Professor Tip Top – Hybrid Hymns (2019)
フィヨルドと豊かな自然に抱かれたノルウェー第2の都市ベルゲンは、近年北欧プログレッシヴ・ロックの極めて肥沃な震源地として世界的な注目を集めている。そのシーンを牽引する名門Apollon Recordsの中核バンドであり、70年代のヴィンテージ・プログレと北欧ならではのクールな浮遊感を融合させてきたプロフェッサー・ティップ・トップ(Professor Tip Top)。彼らが2019年に放った通算5作目のスタジオ・アルバム『Hybrid Hymns』は、人工知能と生命の融合という現代的テーマを、極上のアナログ・サウンドスケープで描き出した意欲作である。
AIとDNA改変の近未来:サム・フォスバッキが描く文明の瞑想
マルチ奏者でありメイン・コンポーザーのサム・フォスバッキ(Sam Fossbakk)が本作で掲げたのは、急速に進化するテクノロジーと生物学が交錯し、人間の意識が変容していく近未来のポートレイトだ。「Turing Machines(チューリング・マシン)」や「Datamining(データマイニング)」、「Machine Emotions」といった楽曲タイトルが示す通り、デジタル文明の冷徹な進化と、それに向き合う人間の内省的な魂の葛藤が、全編を通じて静謐なコンセプトとして編み込まれている。
ミニモーグやメロトロン、ヴィンテージ・オルガンを惜しみなく投入したキーボード・ワークは、無機質なテーマとは対照的にどこまでも有機的で暖かな倍音に満ちている。ピンク・フロイド直系の浮遊感あふれるギタートーンと、スヴェイン・マグナル・ハンセンの穏やかで哀愁を帯びたヴォーカルが重なり、北欧特有の澄み切った大気のような音響空間を現出させる。
ミニマリズムと劇的シンフォニックが調和した、均整の美学
宇宙の深淵を覗き込むような「Black Holes Part 1」から始まり、哀愁のメロディが胸に迫る「An Awkward Choice」や、メロウなエレピとギターが絡み合う「Machine Emotions」へと続く序盤の展開は極めてスムースだ。過度な超絶技巧や長大な組曲形式に逃げることなく、4〜6分前後の洗練された楽曲フォーマットの中で豊かな情感を提示するソングライティングの巧さが光る。
B面でも、知的でスリリングなリズムの推進力を持つ「Turing Machines」や、メロトロンの波が寄せては返す「Passion」など、叙情派シンフォニックとスペース・ロックの美点が完璧なバランスで共存している。ラストの「Black Holes Part 2」へと回帰していく構成の美しさも見事だ。
現代北欧プログ・シーンの成熟を示す、心地よき思索の旅
アポロン・レコーズの丁寧なカッティングによる重量盤ヴァイナルから立ち昇る音像は、アナログ愛好家を唸らせる素晴らしい音場感を誇る。ハードで攻撃的なプログレとは一線を画し、休日のリビングや夜更けのリスニング・ルームに深く染み渡るチルアウトな心地よさと、知的な刺激を兼ね備えた現代ノルウェー・プログレの佳作である。
トラックリスト
- A1 - Black Holes Part 1 (1:32)
- A2 - An Awkward Choice (5:57)
- A3 - Machine Emotions (6:10)
- A4 - The Dogs Are Coming...... (4:23)
- A5 - Datamining (4:57)
- B1 - Light Generator (1:14)
- B2 - Turing Machines (5:25)
- B3 - Passion (5:25)
- B4 - Hybrid Minds (2:29)
- B5 - ......Closer (2:54)
- B6 - The Final Night (3:28)
- B7 - Black Holes Part 2 (2:12)