Solaris – 1990 (1990)

Solaris『1990』(1990)――結成10周年と体制転換の狭間に編まれたハンガリー産シンフォニック・ロックの集成

1984年のデビュー作『火星年代記(Marsbéli Krónikák)』によって、東欧プログレッシヴ・ロックの代表格として国際的な評価を獲得したハンガリーのバンド、ソラリス(Solaris)。1986年に主要メンバーがポップ・グループ「ナポレオン・ブルバード」を結成して国内で大きな成功を収めたことで、ソラリスとしての活動は休止状態となっていたが、結成10周年にあたる1990年、国営レーベルのフンガロトン(Hungaroton / Pepita)から2枚組LPとして発表されたのが本作『1990』(SLPM 37310-11)だ。

初期アーカイブから23分の大曲、祝祭コンサートまで

本作の構成は、単なるベスト盤や未発表曲集の枠にとどまらない。レコード2枚(4面)にわたる内容は、大きく4つのセクションに分けられている。バンド黎明期である1980年頃の録音(「A Viking Visszatér」や「Ellenpont」など)を集めたパートに始まり、23分におよぶ長編の組曲「Los Angeles 2026」、室内楽的な趣を持つ「Éjszakai Tárlat(夜の展覧会)」、そして祝祭的なライブ演奏(「Ünnepi Koncert」)へと連なっていく。

ソラリスのサウンドの中核を担うのは、アッティラ・コッラー(Attila Kollár)による激しいフルートのブロウと、イシュトヴァーン・チェイツェイ(István Cziglán)のエッジの効いたエレクトリック・ギターだ。ロベルト・エルデース(Róbert Erdész)のシンセサイザーが織りなすクラシカルな旋律と、変拍子を交えたタイトなドラミングが一体となり、東欧特有の緊迫感を持ったアンサンブルを形作っている。

東欧革命の時代背景とCD化にまつわる変遷

リリースされた1990年という時期は、ハンガリーにおいて体制転換(民主化)が進み、社会全体が大きく激変していたタイミングとも重なる。共産党体制下の国営レコード配給システムが変化していく過渡期に、バンドの10年間の軌跡がこうして2枚組のアナログ盤としてまとめられたこと自体、歴史的な意味合いを持っている。

なお、1990年の初CD化の際には収録時間の制約から「Éjszakai Tárlat」組曲が丸ごとカットされていたが、後の1996年の2枚組CD再発や日本のベル・アンティーク盤などで完全な形へと修復された経緯がある。80年代の東欧シンフォニック・ロックの熱気とアンサンブルの変遷を俯瞰する上で、重要な記録と言えそうだ。

トラックリスト

  • 1980
  • A1 - A Viking Visszatér (4:00)
  • A2 - Ellenpont (4:03)
  • A3 - Óz (5:12)
  • A4 - Mickey Mouse (3:16)
  • A5 - Éden (6:04)
  • Los Angeles 2026
  • B1 - Los Angeles 2026 (23:21)
  • Éjszakai Tárlat
  • C1 - Éjszakai Tárlat I. (6:09)
  • C2 - Éjszakai Tárlat II. (Szabadjáték) (7:32)
  • C3 - Éjszakai Tárlat III. (Éjféli Valcer) (3:33)
  • C4 - Éjszakai Tárlat IV. (Józsi Mátészalkára Megy) (5:58)
  • C5 - Éjszakai Tárlat V. (1990) (4:42)
  • Ünnepi Koncert
  • D1 - E-Moll Concerto (Allegro Con Molto) (3:40)
  • D2 - Paella (2:30)
  • D3 - A Kígyó Szive (3:20)
  • D4 - Ez Nem Kán-Kán (0:56)
  • D5 - Magyar Tánc (3:33)
  • D6 - Duó (4:26)
  • D7 - Solaris 1990 (4:15)
2026.05.08

Daisaku Yoshino – ランプ製造工場 (1974)

吉野大作『ランプ製造工場』(1974)――音羽信との邂逅から生まれた横浜自主制作フォーク・ロックの記録

神奈川県横浜市を拠点に、後に「吉野大作&プロスティテュート」などで独自のアンダーグラウンド・ロックを鳴らし続けたシンガー・ソングライター、吉野大作。1974年10月に完全な自主制作盤(プライベート・プレス)として世に出されたファースト・アルバムが本作『ランプ製造工場』だ。

音羽信『わすれがたみ』と表裏一体の制作環境

本作の成立において鍵となったのは、同じく日本の自主制作フォーク史に名を残す音楽家、音羽信のプロデュース参加だろう。同年、音羽が自身の名義で発表した自主制作アルバム『わすれがたみ』とは、録音時期や参加メンバーの多くが共通しており、いわば兄弟作のような関係性を持っている。

レコーディングには当時の横浜ロック・シーンを支えたプレイヤーたちが集い、生ドラムやベース、ペダル・スティール、エレキギターなどのアンサンブルを構築している。ジャックス(早川義夫)を思わせる内省的で詩的な言葉の連なりが、乾いたアメリカン・ルーツ・ロックやカントリー・ロック調のバンド・サウンドに乗せて歌われるのが特徴的だ。

「風の街から」や「掘っ立て小屋のある街」に見る70年代の情景

A面冒頭の「風の街から」や「掘っ立て小屋のある街」をはじめ、どの楽曲にも70年代初頭の地方都市や臨海工業地帯のうらぶれた空気感が漂う。当時のメジャー・レーベルによるフォーク・ブームの甘い叙情とは距離を置き、生活のざらつきや孤独をストレートなバンド・サウンドで鳴らしている。

オリジナル盤は手配りの自主プレスゆえに長らく幻の作品とされていたが、後年のSUPER FUJI DISCSによるCD化や、2022年の48年ぶりとなるアナログ再発によって再検証が進んだ。1974年という日本のロック黎明期において、自主制作という手段で自らの表現を刻みつけた貴重なドキュメントと言えそうだ。

トラックリスト

  • A1 - 風の街から
  • A2 - 掘っ立て小屋のある街
  • A3 - 六月の空
  • A4 - 朝陽のように
  • B1 - 朝の賛歌
  • B2 - あの丘から遠く離れて
  • B3 - 特急列車に乗って
  • B4 - 自由
2026.05.07

Sacred Miracle Cave – Liquid In Me (1990)

Sacred Miracle Cave『Liquid In Me』(1990)――LAガレージ・パンク人脈が交錯したサイケデリック・スペース・ロック

1980年代末から90年代初頭にかけて米ロサンゼルスのアンダーグラウンド・シーンで活動したバンド、セイクリッド・ミラクル・ケイヴ(Sacred Miracle Cave)。グレッグ・ショウが主宰する米国の老舗ガレージ・サイケ・レーベル「Bomp! Records」からのライセンスにより、英国のUbik Recordsから1990年にリリースされた12インチEPが本作『Liquid In Me』だ。

レイジー・カウガールズやクローハマーのメンバーによる結集

このバンドの背景として興味深いのは、ロサンゼルスのパンク/ガレージ・シーンで確固たる足跡を残したバンドのメンバーたちが集まった顔ぶれにある点だろう。ザ・レイジー・カウガールズ(The Lazy Cowgirls)のドラマーだったアレン・クラークや、クローハマー(Clawhammer)のギタリストであるクリス・バガロッティ(Chris Bagarozzi)、さらにフェノバルビドルズ(Phenobarbidols)のベッツィ・パーマー(Betsy Palmer)らが名を連ねている。

各人が本隊で鳴らしていた直球のガレージ・パンクとは異なり、本作では60年代のサイケデリック・ロックやスペース・ロック、あるいは同時期に英米で台頭しつつあったシューゲイザーやノイズ・ポップに共鳴するような、重層的なギターのフィードバックとドローン感が試みられている。

表題曲とB面トラックの対比

A面を飾る表題曲「Liquid In Me」では、渦を巻くファズ・ギターのリフと反復するベースラインの上で、気だるいボーカルがサイケデリックな浮遊感を醸し出している。B面に収録された「Motor Takes To Sink」と「Sister Blue」でも、テンポを抑えた重いビートとノイジーな残響音を組み合わせたアレンジが特徴的だ。

