Henry Cow – In Praise Of Learning (1975)
Henry Cow『In Praise Of Learning』について
Henry Cowは、1968年にケンブリッジ大学で結成されたイギリスのアヴァンギャルド/アートロック・グループだ。中心にはフレッド・フリスとティム・ホジキンソンがいて、そこにクリス・カトラー、ジョン・グリーヴス、リンゼイ・クーパーらが加わる形で、70年代の実験的なロックの中でもかなり独自の場所を占めたバンドとして知られている。
『In Praise Of Learning』は1975年発表の作品で、Henry Cowの活動期の中でも重要な位置にある1枚。ジャズ、ロック、アヴァンギャルドという枠で整理されることはあるけれど、実際にはそのどれか1つに収まるというより、構成の細かさ、演奏の切り替わり、歌とインストの行き来が強く印象に残る作品だ。バンドの持っていた緊張感と、組曲的な展開の両方が前面に出ている。
作品の位置づけ
Henry Cowは活動の中で編成の変化が大きく、音楽の方向もアルバムごとに少しずつ変わっていくが、『In Praise Of Learning』はその中でも比較的、バンドの集団性がはっきり出ている時期の作品として受け取られている。フリスのギター、ホジキンソンの鍵盤と作編曲、カトラーのドラム、グリーヴスのベースといった役割が、単純な伴奏と主旋律の関係に収まらず、かなり細かく絡み合うのが特徴だ。
この時代のHenry Cowは、同時代のカンタベリー系や、欧州の室内楽的なロック実験とも近い距離で語られることがある。具体的には、ロックの形式を保ちながらも、演奏の分断、拍子の揺れ、メロディの扱い方にかなり強い実験性がある点で、一般的なプログレッシブ・ロックとは少し違う印象になる。
聴きどころ
このアルバムでは、楽曲がすぐに安定した形に落ち着かず、フレーズの断片や対位的な動きが積み重なっていく場面が目立つ。歌が入る曲でも、いわゆる「歌もの」の流れより、楽器群のぶつかり合いの中で声が配置されていく感じが強い。
実際に聴くと、まず耳に残るのは、音数の多さというより、各パートの置き方の細かさだ。ギターはリフとして固定されず、短い音型やノイズめいたアクセントとして働くことがあるし、ベースも土台というより推進力や不穏さを作る役回りに寄っている。そこに木管的な色合いが加わる場面では、ロックの編成というより小編成の現代音楽に近い感触も出てくる。
楽曲面と代表性
Henry Cowには広く知られたヒット曲というタイプの楽曲はあまりないが、このアルバムはバンドの代表的な時期を示す1枚として語られることが多い。曲単位で切り出して聴くというより、アルバム全体の流れで印象が強まるタイプの作品だ。
特に、演奏の密度が高い場面と、急に隙間が生まれる場面の対比がはっきりしていて、そこでバンドの表現意図が見えやすい。歌唱も、一般的なロックの「フロントに立つヴォーカル」というより、アンサンブルの一部として機能している。
1979年盤について
この日本盤は1979年リリースで、帯と日本語解説書が付属している。オリジナルの1975年盤から少し時間が経って出た再発盤として扱われるもので、当時の日本でHenry Cowを聴く入口のひとつになっていた可能性がある。日本語ライナーが付くことで、作品の背景やバンドの文脈に触れやすい仕様になっているのが、この盤の特徴だ。
まとめ
『In Praise Of Learning』は、Henry Cowというバンドの実験性、構成力、アンサンブルの緊張感がまとまって出た作品だ。ジャズ、ロック、アヴァンギャルドという言葉で説明されることはあるが、実際にはその境界を行き来する音作りが中心にある。70年代半ばの英国実験音楽の空気を、そのまま音にしたような1枚、と言えるかもしれない。
トラックリスト
- A1 – War (2:25)
- A2 – Living In The Heart Of The Beast (16:10)
- B1 – Beginning: The Long March (5:58)
- B2 – Beautiful As The Moon- Terrible As An Army With Banners (7:01)
- B3 – Morning Star (6:05)