Cabaret Voltaire – The Voice Of America (1981)
冷戦下のメディア支配と監視社会を告発する、インダストリアル・音響コラージュの金字塔
英国シェフィールドの鉄鋼都市から産声を上げ、スロッビング・グリッスルと並んでインダストリアル・ミュージックの礎を築いた実験音楽集団、キャバレー・ヴォルテール(Cabaret Voltaire)。リチャード・H・カーク(Richard H. Kirk)、スティーヴン・マリンダー(Stephen Mallinder)、クリス・ワトソン(Chris Watson)の黄金期トリオが、自主スタジオ「ウェスタン・ワークス(Western Works)」に籠もって1980年にラフ・トレード(Rough Trade)から放った記念碑的セカンド・アルバムが『The Voice Of America』である。本作は、ジャパン・レコーズより1981年にリリースされた国内初版アナログLP(カタログ番号: RTL-2)だ。
ファウンド・サウンドとダブの手法が暴くパラノイア
アメリカの対外プロパガンダ放送局「ボイス・オブ・アメリカ」を皮肉ったタイトルが示す通り、本作の核心にあるのはメディアによる情報統制と監視社会への強烈な批評性だ。後に世界的フィールド・レコーディング作家として名を馳せるクリス・ワトソンが操る短波ラジオ、警察無線、ニュース音声のテープコラージュが全編に不気味なノイズとして侵食する。
幕を開ける「The Voice Of America / Damage Is Done」では、ラジオ・アナウンサーの音声が歪んだエコーの中で寸断され、冷徹なドラムマシンとマリンダーの這いずるようなベースラインへと雪崩れ込む。レゲエ/ダブの過激な音響空間処理を取り入れたプロダクションは、ポスト・パンクの荒々しい衝動を無機質なエレクトロニック・ファンクへと昇華させている。
ファンクの解体とEBM/テクノへの先駆的アプローチ
本作が後世の電子音楽シーンに与えた影響は計り知れない。リチャード・H・カークによる金属的な変調ギターとシンセシスが炸裂する「Kneel The Boss」や、挑発的なタイトルを冠した「This Is Entertainment」では、反復するビートとノイズのミニマリズムによって、後のエレクトロニック・ボディ・ミュージック(EBM)やシカゴ・ハウス、インダストリアル・テクノの原型がすでに完成の域に達している。
一方、「Premonition」や終盤の「Messages Received」に見られる陰鬱なドローンとテープループは、80年代初頭のサッチャー政権下における英国の閉塞感と冷戦の核の恐怖を生々しく記録した音響ドキュメントとしても際立っている。
ダダの精神を宿した、80sアンダーグラウンドの至高のアナログ体験
バンド名の由来となったチューリヒのダダイズム発祥のカフェ「キャバレー・ヴォルテール」が象徴するように、彼らの音楽は権力や既成秩序に対する諧謔と破壊の精神に貫かれている。日本盤LP(RTL-2)ならではの重厚なカッティングは、中低域の粘りあるベースの唸りと、突発的に差し込まれるテープノイズの硬質なアタックをダイナミックに再現する。
音響実験の過激さとフロアを揺るがすビートの快楽が奇跡的な均衡で結実した、20世紀後半のカウンター・カルチャーを象徴する不朽の名盤である。
トラックリスト
- A1 - The Voice Of America / Damage Is Done
- A2 - Partially Submerged
- A3 - Kneel The Boss
- A4 - Premonition
- B1 - This Is Entertainment
- B2 - If The Shadows Could March? /1974
- B3 - Stay Out Of It
- B4 - Obsession
- B5 - News From Nowhere
- B6 - Messages Received