Capability Brown – Liar (1976)
ケイパビリティ・ブラウン(Capability Brown)が1976年に英カリスマ・レコード(Charisma Records)からリリースした『Liar』は、彼らが残した2枚のスタジオ・アルバムから選曲された編集盤だ。バンド自体は1974年にすでに解散していたが、レーベルが展開していた廉価・回顧ライン「Charisma Perspective」シリーズ(カタログ番号CS 5)の一環として、フォノグラム配給体制下で再編されて世に出た経緯を持つ。フロントカバーのメンバー写真は、ジェネシスのオフィシャル・フォトグラファーとしても知られるアルマンド・ガロ(Armando Gallo)が撮影したものだ。
ハーモニー・グラスの系譜と6人のマルチ奏者
バンドのルーツは、1960年代にエセックスで活動していたトニー・リヴァース&ザ・キャスタウェイズ(Tony Rivers & the Castaways)や、その発展形であるハーモニー・グラス(Harmony Grass)にある。ビーチ・ボーイズ直系の緻密なヴォーカル・ハーモニーを武器に「Move in a Little Closer, Baby」のヒットを放ったハーモニー・グラスだったが、1970年にリーダーのトニー・リヴァースが脱退。残されたトニー・ファーガソンやケニー・ロウらは、ファジー・ダック(Fuzzy Duck)のギタリストだったグラハム・ホワイトやデイヴ・ネヴィン、ドラムのロジャー・ウィリスらを迎え、1971年に新たな6人編成のバンドを立ち上げた。
バンド名は、18世紀イギリスの著名な造園家ランスロット・“ケイパビリティ”・ブラウンに由来する。メンバー6人全員がヴォーカルを担当し、ツイン・ギターやキーボード、ベース、ドラムにとどまらず、フルート、メロトロン、シンセサイザー、ヴィブラフォン、さらにはバラライカやリュートといった多彩な弦楽器まで自前で演奏し分けるマルチ・インストゥルメンタリスト集団としての編成を敷いていた。
スティーリー・ダンから盟友レア・バードまで、先見的なカヴァーの数々
本作の大きな特徴となっているのが、外部ソングライターや同時代アーティストの楽曲に対するユニークなカヴァーの数々だ。アルバム・タイトルにも冠された「Liar」は、アルゼン(Argent)のラス・バラードが書き下ろし、スリー・ドッグ・ナイトの全米ヒットでも知られるナンバーだが、ケイパビリティ・ブラウンは1972年にカリスマからのデビュー・シングルとしていち早く取り上げている。1stアルバム『From Scratch』に収録されたこのヴァージョンは、7分を超える長尺でハードなギター・リフと分厚いコーラスを交錯させるアレンジが施されていた。
また、A面冒頭の「Midnight Cruiser」は、スティーリー・ダンが1972年のデビュー盤『Can’t Buy a Thrill』で発表したばかりの楽曲をカヴァーしたものだ。彼らは1973年にこれをシングルとして録音し、英国プログレ/フォーク・ロックの文脈に持ち込んで流麗な多重コーラスを響かせている。
さらに、同じカリスマ・レーベルに所属していた仲間たちの楽曲も積極的に取り入れられている。「I Am & So Are You」はリンディスファーン(Lindisfarne)のアラン・ハルによる提供曲であり、2ndアルバム『Voice』(1973年)のオープニングを飾ったナンバーだ。一方の「Redman」は、レーベルメイトであるレア・バード(Rare Bird)のスティーヴ・グールドやデイヴ・カフィネッティらが書いた楽曲で、原曲のオルガン・ロックに自分たちならではのハーモニー・ワークを肉付けして再構築している。
10分に及ぶ組曲「Sole Survivor」と自作曲のプログレッシヴな野心
カヴァー曲の巧みな再解釈に目を奪われがちだが、バンド自身のオリジナル曲にも当時のプログレッシヴ・ロックの気風が色濃く反映されていた。トニー・ファーガソンが手がけた「Sole Survivor」は、「Escape」「Sole Survivor」「Cosmic Ride」「Time Machine」の4つのパートから構成される約10分の大作組曲だ。テンポチェンジやドラマティックな場面展開、アコースティックとエレクトリックの対比を盛り込み、ポップなコーラス・グループの枠にとどまらない構成力を示している。
一方、キーボードのデイヴ・ネヴィンによる「No Range」や、英国の交通安全標語をもじった副題を持つ「Keep Death Off The Road (Drive On The Pavement)」では、軽妙なブラスやファンキーなビート感を取り入れたアプローチも見られる。1stのプロデュースを手がけたスティーヴ・ローランズ、2ndを担当したジョン・ミルズという制作陣の違いを跨ぎつつ、1970年代初頭のカリスマ・レコードにおいてポップ・センスとプログレ的構築美の狭間を駆け抜けたバンドの足跡を、手際よく俯瞰できる1枚となっている。
トラックリスト
- A1 - Midnight Cruiser
- A2 - No Range
- A3 - I Am & So Are You
- Sole Survivor
- B1 - Keep Death Off The Road (Drive On The Pavement)
- B2 - Redman
- B3 - Sad Am I
- B4 - Liar