Bomp! Recordsというガレージ・リバイバルの拠点から登場しながらも、90年代オルタナティヴ・ロック前夜の混沌とした空気感を反映したサイド・プロジェクト。西海岸アンダーグラウンドの人脈が残した知られざる足跡を記録した一枚と言えそうだ。

トラックリスト

  • A - Liquid In Me
  • B1 - Motor Takes To Sink
  • B2 - Sister Blue
2026.05.07

Various – Улетай, Туча (1980)

Various『Улетай, Туча』(1980)――モスクワ五輪の空気を記録したソ連メロディヤの公式オムニバス

冷戦下の1980年、西側諸国のボイコットという政治的波乱の中で開催されたモスクワ・オリンピック。その記念すべき年にソビエト連邦の唯一の国営レコード会社「メロディヤ(Melodiya)」からリリースされたオムニバスLPが本作『Улетай, Туча(雲よ、飛び去れ)』(カタログ番号:С60-14699-700)だ。当時のソビエト・ポップス(エストラーダ)界を代表する人気歌手やアンサンブル(VIA)が一堂に会した公式盤として企画された。

五輪テーマ曲と閉会式の歴史的ナンバー「さようなら、モスクワ」

本作のA面には、まさにモスクワ五輪の祝祭気分を象徴する楽曲が並んでいる。オープニングを飾るのは、エストニア出身の人気歌手トニス・マギ(Tõnis Mägi)が歌う「Олимпиада-80(オリンピアード-80)」。ダヴィッド・トゥフマノフが作曲を手がけた躍動的なポップ・ナンバーだ。

さらにA面のラストには、国民的歌手レフ・レシェンコ(Lev Leshchenko)とタチアナ・アンツィフェロワがデュエットする「До свиданья, Москва(さようなら、モスクワ)」を収録。閉会式のスタジアムで、大会マスコットのこぐまのミーシャが涙を流しながら夜空へと気球で飛び去るクライマックスに流れたあのバラードであり、ソ連の音楽史において広く知られる象徴的な1曲だ。

アーラ・プガチョワの表題曲とソ連ロック勢の参加

B面の冒頭を飾る表題曲「Улетай, туча」は、当時絶大な人気を誇ったソ連歌謡界の歌姫アーラ・プガチョワ(Alla Pugacheva)による歌唱。新進ソングライターだったヴィクトル・レズニコフが手がけた軽快なディスコ・ポップ調のナンバーで、「雲よ、飛び去れ」という詞世界がオリンピック期間中の快晴への祈りとも重なる。

また、ソ連体制下でプロのロック演奏を認められていたヴォーカル・インストゥルメンタル・アンサンブル(VIA)から、スタス・ナミン・グループ(Stas Namin Group)やアラクス(Araks)、ヴェショールィエ・レビャータ(Vesyolye Rebyata)といった実力派バンドが顔を揃えている。ソ連のスタジオ録音特有のブラス・アレンジやアナログ・シンセサイザーの響きとともに、1980年という特別な年のモスクワの空気がパッケージされた記録と言えそうだ。

トラックリスト

  • A1 - Олимпиада — 80
  • A2 - Крестики-Нолики
  • A3 - Летний Вечер
  • A4 - До Свиданья, Москва
  • B1 - Улетай, Туча
  • B2 - Не Забывай
  • B3 - После Дождя
  • B4 - Легко Сказать
2026.05.07

Osamu Kitajima – Face To Face (1983)

Osamu Kitajima『Face To Face』(1983)――ジョン・フェイヒィのレーベルから放たれた西海岸ソウル・フュージョンと和楽器の邂逅

ザ・ランチャーズでの活動を経て単身渡英・渡米し、日本の伝統楽器と欧米のロック/ジャズの融合を模索し続けた音楽家、喜多嶋修(Osamu Kitajima)。1983年、ギタリストのジョン・フェイヒィが創設した米国の老舗インディ・レーベル「タコマ(Takoma Records)」からリリースされた本作『Face To Face』は、70年代のエキゾチックなサイケ〜プログレ路線から一歩進み、80年代初頭のロサンゼルス・フュージョン/アーバン・ソウルの文脈へ接近した作品だ(国内盤はフォーライフから発売)。

リチャード・エヴァンスとの共同プロデュースと西海岸スタジオ陣

本作の制作において重要な役割を果たしたのが、シカゴの名門チェス・レコード傘下のカデットなどで数々のソウル/ジャズ名盤を手がけてきた名匠リチャード・エヴァンス(Richard Evans)だ。喜多嶋とエヴァンスが共同でプロデュースとアレンジを担当し、ハリウッドのパラマウント・レコーディング・スタジオやターザナのレッドウィング・スタジオで録音が行われた。

レコーディングには現地ロサンゼルスの腕利きミュージシャンが集結。スティーリー・ダンなどへの参加でも知られる鍵盤奏者ヴィクター・フェルドマン(Victor Feldman)をはじめ、コーネリアス・ミムズやエリック・アジャイのベース、トム・サラのドラムといった手堅いリズム隊が参加している。そこに喜多嶋自身の箏(こと)やエレクトリック・ギター、さらに吉沢政和の尺八が対等なアンサンブルとして組み込まれている。

シルヴィア・セント・ジェームズらのボーカル起用

本作を特徴づけているもうひとつの要素が、実力派女性シンガーたちによる本格的な英語ボーカルのフィーチャーだ。ソウル/ディスコ・グループ「サイド・エフェクト」のリードを務めたシルヴィア・セント・ジェームズ(Sylvia St. James)や、後に女優としても広く活動するミンディ・スターリング(Mindy Sterling)らが参加し、表題曲「Face To Face」や「Amerasian Blues」などで伸びやかな歌声を披露している。

東洋趣味的なオリエンタリズムを一方的に押し出すのではなく、当時の洗練されたAORやメロウ・ソウルのグルーヴの中に和楽器の音色を自然に溶け込ませたアプローチ。カリフォルニアを拠点に活動を続けた喜多嶋修ならではのキャリアの展開を辿る上で、興味深い足跡を残す一枚と言えそうだ。

トラックリスト

  • A1 - Face To Face
  • A2 - Nothing But Love
  • A3 - 31 Flavors
  • A4 - No Second Chances
  • A5 - Should've Known Better
  • B1 - Give It Up
  • B2 - Waterman Beetle
  • B3 - Yesterday And Karma
  • B4 - Apex
  • B5 - Amerasian Blues
2026.05.07

Quantum – Down The Mountainside (2024)

Quantum『Down The Mountainside』(2024)――70年代プログレの変拍子と北欧モダン・ヘヴィネスが交錯するスウェーデン新鋭の第1作

スウェーデン・ストックホルムを拠点に活動する4人組バンド、クァンタム(Quantum)。2020年のEPを経て、2024年4月にBlack Lodge Recordsからリリースされた本作『Down The Mountainside』は、彼らにとって初のフルレンス・アルバムとなる。

複雑な変拍子とモダンなヘヴィ・リフの共存

彼らのサウンドの基軸にあるのは、キング・クリムゾンやジェントル・ジャイアントを思わせる70年代プログレッシヴ・ロック由来の入り組んだポリリズムや変拍子だろう。そこにヘイケン(Haken)やレプラス(Leprous)といった現代プログレッシヴ・メタルのソリッドなヘヴィネスと、ジャズ・フュージョン的なコードワークが無理なくブレンドされている。

オープニングの「The Hivemind & the Cockroach」や「The Last Stone」では、ダウンチューニングされたタイトなギターリフとテクニカルなドラムが疾走する一方で、ボーカルのメロディラインは比較的キャッチーに抑えられている。テクニックの誇示だけに偏らず、歌ものとしての輪郭を保っている点が特徴的だ。

