Ragnarök – Fjärilar I Magen (1979)
スウェーデンの都市カルマルで結成され、北欧プログレッシブ・ロック屈指の牧歌的インストゥルメンタルを聴かせたRagnarök(ラグナロク)。1976年のデビュー作『Ragnarök』は、アコースティック・ギターやフルートが織りなす静謐で美しいフォーク・プログレとして名高いが、それから3年の空白を経て1979年に名門Silence Recordsからリリースされたセカンド・アルバム『Fjärilar I Magen』は、前作のイメージを鮮やかに裏切るダイナミックな進化を遂げた一枚だ。
カルマルの人形劇団「Byteatern」との濃密な舞台音楽
タイトルの『Fjärilar I Magen』は、スウェーデン語で直訳すると「お腹の中の蝶」。英語の慣用句「butterflies in my stomach」と同様に、本番前の緊張や興奮で胸がざわめく感覚を指す言葉だ。このタイトルが示す通り、本作に収められた楽曲群は、バンドの同郷カルマルを拠点に活動していた先鋭的な児童劇団・人形劇団「Byteatern」の同名舞台作品のために作曲・演奏された音楽が母体となっている。
Ragnarökは1970年代を通じて一般のコンサート会場だけでなく、学校や刑務所、地方のコミュニティを巡回し、Byteaternの舞台公演と密接に連動した演奏活動を重ねていた。舞台での実演を経て練り上げられた楽曲群は、1979年の夏、ストックホルムのスタジオ・デシベル(Studio Decibel)で録音され、本作としてレコード化された。
パーソネルにはバンドの中心人物であるピーター・ブリンゲルソン(Peter Bryngelsson / ベース、ギター)をはじめ、後にTwice a Manを結成するダン・セーデルクヴィスト(Dan Söderqvist / エレクトリック・ギター)、ペーデル・ネイボ(Peder Nabo / ピアノ、フルート)、トーマス・ヴィーゲルト(Thomas Wiegert / ドラムス)が名を連ね、ゲストとしてシェル・カールグレン(Kjell Karlgren)のサックスも加わっている。
歪んだギターの衝撃から叙情美への飛翔
針を落としてまず度肝を抜かれるのが、オープニングを飾る「Adrenalin」だ。1分40秒という短さのなかに、ファズの効いた歪んだエレクトリック・ギターが猛烈なリフを叩きつけるヘヴィなプログレッシブ・ロック。前作のアコースティックで穏やかなフォーク路線を期待して聴いた当時のリスナーは、文字通りアドレナリンが噴き出すような衝撃を受けただろう。
しかしアルバムの本質は、決して粗暴なハードロックへの転向ではない。続く大曲「Första ön(最初の島)」では、ブリンゲルソンの流麗なギターとネイボのフルート、リリカルなピアノのタッチが北欧特有の冷涼な空気感を描き出し、ジャズ・ロック的なリズムセクションの推進力とともに緊張感あふれるアンサンブルを構築していく。
「Östen är röd」や「Var glad var dag!」で見せる軽やかなジャズ・フュージョンの手触りや、舞台劇の場面転換を想起させる表情豊かな曲展開も聴き応え十分だ。B面冒頭の8分超におよぶ「Blåmolnsfolket」では、静寂とエレクトリックなダイナミズムが鮮烈なコントラストを描き、北欧トラッドの旋律がほのかに香る「Brushanespel」を経て、澄み切ったサウンドスケープが広がるラストの「Vattenytor(水面)」へと至る構成は見事というほかない。
北欧ジャズロックと演劇的空間の稀有な結実
1970年代末のスウェーデンにおけるプログ(Progg)運動は、政治的・社会的なメッセージを前面に出した歌モノが主流を占めていた。そのなかでインストゥルメンタルの演奏力と音楽的探求に軸足を置き、さらに演劇集団とのコラボレーションによって物語性や空間的な広がりを獲得したRagnarökの試みは、極めて特異で貴重な足跡を残している。
1stアルバムの pastoral な美しさと、プログ・ジャズロックとしての構築美、そしてエレクトリックの衝動が絶妙なバランスで結実した『Fjärilar I Magen』。北欧プログレッシブ・ロックの奥深さを知るうえで、避けては通れない名作だ。
トラックリスト
- A1 - Adrenalin (1:40)
- A2 - Första Ön (6:20)
- A3 - Östen Är Röd (5:25)
- A4 - Var Glad Var Dag (4:00)
- B1 - Blåmolnfolket (8:15)
- B2 - Brushanespel (2:10)
- B3 - Vattenytor (6:45)