B1 - Halfway Through The Week (3:40)
  • B2 - Am I On? (3:24)
  • B3 - Motorbikin' (2:55)
  • B4 - About Insomnia (3:10)
  • B5 - Be Blasé (2:39)
  • B6 - Trance And Dance (7:14)
2026.05.02
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