イェンス・ボグレンのマスタリングと多彩なアコースティック楽器

マスタリングはオーペス(Opeth)やカタトニアなどを手がけてきたイェンス・ボグレン(Jens Bogren)が担当。音の分離が非常にクリアで、激しいディストーションの合間に挟まれるサックスやチェロ、アコースティック・ギター主体の小品「Dots」の生々しい減衰音までしっかりと拾い上げている。

表題曲「Down the Mountainside」のパート1・2をはじめ、Hakenのギタリストであるリチャード・ヘンシャル(Richard Henshall)の客演など、現行のプログレッシヴ・シーンの文脈を反映したアプローチが見られる。北欧の冷涼な空気感と緻密なアンサンブルが同居した、現代プログレッシヴ・ロックの充実ぶりを伝える一枚と言えそうだ。

トラックリスト

  • A1 - The Hivemind & The Cockroach
  • A2 - On The Verge
  • A3 - Down The Mountainside Pt.1
  • A4 - Moths & Leaves
  • B1 - Abstract Bliss
  • B2 - Dots
  • B3 - Down The Mountainside Pt.2
  • B4 - The Last Stone
2026.05.07

Orchestra Di Enrico Simonetti – Blue Frog… And Others (1975)

Orchestra Di Enrico Simonetti『Blue Frog… And Others』(1975)――ゴブリンの面々がバックを務めたイタリアン・ライブラリー・ファンク

イタリアのピアニスト/映画音楽作曲家であり、テレビ司会者としても広く親しまれたエンリコ・シモネッティ(Enrico Simonetti)。Cinevox傘下のHarmonyレーベルから1975年に発表されたオーケストラ名義の本作『Blue Frog… And Others』は、イージーリスニングやライブラリー音楽の体裁をとりながら、イタリアン・プログレやレア・グルーヴの文脈で特異な注目を集める一枚だ。

『サスペリアPART2』録音直後のゴブリンのメンバーが全面参加

本作の大きなポイントは、エンリコの実子である鍵盤奏者クラウディオ・シモネッティ(Claudio Simonetti)をはじめ、ファビオ・ピニャテッリ(ベース)、マッシモ・モランテ(ギター)、ワルテル・マルティーノ(ドラムス)という、当時ダリオ・アルジェント監督の映画『サスペリアPART2(Profondo Rosso)』のサウンドトラックを手がけていたゴブリン(Goblin)の創設メンバーたちがそのままスタジオ・バックを務めている点だろう。

特にA面に並ぶ「Blue Frog」「Water Snake」「Hally Gator」といった動物を題材にしたオリジナル曲群では、ピニャテッリの唸るような太いベースラインと、マルティーノの正確で重いスネア・ビートが炸裂。軽妙なオルガンやクラヴィネット、ワウ・ギターが絡み合うスレイジーなジャズ・ファンクを展開している。

A面のファンクとB面のラウンジ・オーケストラ

グルーヴィーなバンド・サウンドが前面に出たA面に対し、B面には「Deep Purple」や「Laura」「Parlami d’Amore Mariù」といったスタンダード曲のカバーが並ぶ。ストリングスを配した優雅なイージーリスニング/ラウンジ・ジャズ調に整えられており、エンリコ本来の華やかなピアノ・タッチを楽しめる構成になっている。

70年代半ばのイタリア映画音楽〜ライブラリー界隈における職人ミュージシャンたちの演奏力と、新進気鋭だったゴブリンのグルーヴ感が交差したスタジオ・セッション。イタリアン・サントラやレア・グルーヴの好事家たちによって再評価された背景がよく理解できる一枚だ。

トラックリスト

  • A1 - Blue Frog
  • A2 - Water Snake
  • A3 - Lady Murmaid
  • A4 - Moonlight Fish
  • A5 - Hally Gator
  • B1 - Deep Purple
  • B2 - Laura
  • B3 - Parlami D'Amore Mariù
  • B4 - Dindì
  • B5 - Secret Love
2026.05.07

Paco De Lucía – Interpreta A Manuel De Falla = 炎 (1978)

Paco De Lucía『Interpreta A Manuel De Falla』(1978)――近代クラシックの名曲群をフラメンコの故郷へと連れ戻した試み

スペイン・アンダルシアが生んだ近代クラシックの巨匠マヌエル・デ・ファリャ(Manuel de Falla)。彼が遺したオーケストラやピアノのための名曲群を、フラメンコ・ギターの語法で再解釈したのが、パコ・デ・ルシア(Paco de Lucía)による1978年発表のアルバム『Interpreta A Manuel De Falla(日本盤題:炎)』だ。Philipsからリリースされた本作は、クラシックとフラメンコの境界を越境する重要なメルクマールとなった一枚だ。

Doloresの面々と結成前夜のセクステット人脈

本作のバックを支えているのは、パコの兄であるラモン・デ・アルヘシーラス(セカンド・ギター)や弟のペペ・デ・ルシア(ボーカル)に加え、当時スペインのジャズ・ロック/フュージョン・シーンを牽引していたグループ「ドローレス(Dolores)」のメンバーたちだ。フルートのホルヘ・パルド(Jorge Pardo)やパーカッションのルベン・ダンタス(Rubem Dantas)、ドラムスのペドロ・ルイ=ブラスらが参加している。

この顔ぶれは、直後の1980年代に世界的な成功を収める伝説の「パコ・デ・ルシア・セクステット」の母体となったラインナップでもある。クラシック曲の端正なスコアに、パーカッションのうねりやフルートのジャズ的アプローチが加わることで、室内楽的な響きと生々しいフラメンコのグルーヴが同居したアンサンブルが生まれている。

「火祭りの踊り」に見る親指奏法とラスゲアード

バレエ音楽『恋は魔術師』から採られた「Danza ritual del fuego(火祭りの踊り)」や「Canción del fuego fatuo(鬼火の歌)」、そして『三角帽子』からの「Danza de los vecinos(隣人の踊り)」など、誰もが知るファリャのメロディ。オーケストラの総奏で奏でられるダイナミクスを、パコは強靭なピカード(速弾き)とアルサプア(親指による重音奏法)、そして切れ味鋭いラスゲアード(かき鳴らし)によって、ギター1本の弦のテンションへと凝縮している。

もともとアンダルシアの民族音楽やジプシー(ヒターノ)の歌を土台にして生まれたファリャの音楽。それを原初のリズムであるフラメンコの土壌へと還流させる試みは、形式美にとらわれない柔軟なアンサンブルとともに、今なお瑞々しい説得力を持って響いてくる。

トラックリスト

  • A1 - Danza De Los Vecinos = 隣人たちの踊り (3:09)
  • A2 - Danza Ritual Del Fuego = 火祭りの踊り (4:22)
  • A3 - Introducción Y Pantomima = 序奏とパントマイム (2:59)
  • A4 - El Paño Moruno = ムーア人の織物 (1:27)
  • A5 - Danza Del Molinero = 粉屋の踊り (3:04)
  • B1 - Danza = スペイン舞曲 (3:23)
  • B2 - Escena = 情景 (1:25)
  • B3 - Canción Del Fuego Fátuo = きつね火の歌 (4:04)
  • B4 - Danza Del Terror = 恐怖の踊り (1:48)
  • B5 - Danza De La Molinera = 粉屋の女房の踊り (4:01)
2026.05.07

I Spy – While The War Began (2023)

I Spy『While The War Began』(2023)――オランダの古参バンドが30年の時を経て提示した4部構成のシンフォニック・ロック

1980年代後半にニューウェイヴ/ポップ・ロックのグループとしてオランダで活動していたバンド、アイ・スパイ(I Spy)。長い休止期間を経て、約7年の制作期間を費やして2023年にTop Hole Recordsから発表された『While The War Began』は、2枚組LPの4面構成を意識して作られたコンセプチュアルなプログレッシヴ・ロック作品だ。

レコード各面に配された4つの組曲

本作の大きな特徴は、アナログ盤のA面からD面までを「Unforgotten」「Fearless」「War」「Odyssey」と題された4つの大きな楽章に見立てて構築している点にある。70年代のジェネシスやピンク・フロイド、ジェスロ・タルなどを想起させる長尺の曲展開を持ち、かつてのポップ・バンドとしての面影を覆すシンフォニックな作風へとシフトしている。

