Delirium – Delirium (1985)
1980年代半ばのメキシコ・インディーズ・シーンから登場したシンフォニック・ロック・バンド、デリリアム(Delirium)。イタリアの同名バンド(イヴァノ・フォッサーティが在籍したDelirium)とは異なり、こちらはメキシコ・シティ(México, D.F.)を拠点に活動したプログレッシブ・ロック・グループだ。1985年に自主系レーベルのアスタルテ(Astarté Discos)からリリースされた唯一のフルアルバムが本作『Delirium』である。後にCD再発された際には、B面冒頭の大曲から採られた『Primer Diálogo』というタイトルでも知られる。
チャック・ムールやイコノクラスターと交錯する80年代メキシカン・プログ
当時のメキシコでは、チャック・ムール(Chac Mool)の登場を皮切りにプログレッシブ・ロックのアンダーグラウンドなコミュニティが活発化していた。デリリアムもそうした潮流の中で結成されたバンドの一つであり、チャック・ムールのカルロス・アルバラード(Carlos Alvarado)による機材や制作面のサポートも受けながら活動を展開していた。
初期のラインナップにはボーカルのオスカル・サルダーニャ(Oscar Saldaña)や、後にイコノクラスター(Iconoclasta)を結成してメキシコ屈指のドラマーとなるビクトル・バルドビノス(Victor Baldovinos)が在籍していた。しかし本作の録音を前に両名が脱退したため、バンドはボーカル抜きのインストゥルメンタル編成へとシフト。ドラムにはアルベルト・エール(Alberto Herr)が加入し、A面3曲目の「Nocturno En Caminata」には脱退したバルドビノスの作曲クレジットが残されている。
スタジオ・オーディオ・アクスティカでの録音とクラシカルな楽器編成
本作のレコーディングは、1985年5月から8月にかけてメキシコ・シティのスタジオ「Audio Acústica」で行われた。中心となったのはキーボードのアマドール・ラミレス(Amador Ramírez)と、ギターのダニエル・リバデネイラ(Daniel Rivadeneyra)の2名だ。ヤマハのピアノをはじめ、コルグのMono/PolyやPoly-800、エルカ(Elka)のシンセサイザーを駆使した鍵盤群と、12弦アコースティック・ギターやエレクトリック・ギターが緻密に絡み合うアンサンブルを構築している。さらにゲストとしてアルフレード・フロレス(Alfredo Flores)がバイオリンで参加し、クラシカルな室内楽的気品を楽曲に添えている。
アルバムは変拍子を交えたアグレッシブな幕開けの「Armaguedon」でスタートし、アコースティック・ギターとピアノがリリカルに対話する「Atrio De Las Animas」、バルドビノス共作の複雑な展開を持つ「Nocturno En Caminata」へと続く。B面では、7分を超えるタイトル組曲「Primer Dialogo」でバイオリンとシンセサイザーのポリフォニックなインタープレイがクライマックスを迎え、軽快な「Hellyet」、そして叙情的なギターソロがメロディを紡ぐラストの「Lagrimas」へと収束していく。
自主制作盤としての希少性と後年の再評価
1985年のオリジナルLPはRivera Impresoresで印刷された片面インナースリーブ付きでプレスされたが、流通枚数は限られており、長年にわたりラテン・アメリカ産プログレッシブ・ロックのコレクターズ・アイテムとなっていた。後年にフランスのMuseaなどからCD化されたことで世界的なプログ・リスナーにも認知されるようになったが、イタリアン・ロック(PFMやクエラ・ヴェッキア・ロカンダなど)にも通じるヴァイオリンと鍵盤の叙情美を、80年代中南米の熱気の中で具現化した独自の記録といえる。
トラックリスト
- A1 - Armaguedon (2:50)
- A2 - Atrio De Las Animas (5:47)
- A3 - Nocturno En Caminata (6:13)
- B1 - Primer Dialogo (7:13)
- B2 - Hellyet (3:21)
- B3 - Lagrimas (5:13)