Mini – Koncert (1980)
フルート奏者兼ボーカリストのトゥルク・アーダーム(Ádám Török)率いるハンガリーのプログレッシブ/ジャズ・ロック・グループ、ミニ(Mini)が1980年に国営レーベルのペピタ(Pepita)からリリースした初の公式ライブ・アルバム『Koncert』。スタジオ録音の2作『Vissza a városba』(1978年)、『Úton a Föld felé』(1979年)に続いて制作された本作は、1970年代の東欧ハンガリーにおけるジャズ・ロック/プログレッシブ・シーンの熱気を生々しくパッケージした実況録音盤である。
聖地の事故と急遽の会場変更──1980年6月8日ペシュトセントロリンツの記録
本作のレコーディングは、ハンガリーのロック史に残る不慮の事故と直面する中で行われた。当初、バンドはブダペストの若者文化と野外コンサートの象徴的存在だった「ブダ青年公園(Budai Ifjúsági Park)」での実況録音を予定していた。しかし録音予定日の直前である1980年5月27日、同会場で開催されたハードロック・バンド、エッダ(Edda Művek)の公演で、老朽化と観客の圧力によって石造りの手すり壁が15メートル以上にわたって崩壊し、負傷者が出る事故が発生。これを受けてブダ青年公園は即座に無期限閉鎖の処分が下された。
ライブ盤制作の計画が頓挫しかける中、代替の舞台として選ばれたのがブダペスト第18区の「ペシュトセントロリンツ青年公園(Pestszentlőrinci Ifjúsági Park、通称LIP)」であった。事故からわずか12日後の1980年6月8日、会場を移して決行されたステージの模様が、本作のマスターテープとして記録されることとなった。
盟友ザーヴォディ・ヤーノシュの帰還とステージの編成
この日のステージは、トゥルク・アーダームに加え、ネーメト・カーロイ(Károly Németh)のフェンダー・ローズ(エレクトリック・ピアノ)およびシンセサイザー、クヌ・ラースロー(László Kunu)のベース、バログ・イェネー(Jenő Balogh)のドラムスという、当時のレギュラー・カルテットが中核を担った。
特筆すべきは、ゲスト・ギタリストとしてクレジットされているザーヴォディ・ヤーノシュ(János Závodi)の参加である。ザーヴォディは1969年から1973年まで初期ミニのギタリストを務めた創設メンバーのひとりであり、脱退後はメガ・バンドであるピラミス(Piramis)のエース・ギタリストとして東欧屈指のスタジアム・ロックスターに上り詰めていた。古巣の重要なライブ盤制作にあたり、盟友のザーヴォディがステージに復帰したことで、キーボード主体のメロウなフュージョン・アンサンブルに鋭角なロック・ギターのドライヴ感が加わることとなった。
初期のブルース・ロックからジャズ・ファンクへ至る選曲
セットリストは、1970年代初頭の初期レパートリーから当時の最新曲まで、ミニの足跡を総括するような構成となっている。オープニングを飾る「Fekete Gép」や初期の名曲「Kereszteslovag(十字軍の騎士)」、ブルージーな情感を残す「Gőzhajó(蒸気船)」などでは、ジェスロ・タルからの影響を独自に昇華したトゥルク・アーダームの過熱したフルート奏法とパーカッション、荒々しいスキャットが前面に出ている。
一方で、ファースト・アルバムのタイトル曲でもある「Vissza A Városba(街へ帰ろう)」や「Kell A Barátság!」などでは、ネーメト・カーロイのエレクトリック・ピアノが滑らかなテンション・コードを刻み、1970年代後半のウェザー・リポートやリターン・トゥ・フォーエヴァーを意識したジャズ・ファンク的な展開を聴かせる。クラシカルなプログレッシブ・ロックとアメリカン・フュージョンの語法が野外ステージの音響の中で混ざり合い、東欧特有の哀愁を帯びたメロディへと着地していく。
黄金期の節目を刻んだライブ・ドキュメント
1980年代に入ると、ニュー・ウェイヴの台頭やメンバーの変遷に伴い、1970年代型プログレッシブ/ジャズ・ロックの勢力図は急速に変化していった。結果として本作は、ミニが誇ったアンサンブルの頂点と、ブダペストの青年公園文化が揺れ動いた時代の過渡期を捉えた貴重なドキュメントとなっている。
トラックリスト
- A1 - Fekete Gép = Black Turntable
- A2 - Ne Hátrálj! = Don't Give Way!
- A3 - Kolduskirály = King Of Beggars
- A4 - Senki Nem Vehet El Tőlem = Nobody Can't Take You
- A5 - Kereszteslovag = Crusader
- B1 - Kell A Barátság! = You Need Friends!
- B2 - Vissza A Városba = Back To Town
- B3 - Gőzhajó = Steamboat
- B4 - Játék-Rock = Playing-Rock