アコースティック・ギターの爪弾きやピアノによる静かな序奏から、ハモンド・オルガンやシンセサイザーのレイヤー、そしてディストーションを効かせたギターソロへとダイナミックに展開。オランダのジャズ・トランペット奏者エリック・ヴルーイマンス(Eric Vloeimans)や、ボーカリストのイネス・ティマー(Inez Timmer)といったゲストを迎え、管楽器や室内楽的な響きを効果的に織り込んでいる。

ホメロス叙事詩と戦争をモチーフにしたテーマ性

歌詞の面では、ホメロスの古代叙事詩『オデュッセイア』の引用や戦争・喪失を巡るテーマが扱われており、落ち着いたボーカルが物語を語るように進行していく。過度に派手な演奏テクニックを見せつけるタイプではなく、場面ごとの曲調の変化やアコースティックとエレクトリックの対比をじっくりと聴かせるアレンジが施されている。

80年代の活動期から数十年を経て、自分たちのルーツにあった70年代アート・ロックへの回帰を試みた一枚。現代的なクリアな録音環境を用いながらも、アナログレコードの「面」の概念に忠実に作られたタイム感を持つ作品と言えそうだ。

トラックリスト

  • Unforgotten (16:46)
  • Fearless (23:02)
  • War (21:09)
  • Odyssey
2026.05.07

Arnold Bean – Cosmic Bean (1971)

Arnold Bean『Cosmic Bean』(1971)――ガスリー兄弟が残した初期パワーポップ前夜のフォーク・サイケ

後にパワー・ポップ/ガレージ・ロック・バンド「Michael Guthrie Band」を結成するマイケル・ガスリー(ギター、ボーカル)とハーブ・ガスリー(ドラムス)の兄弟が、その前身として率いていたグループ、アーノルド・ビーン(Arnold Bean)。シェルビー・シングルトンのSSS Internationalから1971年にリリースされた本作『Cosmic Bean』は、マイケルが全曲のソングライティングを手がけた唯一のアルバムだ。

バーズ直系のフォーク・ロックとサイケデリックなコード感

針を落としてまず聴こえてくるのは、バーズ(The Byrds)や初期ビートルズからの影響を思わせる、澄んだギターのアルペジオと親しみやすいコーラス・ハーモニーだ。オープニングの「I Can See Through You」や「The Long Stretch Of Blue」では、フォーク・ロックの軽やかなストロークを土台にしながらも、少しひねりの効いたコード進行が顔を覗かせる。

そこにゲイリー・バーネットらのリードギターが絡み、ところどころでファズを効かせた歪みやサイケデリックな残響を散りばめている。素朴なカントリー・フォークの質感と、60年代末のサイケデリックな残り香が混ざり合った、この時代のアメリカ南部〜地方インディならではの風通しの良さがある。

キャッチーなフックと後のパワーポップへの萌芽

「Captain Marvel」や「Indian Summer」といったナンバーに顕著なのは、短い小節の中で明快なフックを畳み掛けるメロディセンスだろう。マイケル・ガスリーの少し鼻にかかったボーカルと、兄弟ならではのタイトなリズム・セクションのコンビネーションが、楽曲を軽快にドライヴさせている。

70年代後半のパワーポップ・ブーム以前の録音でありながら、過剰な装飾を排したソリッドなバンド編成とポップなソングライティングの志向は、のちのMichael Guthrie Bandのスタイルとも一本の線でつながっているように感じられる。70年代初頭のUSインディ・ロックの素朴な魅力を記録した一枚と言えそうだ。

トラックリスト

  • A1 - I Can See Through You
  • A2 - The Long Stretch Of Blue
  • A3 - Fortune And Fame
  • A4 - Daddy's Got The Clap
  • A5 - Really Haven't Got The Time
  • A6 - Penny, Dear
  • B1 - Indian Summer
  • B2 - Listening To The River
  • B3 - I've Got The Key
  • B4 - Captain Marvel
  • B5 - Nature Boy
2026.05.06

Gualberto – A La Vida, Al Dolor (1975)

Gualberto『A La Vida, Al Dolor』(1975)――シタールとフラメンコが交差するアンダルシア産プログレの異色作

スペイン・アンダルシアのサイケデリック・ロック・バンド、スマッシュ(Smash)の中心人物だったギタリスト/シタール奏者のグアルベルト(Gualberto García Pérez)。バンド解散後に渡米して東洋音楽を学んだ彼が、1975年にスペインMovieplay傘下のGongレーベルから発表したソロ第1作が本作『A La Vida, Al Dolor(生へ、苦痛へ)』だ。

A面「生へ」の牧歌的なフォーク・プログレ

アルバムはタイトル通り、A面「A la vida(生へ)」とB面「Al dolor(苦痛へ)」で対照的なコンセプトを持っている。A面ではトッド・パーセル(Tod Purcell)による英語のボーカルと、アーサー・ヴォール(Arthur Wolh)のヴァイオリンをフィーチャー。「Canción de la primavera(春の歌)」や「Canción del agua(水の歌)」など、アコースティック・ギターとシタールのドローンが柔らかく溶け合う、牧歌的なプログレッシヴ・フォークの趣を聴かせる。

B面「苦痛へ」とエンリケ・モレンテの客演

一方のB面に針を落とすと、空気は一変して暗く土着的な緊張感に包まれる。インドの伝統楽器であるシタールにフラメンコのスケール(旋法)やラスゲアード(かき鳴らし)を当てはめたグアルベルト独自の奏法が前面に出てくる。

大曲「Terraplén」では、スペインを代表するフラメンコ歌手エンリケ・モレンテ(Enrique Morente)が客演。唸るような深いカンテ(歌)と、歪んだエレキギター、不穏に響くシタールの金属音が絡み合い、アヴァンギャルドなフラメンコ・ロックが展開される。グアルベルトはこの後、カマロン・デ・ラ・イスラの歴史的アルバム『La Leyenda del Tiempo』(1979年)にもシタールで参加することになるが、その先駆的な実験の痕跡が本作の溝に刻まれていると言えそうだ。

トラックリスト

  • A La Vida
  • A1 - Canción De La Primavera (3:05)
  • A2 - Canción Del Agua (4:00)
  • A3 - Canción De La Nieve (3:51)
  • A4 - Canción Del Arco Iris (3:23)
  • A5 - Canción De Las Gaviotas (9:56)
  • Al Dolor
  • B1 - Terraplén (3:47)
  • B2 - Prisioneros (8:45)
  • B3 - Tarantos (Para Jimi Hendrix) (3:33)
  • B4 - Diálogo Interior (8:46)
2026.05.06

Tangerine Dream – Stratosfear (1976)

Tangerine Dream『Stratosfear』(1976)――シーケンサーの規則性と生楽器が交錯するベルリン・スクールの転換点

エドガー・フローゼ(Edgar Froese)、クリストファー・フランケ(Christopher Franke)、ペーター・バウマン(Peter Baumann)の3人体制による最後のスタジオ・アルバムとなった、タンジェリン・ドリーム(Tangerine Dream)の1976年作『Stratosfear(浪漫)』。ベルリンのオーディオ・スタジオで録音され、ヴァージン・レコードから発表された本作は、長尺の電子音響ドローンからメロディや楽曲構成を重視したスタイルへと舵を切った時期の記録だ。

モーグ・シーケンサーとギター、メロトロンのブレンド

表題曲「Stratosfear」のイントロに針を落とすと、12弦アコースティック・ギターの爪弾きから始まり、やがてモーグやARPのシンセサイザーによるパルス状のシーケンス・パターンが重なっていく。初期の不定形なドローン空間に比べ、ペーター・バウマンが導入したリズム・コンピューターやシーケンサーが明確な拍節感を提示しているのが特徴的だ。

そこにフローゼのエレクトリック・ギターがリードを取り、3人が操るメロトロンのストリングスやフルート音色がレイヤーとして敷き詰められる。シンセサイザーの冷涼な持続音と、木製楽器のアコースティックな減衰音が混ざり合うことで、当時のエレクトロニック・ロックの中でも独特の温かみを感じさせる音像になっている。

