Kate Bush – The Kick Inside (1978)
Kate Bush『The Kick Inside』について
Kate Bushのデビュー・スタジオ・アルバムが、1978年2月17日に発売された『The Kick Inside』だ。前年にシングル「Wuthering Heights」で一気に注目を集めたKate Bushの、最初のフル・アルバムとして位置づけられる作品である。ロックやポップの枠に収まりきらない曲作りと、物語性の強い歌詞が早い段階から表れている1枚。
この時点のKate Bushはまだ19歳。デビュー作でありながら、すでに作家性が強く、一般的な英米ポップスとは少し違う感触を持っている。のちの長いキャリアの出発点として見ると、声の使い方、曲の展開、言葉の運び方など、すでに本人の個性がはっきりしている作品だ。
作品の位置づけ
Kate Bushは、David Gilmourに才能を見出されてEMIと契約した経緯でも知られる。『The Kick Inside』は、その背景から生まれたデビュー作であり、当時の英国シーンの中でもかなり異色の存在だった。プログレッシブ・ロック周辺の流れや、シンガー・ソングライター的な文脈とも接点があるが、どちらにも完全には回収されない独自性がある。
同時代の英国ポップを思い浮かべると、緻密なアレンジと強い歌唱で押し切るタイプの作品として受け取られやすい。とはいえ、単に技巧的というより、曲ごとに情景や人物像を描く方向が目立つアルバムだ。
代表曲とアルバム内の流れ
このアルバムを語るうえで外せないのが「Wuthering Heights」だ。1978年にシングルとして発売され、複数国で1位を記録した代表曲である。高い声のフレーズと、エミリー・ブロンテの小説『嵐が丘』を下敷きにした歌詞が印象的で、Kate Bushの名を広く知らしめた。
ほかにも「The Man With The Child In His Eyes」や「The Kick Inside」など、後のKate Bush像につながる曲が並ぶ。ピアノを軸にした曲でも、ただ静かにまとめるのではなく、声の表情やフレーズの切り替えで曲の景色を変えていく作りが目立つ。
収録曲全体を見ると、シングルで強く押し出された曲と、アルバム単位で流れを作る曲が同居している。デビュー作らしいまとまりと、すでに個人作家としての輪郭が出ている両方の印象がある。
日本盤について
日本盤は、欧米盤とはフロント・カバーが異なる仕様になっている。さらに帯付きで、2面のインサートには写真、曲目、和文バイオグラフィー、歌詞の日本語訳が付属する。内袋もポリエチレン製のU字型タイプという、当時の国内盤らしい丁寧な作りだ。
日本盤では、帯に「Angel and Devil」という別タイトルが使われている点も特徴的である。盤面の表記では「Strange Phenomena」が「Strange Phenemena」となっている誤記が知られている。
聴きどころ
実際に聴くと、まず声の存在感が大きい。音数を詰め込むよりも、フレーズの間合いで引っ張る場面が多く、歌そのものが曲の中心にある。ピアノ、ギター、リズム隊の配置は比較的明快だが、その上で旋律が予想外の方向へ動くことがある。
アルバム全体は、のちの大作志向や実験性の強い作品ほど複雑ではない。けれど、すでに「曲の中で物語を進める」感覚ははっきりしていて、デビュー作でここまで輪郭があるのはかなり印象的だ。
まとめ
『The Kick Inside』は、Kate Bushの出発点であり、代表曲「Wuthering Heights」を含む初期の核となる作品だ。1978年の英国ポップ/ロックの中でも、声、曲、言葉の結びつきが独特で、後の長いキャリアを見通せる内容になっている。日本盤はジャケットや付属物も含めて、オリジナル盤との違いがはっきりした一枚である。
トラックリスト
- A1 – Moving (3:06)
- A2 – The Saxophone Song (3:47)
- A3 – Strange Phenomena (2:53)
- A4 – Kite (2:58)
- A5 – The Man With The Child In His Eyes (2:39)
- A6 – Wuthering Heights (4:29)
- B1 – James And The Cold Gun (3:35)
- B2 – Feel It (3:00)
- B3 – Oh To Be In Love (3:17)
- B4 – L’Amour Looks Something Like You (2:25)
- B5 – Them Heavy People (3:04)
- B6 – Room For The Life (4:03)
- B7 – The Kick Inside (3:34)