• TOP
  • Rock
  • The Pineapple Thief – All The Wars (2023)

The Pineapple Thief – All The Wars (2023)

内省的なメランコリーと壮大なストリングスが交錯する、英国ポスト・プログレの到達点

英国のポスト・プログレッシブ・ロック・シーンを牽引してきたザ・パイナップル・シーフ(The Pineapple Thief)。フロントマンであるブルース・ソード(Bruce Soord)の私的で繊細なソングライティングを核に発展してきたバンドが、2012年に放った通算9作目のスタジオ・アルバムが『All The Wars』である。本作は、UKの先進的音響レーベルKscopeより2023年にリイシューされた高音質アナログLP盤(カタログ番号: KSCOPE1129)だ。レディオヘッドやポーキュパイン・ツリーの系譜に連なるオルタナティブなダイナミズムと、クラシカルなストリングス・アレンジが見事な調和を見せる名盤である。

22人編成のオーケストラと合唱隊がもたらしたシネマティックな音響美

『All The Wars』における最大の音楽的挑戦は、バンド史上初めて本格的な22人編成のストリング・セクションとクワイア(混声合唱隊)をレコーディングに導入した点にある。ブルース・ソードによるアコースティック・ギターの弾き語りや張り詰めたボーカルに、チェロやバイオリンの豊潤な響きが重なり、楽曲の感情の振れ幅をドラマティックに増幅させている。

オープニングを飾る「Burning Pieces」の静と動の激しいコントラスト、「Warm Seas」で広がる幻想的な音響空間、そしてタイトル曲「All The Wars」における弦楽と歪んだギターが織りなす荘厳なカタルシスは圧巻だ。単に装飾としてオーケストラを重ねるのではなく、楽曲の構造と精神性に深く根ざしたスコアリングが施されており、バンドのソリッドなロック・アンサンブルと見事に共鳴している。

ギャヴィン・ハリソン加入前夜、4人編成が生み出した有機的グルーヴ

ザ・パイナップル・シーフは後にキング・クリムゾンやポーキュパイン・ツリーで知られる名ドラマー、ギャヴィン・ハリソン(Gavin Harrison)を迎えて技巧的な洗練を極めていくが、本作のレコーディングはキース・ハリソン(Keith Harrison)がドラムを務めた4人編成時代の集大成にあたる。ジョン・サイクス(Jon Sykes)のうねるベースラインと、スティーヴ・キッチ(Steve Kitch)の緻密なキーボード/サウンドデザインが生み出すバンド・サウンドは、生々しいロックの躍動感と緻密なプログレッシブ・エッジを兼ね備えている。

「Last Man Standing」における変拍子を交えた推進力や、「Give It Back」のタイトなリフワークには、90年代USグランジやインディー・ロックからの影響を消化したソードならではのモダンなロック美学が色濃く表れている。

Kscopeによる丁寧なアナログ・リイシュー

2023年盤の本作は、デイヴ・ターナー(Dave Turner)によるマスタリングと、ドイツの職人マルコ・クルーゲ(Marko Kluge)によるラッカーカットを経てプレスされている。重厚なオーケストラの低域からアコースティック・ギターの繊細なピッキング、そしてボーカルのブレスに至るまで、アナログならではの滑らかなダイナミックレンジと奥行きが引き出されている。

喪失や孤独、葛藤といった普遍的なテーマを叙情的なメロディに昇華し、ポスト・プログレの枠を越えて心に迫る『All The Wars』。ブルース・ソードの卓越した作家性とバンドの進化が凝縮された、2010年代英国ロックを象徴する重要な一作である。

トラックリスト

  • A1 - Burning Pieces
  • A2 - Warm Seas
  • A3 - Last Man Standing
  • A4 - All The Wars
  • A5 - Build A World
  • B1 - Give It Back
  • B2 - Someone Pull Me Out
  • B3 - One More Step Away
  • B4 - Reaching Out
2026.05.03
この記事をシェア