ハーモニカの導入と幽玄な情景描写

アルバム後半の「3 AM at the Border of the Marsh from Okefenokee」では、シンセサイザーの電子音の上にフローゼの吹くハーモニカ(マウスハープ)が重なる場面がある。電子音楽の文脈にブルース由来の素朴なリード楽器を差し込む試みは当時としても珍しく、夜霧のような湿り気のある情景を想起させる。

また「The Big Sleep in Search of Hades」でのチェンバロ風の鍵盤やメロトロンの静かな導入部など、全体を通してクラシカルな室内楽の要素も散見される。前衛的な電子実験から、80年代の映画サントラ制作へと続く洗練されたコンポジションへの移行期を示す一枚として、当時の機材の発展とともに興味深く聴ける作品だ。

トラックリスト

  • A1 - Stratosfear (10:04)
  • A2 - The Big Sleep In Search Of Hades (4:45)
  • B1 - 3AM At The Border Of The Marsh From Okefenokee (8:10)
  • B2 - Invisible Limits (11:40)
2026.05.06

Bradford – Adrift Again (1989)

Bradford『Adrift Again』(1989)――スティーヴン・ストリートの美学が息づくポスト・スミス期ジャングル・ポップ

英国ランカシャー州ブラックバーン出身の5人組ギター・ポップ・バンド、ブラッドフォード(Bradford)。ザ・スミス解散後の1989年、同バンドのプロデューサーとして名を馳せたスティーヴン・ストリート(Stephen Street)が自ら設立した「The Foundation Label」(TFL 4T)からリリースした12インチ・シングルが本作『Adrift Again』だ。

モリッシーの賛辞とスティーヴン・ストリートのプロデュース

彼らの存在を一躍注目させたのは、ソロ活動を開始したばかりのモリッシーによる熱烈な支持だろう。1988年末に行われたモリッシーの初ソロ・ライブ(ウルヴァーハンプトン公演)のサポートに抜擢され、のちにモリッシーが彼らの楽曲「Skin Storm」をカバーしたことでも知られている。

プロデュースを手がけたストリートの手腕もあり、表題曲「Adrift Again」は80年代後半の英国インディ・サウンドのツボを押さえた仕上がりだ。エウィング・ドハーティらのアコースティックとエレクトリックが織りなすジャングリーなアルペジオ、ストリート作品らしい輪郭のくっきりしたスネアとベースラインの上で、フロントマンのイアン・H(Ian Hodgson)が少し鼻にかかった憂いのあるメロディを歌い上げる。

B面曲に見る手堅いソングライティング

B面には「The Loss」と「Tattered, Tangled And Torn」の2曲を収録。いずれも過度なリバーブやシンセに頼らず、ギター・バンドとしてのタイトなアンサンブルを前面に出した作りになっている。

同時期に台頭しつつあったマンチェスター・ムーヴメントのダンサブルなグルーヴとは対照的に、あくまでトラディショナルな英国ギター・ポップの系譜を守り抜いた堅実な鳴り。ポスト・スミス期の英国インディ・シーンの過渡期を振り返る上で、当時の空気感を素直に伝える一枚と言えそうだ。

トラックリスト

  • A - Adrift Again
  • B1 - The Loss (3:17)
  • B2 - Tattered, Tangled And Torn
2026.05.06

Limonada – Limonada (1970)

Limonada『Limonada』(1970)――エル・キントの遺伝子を受け継ぐウルグアイ産カンドンベ・ロック

南米ウルグアイのモンテビデオにおいて、アフロ系伝統リズム「カンドンベ」と英米ロックの融合を推し進めた伝説的グループ、エル・キント(El Kinto)。その解散を受け、メンバーだったヴァルテル・カンボン(ギター、ボーカル)とルイス・ソサ(ドラムス)を中心に結成された4人組バンドがリモナーダ(Limonada)だ。1970年に地元の老舗レーベルSondorから発表された本作は、彼らが残した唯一のフルアルバムにあたる。

ビート・ポップとラテン・パーカッションの交差

サウンドの基調となっているのは、中期ビートルズやバーズあたりを思わせるアコースティック主体のポップ・ロック感覚だろう。そこにダルド・マルティネスのエレキギターやキーボード、客演のティト・カバジェロによるフルートが素朴なアクセントを添えている。

最大の特徴は、一般的な英米の8ビートとは異なる、カンドンベ特有のハネたリズムやシンコペーションが自然に溶け込んでいる点だ。「Barrio De Casas Bajas」や「Viejo Tambor」などに顕著なように、タンボール(カンドンベの太鼓)を思わせるパーカッシヴなドラムワークと、少し埃っぽいアコースティック・ギターのカッティングが独特のグルーヴを形作っている。

当時のモンテビデオの空気感を伝える音像

録音はお世辞にもハイファイとは言えず、レンジの狭さやボーカルの素朴なミックス感など、当時の南米インディらしい手作り感が色濃い。しかし「Ojos Que Miran Lejos」をはじめとするメロディの端々には、ウルグアイの音楽家たち特有の哀愁と、日差しを思わせる明るさが同居しているように聴こえる。

後年、Lion Productionsなどによる再発によって広く知られることとなったが、英米のサイケ・ポップを輸入・消化しながら、自国の土着のリズムとどう結びつけるかを試行錯誤していた当時の南米ロック・シーンのドキュメントとして、興味深い一枚と言えそうだ。

トラックリスト

  • A1 - Ojos Que Miran Lejos (2:01)
  • A2 - Barrio De Casas Bajas (1:50)
  • A3 - Pasteles Verdes (2:58)
  • A4 - Veo Luz En La Ventana (2:16)
  • A5 - Dejenme Dormir (2:53)
  • A6 - Lejos Estas (3:01)
  • B1 - Siempre Caminar (3:38)
  • B2 - Pies Descalzos (2:16)
  • B3 - Cambiar La Rosa (3:08)
  • B4 - No Puedo Comprender (3:20)
  • B5 - A "Nonica" (2:40)
  • B6 - Viejo Tambor (2:54)
2026.05.06

Sly & The Family Stone – There’s A Riot Goin’ On (1971)

Sly & The Family Stone『There’s A Riot Goin’ On』(1971)――リズムボックスと多重録音の澱みに沈むファンクの変容

ウッドストックでの熱狂的なパフォーマンスや『Stand!』の陽気なメッセージ性から一転、1971年11月にエピック・レコードからリリースされたスライ&ザ・ファミリー・ストーンの5作目『There’s A Riot Goin’ On(暴動)』。ロサンゼルス・ベルエアの自宅スタジオやレコード・プラントに籠もり、バンドとしての共同作業よりもスライ・ストーン個人の内省的な作業を中心に編み上げられた作品だ。

マエストロ・リズム・キングの無機質なパルス

本作の音像を決定づけている大きな要素が、アナログのリズムボックス「マエストロ・リズム・キング(Maestro Rhythm King)」の導入だろう。グレッグ・エリコのタイトな生ドラムに代わり、あらかじめプログラムされたチキチキという乾いたプリセット・ビートが楽曲の底流を淡々と支配している。

そこにラリー・グラハムの重く引きずるようなベースや、スライ自身のクラビネット、オルガンが絡みつく。代表曲「Family Affair」をはじめ、「Luv N’ Haight」や「Runnin’ Away」など、ファンクの骨格を保ちながらも、どこか足元が覚束ないような独特の気だるさと閉塞感が漂っているように感じられる。

テープのダビングを繰り返したこもり気味の音像

レコードに針を落としてまず気づくのは、全体を覆うくすんだ中低域の質感だ。スライが何度もテープをピンポン録音(バウンス)し、自らボーカルや楽器を上書きして重ね続けた結果、高音域が削れ、磁気テープ特有のざらつきとモヤが残ったままマスタリングされている。

