Charles Dumont – Trafic (Bande Originale Du Film) (1994)
ジャック・タチの映画美学と共鳴する、軽妙洒脱なフレンチ・シネジャズの至宝
フランス喜劇映画の巨匠ジャック・タチ(Jacques Tati)が、名キャラクター「ユロ伯父さん」の最後の冒険として1971年に世に送り出した傑作映画『トラフィック(Trafic)』。パリからアムステルダムのモーターショーへと向かう珍妙なキャンピングカーの旅を通して、近代自動車社会の滑稽さと人間味を鮮やかに描き出したこの映画のスコアを手掛けたのが、エディット・ピアフの名曲「水に流して(Non, je ne regrette rien)」の作曲者として知られるシャルル・デュモン(Charles Dumont)である。本作は、90年代のラウンジ/サントラブームの最中にDisques Somethin’ Elseより限定復刻された1994年リイシューLP盤(カタログ番号: SLJS-5046)だ。
ベルナール・ジェラールによる洗練を極めたオーケストレーション
本作の音楽監督・指揮を務めたのは、フランス映画音楽界の重鎮アレンジャー、ベルナール・ジェラール(Bernard Gérard)。デュモンが紡いだ小粋でキャッチーな旋律を、ジェラールはハープシコードの典雅な響き、切れ味鋭いホーンセクション、そして軽快なジャズ/ボサノヴァのリズム隊を配した極上のラウンジ・ジャズへと仕立て上げた。
メインテーマである「Thème Trafic」は、渋滞やクラクションといった無機質な都会のノイズさえもエレガントなダンスステップに変えてしまうようなスウィング感を誇る。一方、マリア・キンバリー演じる広報担当の女性に捧げられた「Thème Maria」では、優美なフルートとアコースティック・ギターが寄り添うノスタルジックなボサノヴァ調の調べが、旅情と淡いロマンスを詩情豊かに描き出している。
映像と音の喜劇:タチのミニマリズムを支えた音楽的構造
セリフを極限まで削ぎ落とし、日常の些細な身振りや環境音(フォーリー・サウンド)のアンサンブルによって笑いを生み出すジャック・タチの演出術において、音楽の配置はきわめて精緻に計算されている。本作の楽曲群も、単なる劇伴の枠にとどまらず、画面上の車の動きや人々のユーモラスな所作と完璧にシンクロする「音の仕掛け」として機能している。
Side Bの冒頭を飾る「La Course D’Autos」で見せるスリリングなアップテンポのジャズ・ロックから、風刺の効いた「Marche De La R.A.I.」に至るまで、変奏を重ねながら映画全体の軽快なテンポ感を牽引している。
90年代ラウンジ/渋谷系カルチャーが再発見した名盤
70年代初頭のオリジナル盤(Barclay)は長らく入手困難なレア盤として知られていたが、1990年代に巻き起こったサントラ再評価の波の中で、日本主導で丁寧にアナログ復刻されたのがこの1994年盤である。ジャケットに配されたイラストレーションの洒脱なデザインとともに、ターンテーブルに乗せた瞬間にパリの街角へとトリップさせてくれるようなタイムレスな魅力に満ちている。
フレンチ・イージーリスニング/シネジャズの黄金期が遺した、聴くたびに幸福な余韻に包まれる永遠のサウンドトラック・ピースである。
トラックリスト
- A1 - Thème Trafic (3:25)
- A2 - Thème La Route (1:37)
- A3 - Thème Maria (2:22)
- A4 - Thème La Route (1:40)
- A5 - Thème Maria (1:23)
- A6 - Thème Trafic (3:00)
- B1 - La Course D'Autos (3:52)
- B2 - Thème Maria (1:08)
- B3 - Les Lignes Jaunes (0:43)
- B4 - Trafic (2:34)
- B5 - Marche De La R.A.I. (2:14)
- B6 - Trafic (2:04)
- B7 - Thème Maria (1:41)