Pictures – Pictures (1983)
Freeezの首謀者たちがEditions EGで切り拓いた、幻のエレクトロニック・サウンドスケープ
80年代初頭のロンドン・クラブシーンにおいて、「Southern Freeez」のブリットファンク旋風からアーサー・ベイカーとの「I.O.U.」によるエレクトロ革命まで、ダンスミュージックの最先端を駆け抜けたフリーズ(Freeez)。その頭脳であるジョン・ロッカ(John Rocca)とアンディ・ステネット(Andy Stennett)が、ポップ・チャートの狂騒から完全に離れ、純粋な音楽的探求のために結成したプロジェクトがピクチャーズ(Pictures)である。1983年にブライアン・イーノやロバート・フリップらを擁する名門Editions EGより発表された唯一のアルバム『Pictures』(カタログ番号: EGED 32)は、アンビエント、ミニマリズム、ジャズ、そしてエレクトロが静かに交錯する先駆的傑作だ。
ダンスフロアの熱狂を解体し、静謐な音響絵画へと昇華する試み
本作のサウンドは、当時のフリーズが放っていた華やかなディスコ/ファンクのビートとは対極をなす。シンセサイザーの繊細なシーケンス、アコースティック・ピアノの澄んだタッチ、パーカッションの反復、そしてダブワイズな空間処理によって、タイトル通り1枚の「絵画(Pictures)」を描き出すようなインストゥルメンタル主体のランドスケープが広がる。
オープニングの「Lullabye」から「Nursery Rap」への導入部では、ドリーミーな電子音のテクスチャーの中に子供のつぶやきのような断片が漂い、ノスタルジックな心理描写を誘う。続く「Dancing Mind To Mind」では、ステネットのジャズ由来のテンション・コードと抑制されたエレクトロ・シーケンスが融合し、脳内を心地よく刺激するミニマルなグルーヴを紡ぎ出している。
8分超の音響叙事詩「Battle Of The Leaves」とジャズの知性
Side Aのハイライトである8分15秒の大作「Battle Of The Leaves」は圧巻だ。落ち葉が風に舞い散る情景を思わせるアブストラクトなシンセの変調と、徐々に熱を帯びるポリリズミックなビートのレイヤーは、ペンギン・カフェ・オーケストラのような室内楽的アプローチや、ジョン・ハッセルが提唱した「フォース・ワールド(第4世界)」の音響美学を強く連想させる。
Side Bにおいても、オリエンタルな旋律が幻惑を誘う「Black Tiger」、メランコリックなピアノが孤独を浮き彫りにする「Loneliness」、そして呪術的なエレクトロ・パーカッションが蠢くラストの「Voodoo」に至るまで、二人の卓越したアレンジャーとしての手腕が遺憾なく発揮されている。
バレアリック/音響派の視点から再評価されるべきEGの隠れた名盤
ジャケットの幻想的なアートワークはダニー・ロッカ(Danny Rocca)によるもの。アンダーグラウンドなクラブ・プロデューサーとしてのジョン・ロッカが、Editions EGという実験音楽の最高峰レーベルと邂逅したことで生まれたこのハイブリッドな音響空間は、後のバレアリックやチルアウト、音響派エレクトロニカの先駆けとしても極めて高い完成度を誇る。
80年代初頭の英国オルタナティブ・ミュージックがいかに豊穣で越境的であったかを静かに物語る、タイムレスな魅力を湛えた一枚である。
トラックリスト
- A1 - Lullabye (4:12)
- A2 - Nursery Rap (0:32)
- A3 - Dancing Mind To Mind (5:00)
- A4 - Skrahs (3:30)
- A5 - Battle Of The Leaves (8:15)
- B1 - Black Tiger (4:55)
- B2 - Loneliness (5:02)
- B3 - Child In A Sweet Shop (4:05)
- B4 - Adventure Lost (4:40)
- B5 - Voodoo (3:47)