囁くように掠れたスライの歌声や、ところどころピッチが揺らぐ鍵盤の響きなど、通常のスタジオ録音であれば整えられそうな粗がそのまま残されている。B面最後の表題曲「There’s a Riot Goin’ On」の演奏時間が「0分00秒(無音)」とクレジットされている点も含めて、当時のアメリカ社会の空気やスライ自身の精神状態がそのまま刻まれたドキュメントのような手触りがある。

トラックリスト

  • A1 - Luv N' Haight (4:01)
  • A2 - Just Like A Baby (5:12)
  • A3 - Poet (3:01)
  • A4 - Family Affair (3:06)
  • A5 - Africa Talks To You "The Asphalt Jungle" (8:45)
  • A6 - There's A Riot Goin' On (0:00)
  • B1 - Brave & Strong (3:28)
  • B2 - (You Caught Me) Smilin' (2:53)
  • B3 - Time (3:03)
  • B4 - Spaced Cowboy (3:57)
  • B5 - Runnin' Away (2:51)
  • B6 - Thank You For Talking To Me Africa (7:14)
2026.05.06

Bill Withers – Just As I Am (1971)

Bill Withers『Just As I Am』(1971)――航空機工場の昼休みに生まれた等身大のアコースティック・ソウル

ボーイング747のトイレ便座などを製造するウェーバー・エアクラフト社で工員として働きながら、夜な夜な曲を書きためていたビル・ウィザース(Bill Withers)。32歳にしてサセックス・レコード(Sussex Records)からリリースしたデビュー作『Just As I Am』は、ジャケット写真の通り、工場の昼休みに愛用のランチボックス(弁当箱)を手にして佇む彼の飾らない人柄がそのまま音楽になったような作品だ。

ブッカー・T・ジョーンズとMG’sのリズム隊が支える引き算の美学

本作のプロデュースとアレンジを引き受けたのは、メンフィス・ソウルの名門スタックスの頭脳、ブッカー・T・ジョーンズ(Booker T. Jones)。ウィザースの素朴なアコースティック・ギターの弾き語りを聴いたブッカー・Tは、過剰なホーンや装飾を排し、ウィザースの太く温かみのあるバリトン・ヴォイスを中央に据えたミニマルなアンサンブルを構築した。

ドラムにはMG’sのアル・ジャクソン・ジュニア(曲によってはジム・ケルトナー)、ベースにドナルド・”ダック”・ダンという最高峰のリズム隊が参加。さらに隣のスタジオで録音していたスティーヴン・スティルス(Stephen Stills)がふらりと加わりギターを弾くなど、スタジオの親密でリラックスしたセッションの空気が盤全体に行き渡っている。跳ねるようなベースと乾いたスネアがリードするオープニングの「Harlem」から、音数の少なさがかえって歌の生々しさを際立たせる。

「Ain’t No Sunshine」の仮歌が生んだ名フレーズ

代表曲となった「Ain’t No Sunshine」には有名な録音エピソードが残る。3番の歌詞が思いつかず、正式な言葉を後で当てはめるつもりで「I know, I know, I know…」と26回続けてハミングした仮テイクを、ブッカー・Tが「絶対に直さずこのまま残すべきだ」と説得。結果として、失意の男の独白のようなあの印象的なリフレインがそのまま完成テイクとなった。

また、教会で歌っていた祖母への敬愛を込めた「Grandma’s Hands」では、手拍子と抑制されたブルース・ギターが素朴な情景を想起させる。ビートルズのカバー「Let It Be」も含め、派手なシャウトに頼らず、日常の哀歓や言葉の重みを淡々と噛み締めるような歌唱は、同時代のファンクやニュー・ソウルとはひと味違う、シンガーソングライター的な味わい深さを持っている。

肩肘張らない生活者の視線が宿るレコード

レコードの溝から立ち上がってくるのは、スター気取りの一過性の熱狂ではなく、日々の労働や生活の実感に裏打ちされた静かな説得力だ。『Just As I Am(ありのままの私)』というタイトルの通り、飾らない言葉と滋味深いアコースティック・グルーヴが、針を上げるたびに心地よい余韻を残してくれる。

トラックリスト

  • A1 - Harlem (3:23)
  • A2 - Ain't No Sunshine (2:04)
  • A3 - Grandma's Hands (2:00)
  • A4 - Sweet Wanomi (2:30)
  • A5 - Everybody's Talkin' (3:21)
  • A6 - Do It Good (2:52)
  • B1 - Hope She'll Be Happier (3:48)
  • B2 - Let It Be (2:37)
  • B3 - I'm Her Daddy (3:19)
  • B4 - In My Heart (4:19)
  • B5 - Moanin' And Groanin' (2:57)
  • B6 - Better Off Dead (2:13)
2026.05.06

Genesis – Foxtrot (1972)

Genesis『Foxtrot』(1972)――メロトロンの咆哮と英国的シアトリシズムが結実した第4作

前作『Nursery Cryme(怪奇骨董音楽箱)』でピーター・ガブリエル、トニー・バンクス、マイク・ラザフォード、スティーヴ・ハケット、フィル・コリンズという黄金期の5人が揃ったジェネシス(Genesis)。1972年9月にカリスマ・レコード(Charisma Records)から発表された第4作『Foxtrot』は、キャラヴァンなどを手がけたプロデューサーのデイヴィッド・ヒッチコック(David Hitchcock)とエンジニアのジョン・バーンズを迎え、バンドの持つ物語性とアンサンブルの構築力を一段とタイトに引き締めた一枚だ。

「Watcher of the Skies」の重厚なメロトロンと変拍子

針を落としてすぐに耳を奪うのが、オープニングを飾る「Watcher of the Skies」の導入部だ。トニー・バンクスがキング・クリムゾンから買い取ったとされるメロトロン・マークIIを駆使し、ブラスとストリングスの音色を同時に押し下げて鳴らした重々しいコード進行。テープ再生楽器特有のピッチの揺らぎが、SF的な異世界感を醸し出している。

そこへ重なるフィル・コリンズの6/4拍子のドラミングは、力任せに叩くのではなく、ハイハットの細かな刻みとスネアのゴーストノートで独特の跳ねるようなグルーヴを生み出している。マイク・ラザフォードの太いベースラインと相まって、難解な変拍子でありながら前進する推進力が損なわれないあたりが、当時のジェネシスの大きな強みだ。

社会風刺劇から23分の長編「Supper’s Ready」へ

A面では、英国的なメロディが際立つ「Time Table」や、地上げ屋と住人の対立を演劇仕立てで描いたプログレッシヴ・ファンク風の「Get ‘Em Out by Friday」、クヌート王の伝説をモチーフにした「Can-Utility and the Coastliners」と、ピーター・ガブリエルの語り部としての才覚が発揮された楽曲が並ぶ。

そしてB面は、ハケットの爪弾く短いアコースティック・ギター独奏「Horizons」をプレリュードとして、23分に及ぶ大曲「Supper’s Ready」へと突入する。7つのパートからなるこの組曲は、黙示録的なヴィジョンと英国的な不条理ユーモア(「Willow Farm」など)が目まぐるしく交錯。「Apocalypse in 9/8」パートで見せるバンクスとコリンズの9/8拍子のインタープレイから、壮大なエンディングへと収束していく構成は、長尺でありながら散漫さを感じさせない。

12弦ギターのレイヤーが生むアコースティックな陰影

ダイナミックな展開に耳が行きがちだが、本作の土台を支えているのはハケット、ラザフォード、バンクスが重ねる12弦アコースティック・ギターの繊細なコードワークだ。硬質なエレクトリック・サウンドの合間に挟まれるこの木漏れ日のようなアコースティックの響きが、ポール・ホワイトヘッドによるキツネのドレスを着た貴婦人のジャケット絵とも相まって、英国田園詩のような独特の陰影をアルバム全体に与えている。

トラックリスト

  • A1 - Watcher Of The Skies
  • A2 - Time Table
  • A3 - Get 'Em Out By Friday
  • A4 - Can-Utility And The Coastliners
  • B1 - Horizons
  • Supper's Ready
2026.05.06

