The Snake Corps – Flesh On Flesh (1985)
80年代英国インディーズ・シーンにおいて、冷徹な哀愁と霧がかったドリーム・ポップの美学を確立した名バンド、サッド・ラヴァーズ&ジャイアンツ(Sad Lovers & Giants)。そのギタリストであったトリスタン・ギャレル=ファンク(Tristan Garel-Funk)がバンド解散直後の1984年に結成したスネイプ・コープス(The Snake Corps)は、前身バンドのエレガントな耽美主義を継承しつつ、よりダイナミックで骨太なポストパンク/ゴシック・ロックの突進力を融合させた伝説のグループだ。1985年に名門Midnight Musicからリリースされた1stアルバム『Flesh On Flesh』は、ダークウェイヴの歴史に燦然と輝く隠れた金字塔である。
アラスカ・スタジオの濃密な空気感と、Suicide/Homicideと題された二部構成
コクトー・ツインズやジーザス&メリー・チェインらも使用したロンドンの名拠点、アラスカ・スタジオ(Alaska Studios)で録音された本作は、アナログ盤のA面に「Suicide(自殺)」、B面に「Homicide(他殺)」という不穏なテーマを冠したコンセプチュアルな構成を持つ。リズム隊にはアナーコ・パンクの伝説ルーディメンタリー・ペニ(Rudimentary Peni)のドラマー、ジョン・グレヴィルを迎え、地を這う重厚なビートを導入したことで、サウンドは前身バンドよりも遥かに強靭な肉体性を獲得した。
トリスタンのトレードマークである、コーラス・エフェクトが深くかかった冷ややかなジャングル・ギターのアルペジオが空間を切り裂く。そこに重なるマーク・ルイス(Marc Lewis)のヴォーカルは、ザ・サウンドのエイドリアン・ボーランドやザ・カメレオンズのマーク・バージェスを想起させる情熱的なバリトンであり、陰鬱な世界観の中に圧倒的なエモーションの光を灯している。
疾走するアンセム「Victory Parade」から陰影深き「Science Kills」へ
オープニングの「Victory Parade」が叩きつけるドラムと鋭利なリフは、聴き手を一瞬にして80年代半ばの薄暗いロンドンの地下クラブへと引きずり込む。焦燥感に満ちたメロディが疾走する「Animals All」や、切なさを湛えたサビが胸に迫る名曲「Save My Heart」など、キャッチーなソングライティングと哀愁のメランコリーが完璧な均衡を保っている。
B面「Homicide」の幕開けを飾る「Science Kills」では、テンポを落としつつも張り詰めたサスペンスと荘厳なスケール感が際立ち、「Look East For Eden」では中東的なオリエンタリズムを滲ませたダーク・サイケデリアを展開。単なるゴス・ロックの枠に収まらない多彩なアレンジメントが冴え渡る。
メジャーの波に呑まれず、地下で純度を守り抜いたポストパンクの美学
ジョン・ピールをはじめとする熱心なインディー信奉者から絶賛されながらも、当時の英国音楽誌の過度な流行偏重によって正当な評価が遅れた本作。しかし、ヨーロッパ大陸での熱烈なツアー活動と、後年の再評価によって、現在では80年代ポストパンク/ネオ・サイケデリックが生んだ最も完成度の高いデビュー・アルバムのひとつとして揺ぎない地位を築いている。レコードの溝から響く鋭利なギターと情熱的な咆哮は、今聴いても一切の古びを感じさせない。
トラックリスト
- A1 - Victory Parade (4:09)
- A2 - Animals All (3:38)
- A3 - Save My Heart (3:54)
- A4 - Man In The Mirror (3:36)
- A5 - Miracle (3:42)
- B1 - Science Kills (5:06)
- B2 - Another Monday (4:18)
- B3 - Look East For Eden (4:06)
- B4 - House Of Man (4:17)
- B5 - Flesh On Flesh (1:54)