Visible Wind – Catharsis (1988)
アルモニウムやマネージュといった名バンドを輩出し、独自のシンフォニック・ロック文化を育んできたカナダ・ケベック州。その肥沃な土壌から80年代末に登場したヴィジブル・ウィンド(Visible Wind)は、英ネオ・プログレッシヴ・ロックの系譜を受け継ぎながら、北米インディーズ特有の澄んだ叙情美を極めた名グループだ。1988年に完全自主制作でリリースされた記念すべきデビュー作『Catharsis』は、マリリオンやペンドラゴン、そして中期ジェネシスのファンを虜にし続ける、80sネオ・プログの隠れた名盤である。
モントリオールStudio 270録音と、ケベックから響く英国叙情詩の調べ
モントリオールのアウトレモンにある名所「Studio 270」にて1988年1月から4月にかけて録音された本作。フランス語圏ケベックのバンドでありながら、あえて全編英語詞を選択した彼らのサウンドは、70年代英国のジェネシス(とりわけ『静寂の嵐(Wind & Wuthering)』期)や初期キャメルが持っていた、どこまでも優美で哀愁に満ちたロマンティシズムを色濃く宿している。
シンセサイザーとメロトロンの重層的なレイヤーが織りなす幻想的な空間の中を、フィリップ・ブーシェの情感豊かなギターが流麗に舞う。80年代後半のプログレ不毛期にあって、トレンドのデジタル・ビートに媚びることなく、じっくりと物語を紡ぎ出すオーセンティックなシンフォニック・スタイルを貫き通した姿勢が清々しい。
クリストファー・ウェルズの演劇的ヴォーカルと、ドラマティックな大曲群
バンドの最大の魅力となっているのが、フロントマンであるクリストファー・ウェルズ(Christopher Wells)の表現力豊かな歌声だ。ピーター・ガブリエルやマリリオンのフィッシュを想起させるシアトリカルで熱を帯びたヴォーカル・デリヴァリーは、楽曲に深い陰影とドラマ性を与えている。
8分を超える大曲「The False Truths」では、繊細なピアノの序奏から劇的な転調を繰り返し、緊張感とカタルシスが交互に押し寄せるネオ・プログの真骨頂を提示。さらに7分半に及ぶ表題曲「Catharsis」の崇高なクライマックスや、ラストを飾るインストゥルメンタル「Les Tortues Schizophrènes Marchent Vers Leur Destin / Les Trois Lacs」に至るまで、組曲的なダイナミズムが息をつかせない。
自主制作が生んだ奇跡:80年代アンダーグラウンド・シンフォニックの秘宝
自主レーベル「Visible Wind Musik」から少部数プレスされたオリジナルのアナログ盤は、インサート付きの仕様も含めて現在では入手困難なコレクターズ・ピースとして知られている。後の『A Mystical Sadness』(1991)へと繋がる彼らの音楽的冒険の原点であり、北米プログレッシヴ・ロックの豊かな多様性を証明する、まさに清冽な風のような美しさをたたえた名品である。
トラックリスト
- A1 - Blind Regards (3:27)
- A2 - The False Truths (8:42)
- A3 - Learning To Bloom (3:50)
- A4 - Wedding Game (5:18)
- B1 - Catharsis (7:32)
- B2 - Wrong Time, Wrong Place (6:37)
- B3 - Les Tortues Schizophrènes Marchent Vers Leur Destin / Les Trois Lacs (8:49)