Edwyn Collins – 50 Shades Of Blue (1989)

Edwyn Collins『50 Shades Of Blue』(1989)――オレンジ・ジュースの残光から立ち上がったノーザン・ソウル愛あふれるソロ第1歩

グラスゴーのポストカード・レーベル(Postcard Records)の顔役として、80年代初頭のネオアコ/ギター・ポップ・シーンを牽引したオレンジ・ジュース(Orange Juice)。その中心人物エドウィン・コリンズ(Edwyn Collins)が、バンド解散から数年のブランクを経て1989年に発表したソロ・デビュー・アルバム『Hope and Despair』。本作『50 Shades Of Blue』はその先行シングルとしてディーモン・レコード(Demon Records)からリリースされた12インチ盤だ。

60sモータウンやノーザン・ソウルへの深い愛情が滲むサウンド

1989年といえば、打ち込み主体のユーロビートやアシッド・ハウスが席巻していた時代だが、コリンズが選んだのは流行に背を向けたオーガニックなバンド・アンサンブルだった。敬愛する60年代のモータウンやノーザン・ソウル、そしてベルベット・アンダーグラウンドのギター・ポップ感覚を素直に鳴らしている。

表題曲「50 Shades Of Blue」(12インチ・エクステンデッド・ヴァージョン)は、跳ねるようなピアノと乾いたホーン・セクション、弾むベースラインに乗せて、コリンズ独特のふくよかなバリトン・ヴォイスが軽妙に歌い崩すナンバー。オレンジ・ジュース時代の青さやナイーヴさから一歩抜け出し、大人のほろ苦いユーモアとアイロニーを漂わせたソングライティングが心地よい。

「Kindred Spirit」など充実のB面トラック

12インチならではの魅力は、B面に収められた3曲の充実ぶりにある。アコースティック・ギターのストロークが爽快な「Kindred Spirit」、憂いを帯びたメロディを淡々と歌い上げる「Just Call Her Name」、そしてフォーキーな味わいの「Ain’t That Always The Way」。いずれも派手なスタジオ装飾を削ぎ落とし、曲自体の良さと手触りのある演奏をそのまま引き立てている。

後に「A Girl Like You」(1994年)の世界的大ヒットで再注目を浴びることになるコリンズだが、そのルーツにあるルーズなソウル・フィーリングと職人気質のポップ・センスは、このソロ最初期の12インチですでにしっかりと息づいている。針を落とすたびにじんわりと味わいが増す、良質な英国インディ・ポップ盤だ。

トラックリスト

  • A1 - 50 Shades Of Blue (Extended Version) (4:40)
  • A2 - Kindred Spirit (4:23)
  • B1 - Just Call Her Name (3:57)
  • B2 - Ain't That Always The Way (2:44)
2026.05.06

Neal Morse – Jesus Christ The Exorcist (2019)

Neal Morse『Jesus Christ The Exorcist』(2019)――実力派シンガー陣を配した本格派プログレッシヴ・ロック・オペラ

スポックス・ビアード(Spock’s Beard)やトランスアトランティック(Transatlantic)の中心人物として知られるニール・モーズ(Neal Morse)が、およそ10年の構想期間を経て2019年に発表した2枚組の大作『Jesus Christ The Exorcist』。新約聖書におけるイエスの生涯と悪霊払いを題材に、『ジーザス・クライスト・スーパースター』の伝統を受け継ぐ本格的なシアトリカル・ロック・オペラとして制作された意欲作だ。

テッド・レナードやニック・ディヴァージリオら豪華キャストの歌唱

通常のソロ作品と大きく異なるのは、モーズ自身が前面で歌い倒すのではなく、物語の登場人物ごとに異なる実力派シンガーを起用している点だ。イエス・キリスト役に抜擢されたのは、スポックス・ビアードの後任フロントマンでもあるテッド・レナード(Ted Leonard)。感情豊かで芯のあるハイトーンで、苦悩と威厳を巧みに歌い分けている。

また、イスカリオテのユダ役には元スポックス・ビアードのニック・ディヴァージリオ(Nick D’Virgilio)、悪魔(サタン)役にはクリスチャン・メタル・バンド「ホワイト・ハート」のリック・フロリアン(Rick Florian)が配され、10分超の「Jesus’ Temptation」などで緊迫感ある掛け合いを披露。さらにマグダラのマリア役を務めるナッシュビル出身のタロン・デイヴィッド(Talon David)が、「The Woman of Seven Devils」で見せるソウルフルな歌声も耳を引く。

エリック・ジレットのドラムと緻密なバンド・サウンド

モーズ作品の常連であるマイク・ポートノイが多忙のためドラムを叩いていないが、普段ギタリストを務めるエリック・ジレット(Eric Gillette)がドラムを担当。タイトで切れ味鋭いビートを叩き出しており、ランディ・ジョージ(ベース)、ビル・フバウアー(キーボード)らとともに堅牢なボトムを築いている。

音楽的には、モーズ節とも言える親しみやすいメロディやポリフォニックな多声コーラス、変拍子リフが随所に散りばめられつつも、オーケストラやブラスセクションを交えたミュージカル仕立てのアレンジが新鮮に響く。約2時間にわたる大長編ながら、場面転換のテンポがよく、シンフォニック・ロック好きなら飽きずに聴き通せる一枚だ。

トラックリスト

  • A1 - Introducing (2:31)
  • A2 - Overture (3:19)
  • A3 - Getaway (2:41)
  • A4 - Gather The People (5:17)
  • A5 - Jeses' Baptism (3:09)
  • B1 - Jeses' Temptation (10:18)
  • B2 - There's A Highway (4:06)
  • B3 - The Woman Of Seven Devils (5:41)
  • B4 - Free At Last (5:05)
  • C1 - The Madman Of The Gadarenes (7:04)
  • C2 - Love Has Called My Name (4:14)
  • C3 - Better Weather (1:42)
  • C4 - The Keys To The Kingdom (4:48)
  • C5 - Get Behind Me Satan (3:23)
  • D1 - He Must Go To The Cross (3:10)
  • D2 - Jerusalem (3:55)
  • D3 - Hearts Full Of Holes (3:40)
  • D4 - The Last Super (3:50)
  • D5 - Gethsemane (7:39)
  • E1 - Jeses Before The Concil And Peter's Denial (3:12)
  • E2 - Judas' Death (3:33)
  • E3 - Jeses Before Pilate And The Crucifixion (8:14)
  • F1 - Mary At The Tomb (2:45)
  • F2 - The Greatest Love Of All (5:00)
  • F3 - Lover Has Called My Name (Reprise) (1:30)
2026.05.06

Motiffe – Motiffe (1972)

Motiffe『Motiffe』(1972)――若きジョン・グリマルディが残した英アンダーグラウンド・プログレの自主制作盤

イングランド・ハートフォードシャー州セント・オールバンズ男子校の生徒たちによって1971年頃に結成されたバンド、モチフ(Motiffe)。1972年に自主制作プレス会社デロイ(Deroy Sound Service)を通じてごく少数のみプレスされた本作は、のちにアージェント(Argent)に参加するギタリスト、ジョン・グリマルディ(John Grimaldi)が10代半ばにしてほぼ全曲を手がけた自主制作盤だ。

クリムゾンやコロシアムの影を宿したダークなジャズ・ロック

オリジナル盤の現存数の少なさからカルト的なレア盤として語られがちだが、レコードに針を落として聴こえてくるのは、学校の音楽室やクラブ活動の延長線上にあるとは思えないほどヘヴィで緊張感のあるアンサンブルだ。キング・クリムゾン(King Crimson)の初期作やコロシアム(Colosseum)のジャズ・ロック色、あるいは初期ピンク・フロイドの実験精神をダイレクトに吸収したサウンドが展開されている。

オープニングの「Grotesque Piece」から、クエンティン・ブライアー(Quentin Bryar)のフリーキーなサックスとイアン・ウィルソンのフルートが重なり、不穏なコード進行とともに疾走。「Analogy」や10分に及ぶ「Life Reciprocal」では、変拍子を交えた展開のなかでグリマルディのギターが鋭利なトーンで切り裂くように鳴り響く。自主制作らしい音の粗さやリバーブの深さも含めて、当時のアンダーグラウンドならではの生々しい熱気がそのまま閉じ込められている。

