Theo Travis – The Tonefloat Sessions (2009)
英国カンタベリー・ロックやプログレッシヴ・ロックの正統を受け継ぎ、ソフト・マシーン(Soft Machine)やゴング(Gong)、ロバート・フリップ(Travis & Fripp)、そしてスティーヴン・ウィルソンの諸作でその類まれなリリシズムを響かせてきた名管楽器奏者、セオ・トラヴィス(Theo Travis)。彼が、ヴィドナ・オプマナ(vidnaObmana)の名でも名高いベルギーのアンビエント/ドローン界の巨匠ディルク・セリーズ(Dirk Serries)のソロ・プロジェクト、フィア・フォールズ・バーニング(Fear Falls Burning)と邂逅を果たした作品が、2009年にオランダの音響名門Tonefloatより限定ヴァイナルで放たれた『The Tonefloat Sessions』である。
限定200枚のダークブルー盤:Tonefloatが体現する美意識と静寂の美学
ポキュパイン・ツリーやベース・コミュニオン(Bass Communion)など、洗練されたアートワークと徹底したオーディオファイル仕様のヴァイナル・リリースで熱狂的な支持を集めるオランダのレーベル「Tonefloat」。本作はわずか200枚のみプレスされたダークブルー・カラーヴァイナル仕様の完全限定盤として世に送り出された。A面「The Lamentation Returns」とB面「Melancholy Of The Masses」という2つの長大な即興音響絵巻のみで構成されたフォーマットそのものが、本作のストイックな純度を象徴している。
セリーズが構築するのは、エレキギターの原音をエフェクトのフィードバックとループによって無限に引き延ばした、重厚にして幾重にも折り重なるドローンの壁だ。冷徹な金属質と暖かな倍音が共存するこの音の海は、轟音でありながらどこまでも静謐な瞑想空間を現出させる。
重層的ギター・ドローンと、咽び泣く木管楽器の邂逅:ダークジャズの深淵へ
そこにセオ・トラヴィスのソプラノ・サックスとアルト・フルートが吹き込まれた瞬間、無機質なドローン空間は息を呑むほど情緒的な生命の息吹を宿す。トラヴィスの奏でる旋律は、ドローンに埋没することなく、霧の中に差し込む一条の月光のように哀切な弧を描いていく。
フリージャズのようなアブストラクトな破壊衝動ではなく、ECMレーベルの諸作やアンビエント・ジャズの傑作群を想起させる深い内省と詩情。2人の音楽家が互いの呼吸と空間の余白を極限まで研ぎ澄ませながら対話を重ねていく様は、ボームレン(Bohren & der Club of Gore)などのダークジャズにも通じる底知れぬ孤独と美しさを湛えている。
深夜の暗闇で対峙すべき、極上のミニマリズム・アート
一切のビートを排し、音の持続と減衰、そして空気の震えそのものを聴かせる本作は、アナログ盤の溝に刻まれた微小なニュアンスまでも余すところなく味わい尽くすためのレコードだ。プログレッシヴ・ロックの文脈を超え、現代アンビエント/ドローン・ミュージックの記念碑的コラボレーションとして、耳の肥えた音響探求者に永遠の安らぎと緊張感をもたらす逸品である。
トラックリスト
- A - The Lamentation Returns
- B - Melancholy Of The Masses