Can – Saw Delight (1977)
Can『Saw Delight』について
Canは、ドイツ・ケルンで1960年代後半に結成された実験的ロック・バンドで、クラウトロックを代表する存在として知られている。『Saw Delight』は1977年に発表された作品で、バンドの後期にあたる時期の1枚。Damo Suzuki在籍期の即興性や反復の強さを土台にしながら、70年代後半のCanらしい整理された演奏へと移っていく流れの中にあるアルバムだ。
この作品の位置づけ
Canは初期のマルコム・ムーニー期、そして日本人シンガーのDamo Suzukiを迎えた時期に、ノイズ、マントラ的な反復、ファンク寄りのリズムを組み合わせた独自の音像を作ってきた。『Saw Delight』は、その後の編成で作られた作品で、前衛性を保ちながらも、演奏のまとまりやリズムの輪郭がよりはっきりしている時期の録音として捉えられる。
Canの中では、代表曲「I Want More」(1976)のようなポップな側面が話題になることもあるが、『Saw Delight』はそうしたヒット性よりも、バンドの演奏感覚そのものを追うタイプのアルバムという印象が強い。
サウンドの特徴
本作は、Innerspace Studioで録音され、Delta Acoustic Studioでミックスされている。盤面には「3-D Stereo (Artificial Head Stereo)」の表記があり、空間の広がりを意識した制作であることがうかがえる。Canの作品らしく、音の配置やリズムの粘りが聴きどころになりやすい。
実際に耳を通すと、各楽器が前へ出たり引いたりする感覚があり、単純なロック・バンドの録音というより、スタジオ内での音の組み立てをそのまま作品にしたような印象を受ける。ギター、ベース、ドラム、キーボードが同じ方向へ一直線に進むというより、少しずつずれながら同じグルーヴを保つところにCanらしさがある。
同時代の文脈
1970年代後半のCanは、クラウトロックの文脈の中でも、単なる“電子音楽寄り”でも“ロック寄り”でも片づけにくい立ち位置にいた。Neu!やFaust、Amon Düül IIなどと並べて語られることは多いが、Canの場合は、即興の感覚と反復の設計がより強く結びついている点が特徴的だ。
『Saw Delight』も、その流れの中で、バンドが長年積み重ねてきた演奏方法を確認できる作品として見ることができる。後年の実験音楽やポスト・パンク、ダブ、オルタナティブ・ロックへの接続も、こうしたアルバムの中に見えてくる。
1981年盤について
ここでの盤は1981年の日本盤で、Made in Japan by Victor Musical Industries, Inc.、Virgin Recordsライセンス盤として流通している。日本語インサートとアンケートカードが付属する仕様。価格表記は¥2,000。
オリジナルの作品年は1977年なので、1981年盤はその後の日本での流通盤という位置づけになる。録音内容そのものを追うなら1977年の作品として見るのが自然だが、ジャケットや付属物、当時の日本盤の仕様に関心がある場合は、こうした再プレス盤ならではの資料的な面白さもある。
Canというバンドの流れの中で
Canは、Holger Czukay、Irmin Schmidt、Jaki Liebezeit、Michael Karoliを中心に、メンバーの入れ替わりを経ながら活動を続けた。『Saw Delight』の時期も、そうした変化の中で作られた作品群のひとつで、バンドの長い歴史の中では後期の章にあたる。
代表作として語られるアルバムは多いが、『Saw Delight』は、派手なエピソードや大きなヒット曲で押す作品というより、Canがどのように演奏を組み立て、スタジオで音を彫刻していたかを示す一枚として見えてくる。
まとめ
『Saw Delight』は、1977年のCanを知るうえで重要な後期作品のひとつ。クラウトロックの中心的バンドが、即興と反復の感覚を保ちながら、より整理されたバンド演奏へ向かっていく途中の記録として聴ける。1981年の日本盤は、その作品を日本で受け取るための一枚として、ライセンス盤ならではの存在感を持っている。
トラックリスト
- A1 – Don’t Say No (6:29)
- A2 – Sunshine Day And Night (6:13)
- A3 – Call Me (5:18)
- B1 – Animal Waves (15:20)
- B2 – Fly By Night (4:07)