• TOP
  • Pop
  • Kate Bush – Never For Ever (1980)

Kate Bush – Never For Ever (1980)

Kate Bush『Never For Ever』――1980年のKate Bushを押し広げた3作目

Kate Bushの『Never For Ever』は、1980年9月にリリースされた3作目のスタジオ・アルバムだ。前作までで確立していた独自の歌世界を保ちながら、より曲ごとの表情がはっきりした作品として知られている。ロックとポップの枠に収まりきらない書き方、歌い方、音の置き方が、この時点ですでにかなり強い。

日本盤は帯付きの見開きジャケット仕様で、歌詞の日本語インサートやファンクラブ案内も封入された。盤面そのものより、当時の日本向けリリースらしい情報量のある作りになっている。

作品の位置づけ

Kate Bushは1978年のデビュー以来、作家性の強い作品を継続して発表してきたが、『Never For Ever』はその中でも重要な節目にあたる。デビュー作『The Kick Inside』、続く『Lionheart』に続いて出たこのアルバムでは、作曲家としての視野がさらに広がっている。のちの作品ほど大作志向ではないが、歌詞の題材やアレンジの振れ幅はかなり広い。

全体を通して、ピアノを核にしつつ、打楽器、シンセサイザー、ギター、コーラスが場面ごとに入れ替わる。ひとつの雰囲気を長く引っぱるというより、曲ごとに景色が切り替わる構成だ。

代表曲とアルバムの流れ

この時期のシングルとして知られるのが「Babooshka」「Breathing」「Army Dreamers」だ。いずれもアルバムの中で存在感が大きい。

「Babooshka」は、フックの強いリフと物語性のある歌詞が印象に残る曲で、Kate Bushの代表曲のひとつとして挙げられることが多い。曲としての分かりやすさがありつつ、声の使い分けや言葉の運びに彼女らしさが出ている。

「Breathing」は、原子力と生命の不安を題材にした曲として知られ、A面の最後に置かれている。静かな導入から緊張感を積み上げていく流れで、80年代初頭のポップ・アルバムの中でもかなり異色の存在感がある。

「Army Dreamers」は、戦争と若者の喪失を描いた曲で、メロディは穏やかでも内容は重い。単純に派手なヒット曲というより、アルバム全体の温度を決める1曲という印象だ。

なお、後年にクリスマス期の楽曲として知られる「December Will Be Magic Again」も、この時期のシングルとして並ぶ。アルバム本編とは別の流れで出た曲だが、同時代のKate Bushの制作活動の広がりを示している。

曲ごとの手触り

『Never For Ever』は、1曲ごとの輪郭がはっきりしている。奇妙な題材を扱っていても、音の組み立てが散らかりすぎない。むしろ、短い曲でも場面転換が明確で、歌詞の細部とアレンジの相互作用で聴かせるタイプだ。

たとえば「Delius (Song of Summer)」のような曲では、題材の取り方そのものがKate Bushらしい。クラシックや文学、演劇的な感覚を、ロック/ポップのフォーマットにそのまま押し込まず、別の形に変えている。

一方で「The Wedding List」や「The Infant Kiss」のような曲では、物語を追う感覚が強く出る。歌声の抑揚とアレンジの切り替えで、短編を読むような感触がある。

同時代の文脈

1980年という時期を考えると、ニュー・ウェイヴやシンセ・ポップが広がる中で、Kate Bushはそのどこにも完全には属していない。実験性はあるが、前衛音楽として閉じてもいない。ポップの形式を使いながら、演劇性や文学性を強く持ち込んでいる点で、同時代の一般的なロック/ポップ作品とはかなり距離がある。

比較対象としては、同じく作家性の強い英国のポップ作家たちが思い浮かぶが、Kate Bushの場合は歌唱のレンジと曲構成の独特さが際立つ。ソングライターであり、歌手であり、作品全体の演出家でもある、という印象だ。

日本盤の仕様

この日本盤には、見開きジャケット、帯、両面印刷のインサートが付く。インサートには日本語歌詞が載り、Kate Bush Fan Clubへの案内も入っている。さらに「Babooshka」のシングル紹介用の小さな案内もあり、当時の日本盤らしい資料性がある。

曲順や収録内容はオリジナルの流れを踏まえているが、インサートの表記による再生時間が他国盤と少し異なる点もある。こうした差も、日本盤を手に取る楽しみのひとつだ。

まとめ

『Never For Ever』は、Kate Bushが初期の段階ですでに独自の語り口を完成させつつあったことを示すアルバムだ。ヒット曲の「Babooshka」、緊張感のある「Breathing」、物語性の強い「Army Dreamers」と、印象の異なる曲が並びながら、全体としてはひとつのまとまりを保っている。

1980年の作品として見ると、当時のポップやロックの流れから少し外れた場所で鳴っている感じがある。その距離感こそが、このアルバムの大きな特徴だ。

トラックリスト

  • A1 – Babooshka (バブーシュカ) (3:20)
  • A2 – Delius (Song Of Summer) (ディーリアス(夏の歌)) (2:49)
  • A3 – Blow Away (For Bill) (死者たち (ビルに捧く)) (3:32)
  • A4 – All We Ever Look For (わずかな真実) (3:45)
  • A5 – Egypt (エジプト) (4:10)
  • B1 – The Wedding List (ウエディング・リスト) (4:15)
  • B2 – Violin (バイオリン) (3:14)
  • B3 – The Infant Kiss (少年の口づけ) (2:55)
  • B4 – Night Scented Stock (木の精は夜の香り) (0:48)
  • B5 – Army Dreamers (夢みる兵士) (2:55)
  • B6 – Breathing (呼吸) (5:25)

関連動画

2026.07.01
この記事をシェア