Zior – …Plus (1971)

70年代初頭の英国アンダーグラウンドにおいて、ブラック・サバスが提示した漆黒のヘヴィネスと、狂気をはらんだオカルト・サイケデリアを最も生々しく煮詰めていたバンドのひとつが、サウスエンド=オン=シー出身の4人組ジオリ(Zior)だ。1971年に名プロデューサーのラリー・ペイジが設立した伝説の短命レーベル「Nepentha」からリリースされた彼らのセルフタイトル・デビュー作は、半世紀を経た今もなお、プロト・ドゥーム/ブリティッシュ・ヘヴィ・サイケの「聖杯」としてカルト的な熱狂を呼び起こし続けている。本作『…Plus』は、1989年に英See For Miles Recordsが未発音源や幻の音源を網羅して編纂した決定的な拡張盤である。

キーフによる呪術的アートワークと、Nepenthaレーベルが放った暗黒の異形

ブラック・サバスの歴史的デビュー作やヴァーティゴ(Vertigo)の諸作で知られる写真家/デザイナー、キーフ(Keith “Keef” MacMillan)が手掛けた禍々しくも美しいアートワークが物語る通り、ジオリの音楽性は徹底して魔術的・背徳的なモチーフに彩られている。ライヴの現場ではブードゥー儀式や魔術的なパフォーマンスを取り入れ、当時のメディアから本物の黒魔術集団と恐れられたエピソードは有名だ。

キース・ボンサー(ヴォーカル、オルガン、フルート)の絞り出すような絶叫と奇怪なオルガン、ジョン・トルバのファズが歪み狂うギターリフ、そしてバリー・スキールズとピーター・ブリューワーによる重戦車のようなリズム隊。彼らが放つサウンドは、アトミック・ルースターやディープ・パープルの持つオルガン・ハードロックのドライブ感に、ドアーズの持つ呪術的酩酊感を毒薬のように注入したかのごとき凄まじい緊迫感を誇る。

ファズの狂宴「Za Za Za Zilda」から破滅の予言「Your Life Will Burn」へ

幕を開ける「I Really Do」の泥臭いブルース・ロックから一転、バンドの真骨頂が炸裂するのが問答無用のヘヴィ・サイケ・チューン「Za Za Za Zilda」だ。プリミティブなビートに乗せて繰り返される不穏なリフと呪文めいたコーラスは、一度聴いたら脳裏から離れない魔力を持つ。さらに、フルートが幽玄に舞う「Quabala」や、破滅的なタイトルが示す通りプロト・メタルの原型を叩きつける「Your Life Will Burn」など、当時のアンダーグラウンドの混沌とした熱気そのものが真空パックされている。

また、本作『…Plus』の大きな価値は、当時ドイツのみで極少数リリースされた幻の2ndアルバム『Every Inch A Man』収録曲や貴重なボーナストラックが惜しみなく追加収録されている点にある。彼らが変名バンド「Monument」としても密かに活動していたことからも分かる通り、その卓越した演奏力と底なしの創作意欲の全貌をこの1枚で俯瞰することができる。

ストーナー/ドゥーム・メタルの源流に聳え立つ、英国ロックの地下遺産

サバス直系のドゥーム・リフ、アシッドなブルース・ハープ、そして怪しくうねるハモンド・オルガン――のちのカテドラル(Cathedral)やエレクトリック・ウィザード(Electric Wizard)といった90年代以降のドゥーム/ストーナー勢が再評価したのも当然と言える、危険な芳香に満ちた音響世界。メジャーなメインストリームのロック史からは零れ落ちながらも、地下水脈で永遠に語り継がれるべき、真のブリティッシュ・ハード・ロックの暗黒名盤である。

トラックリスト

  • A1 - I Really Do
  • A2 - Za Za Za Zilda
  • A3 - Love's Desire
  • A4 - New Land
  • A5 - Now I'm Sad
  • A6 - Give Me Love
  • A7 - Quabala
  • A8 - Oh Mariya
  • B1 - Your Life Will Burn
  • B2 - I Was Fooling
  • B3 - Before My Eyes Go Blind
  • B4 - Rolling Thunder
  • B5 - Dudi Judy
  • B6 - Evolution
  • B7 - Cat's Eyes
  • B8 - Strange Kind Of Magic
  • B9 - Ride Me Baby
2026.05.01
この記事をシェア