15分半の大曲「Mind And Body」と早熟なコンポジション

B面の大半を占める15分超の「Mind And Body」では、静謐なアコースティック・パートから一転してジャズ風のインタープレイ、そしてサイケデリックなファズ・ギターのインプロヴィゼーションへと雪崩れ込んでいく。荒削りな部分や録音の拙さはあるものの、当時まだ10代だったグリマルディのコンポーザーとしての野心と、テクニックにとどまらないコード感覚の鋭さが随所に光る。

グリマルディは後にジャズ・ロック・バンドのフラックス(Flux)を結成し、アージェント末期の名作『Circus』や『Counterpoints』で鬼気迫るプレイを披露するが、1983年に28歳の若さで病没した。その異能の原点が生々しく刻まれた本作は、70年代初頭の英国スクール・バンドが残した記録として、実に興味深いドキュメントと言える。

トラックリスト

  • A1 - Grotesque Piece (5:16)
  • A2 - Analogy (6:24)
  • A3 - Life Reciprocal (10:23)
  • B1 - To George (8:35)
  • B2 - Mind And Body (15:27)
2026.05.06

DR. Strangely Strange – Kip Of The Serenes (1969)

Dr. Strangely Strange『Kip Of The Serenes』(1969)――アイルランドのコミューンが生んだアシッド・フォークの愛すべき異形

1960年代末、ダブリンのオーファン・ハウス(孤児院跡のコミューン)で結成されたアイルランドのフォーク・トリオ、ドクター・ストレンジリー・ストレンジ(Dr. Strangely Strange)。ティム・ブース(Tim Booth)、ティム・ゴールディング(Tim Goulding)、アイヴァン・ポウル(Ivan Pawle)の3名によって1969年にアイランド・レコードから発表された本作『Kip Of The Serenes』は、アイリッシュ・トラッドの土着性とサイケデリック期のヒッピー・カルチャーが混ざり合ったユニークなデビュ―作だ。

ジョー・ボイドのプロデュースと多国籍・雑多なアコースティック楽器

本作のプロデュースを手がけたのは、インクレディブル・ストリング・バンド(The Incredible String Band)やフェアポート・コンヴェンション、ニック・ドレイクらを世に送り出したウィッチシーズン(Witchseason)のジョー・ボイド(Joe Boyd)。インクレディブル・ストリング・バンドの諸作と並び称されることも多いが、本作にはアイルランド特有の少しとぼけたユーモアと、どこかノスタルジックな牧歌性が色濃く漂っている。

アコースティック・ギターやマンドリンにとどまらず、ハーモニウム(足踏みオルガン)、スタイロフォン、グロッケンシュピール、シタール、さらにはサポートのライナスによる親指ピアノ(カリンバ)など、身の回りにある雑多な楽器を気の向くままに鳴らしたようなアンサンブルが実に味わい深い。スタジオで整然と作り込んだというよりは、部屋に集まった仲間たちが車座になってセッションしているような、親密でざらりとした空気感がそのまま盤に刻まれている。

とぼけたコーラスとアイリッシュ・トラッドの素朴な哀愁

オープニングの「Strangely Strange But Oddly Normal」や「Dr. Dim & Dr. Strange」で見せる、ヨレ気味のヴォーカルと脱力感あふれるコーラス・ハーモニーは彼らの真骨頂。テクニックを誇示するのではなく、素朴なメロディを少し奇妙な響きで彩っていくセンスが心地よい。

一方で、ジェイムズ・ジョイスの詩に曲をつけた「Strings In The Earth And Air」や、B面の「Ship Of Fools」「Frosty Mornings」といったナンバーでは、ケルト音楽由来の凛とした叙情性が顔を覗かせる。ふざけているようでいて、ふとした瞬間に哀愁を帯びたメロディが胸を打つあたりが、このグループの奥深いところだ。

アイランド・ピンクレーベル期の空気を伝える一枚

オリジナル盤はアイランド・レコード初期のいわゆる「ピンク・ラベル」(ILPS 9106)でリリースされ、ジャケットの素朴な手描きイラストも含めて、当時の英国/アイルランド・アンダーグラウンド・フォークの空気をそのままパッケージしたような佇まいを持つ。洗練とは対極にある歪さや手作り感こそが、半世紀以上経った今でも耳を惹きつける一枚だ。

トラックリスト

  • A1 - Strangely Strange But Oddly Normal (4:28)
  • A2 - Dr. Dim & Dr. Strange (7:33)
  • A3 - Roy Rogers (5:37)
  • A4 - Dark-Haired Lady (4:25)
  • A5 - On The West Cork Hack (2:32)
  • B1 - Tale Of Two Orphanages (3:49)
  • B2 - Strings In The Earth And Air (1:52)
  • B3 - Ship Of Fools (6:18)
  • B4 - Frosty Mornings (3:59)
  • B5 - Donnybrook Fair (8:48)
2026.05.06

Michael John – Love Will Tear Us Apart (1983)

Michael John『Love Will Tear Us Apart』(1983)――Joy Divisionの名曲を80sシンセ・ビートで再解釈した英国インディ12インチ

ジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)が1980年に発表した代表曲「Love Will Tear Us Apart」。イアン・カーティスの切迫した歌声とピーター・フックのハイポジション・ベースが刻み込まれたこの楽曲を、1983年のUKインディ・シーンでエレクトロニックなダンス・ビートに乗せてカバーしたのが、マイケル・ジョン(Michael John)による本作(Loose Records / LSE 4T)だ。

リチャード・ブルによるダンサブルなシンセ・アレンジ

原曲の持つ寒々しく乾いたドラムと重苦しい閉塞感に対し、プロデューサーのリチャード・ブル(Richard Bull)は、1983年当時のクラブ・シーンを意識したタイトなドラム・マシンと、煌びやかなシンセサイザーのレイヤーを配置している。

A面の「12″ Version」(5分45秒)では、イントロからシーケンサーのパルスとカッティング・ギターが軽快に刻まれ、ポスト・パンクの憂いをまとったメロディが、ソリッドなニューウェイヴ/シンセ・ポップのグルーヴへと置き換えられている。マイケル・ジョンのボーカルも、カーティスのような暗鬱なトーンではなく、どこかクールで都会的なメランコリーを漂わせており、曲の印象を大きく塗り替えているのが面白い。

B面「We’re Together」に見る当時のUKポップの空気感

カップリングのB面に収録されたオリジナル曲「We’re Together」も、当時のニュー・ロマンティックや初期エレポップの勢いを感じさせる仕上がりだ。軽快なシンセのバッキングとキャッチーなメロディラインが心地よく、単なるカバー企画の裏面にとどまらないまとまりを見せる。

大手メジャーの潤沢な予算によるプロダクションとは違い、いかにも当時の英国マイナー・レーベルらしい手作り感と、最新のシーケンス・サウンドを試行錯誤した痕跡が残る12インチ。80年代初頭のポスト・パンク〜エレポップ過渡期の空気を知る上で、なかなか興味深い一枚だ。

トラックリスト

  • A1 - Love Will Tear Us Apart (12" Version) (5:45)
  • A2 - Love Will Tear Us Apart (7" Version) (3:55)
  • B - We're Together
2026.05.06

Yes Featuring Jon Anderson, Trevor Rabin, Rick Wakeman – Live At The Apollo (50th Anniversary) (2018)

Yes Featuring Jon Anderson, Trevor Rabin, Rick Wakeman『Live At The Apollo』(2018)――ウェイクマンとラビンの個性がぶつかり合う結成50周年のステージ

2017年3月、英国マンチェスターのO2アポロで行われた公演を記録したライブ盤『Live At The Apollo (50th Anniversary)』。イエスの創設メンバーであるジョン・アンダーソン(Jon Anderson)を中心に、黄金期の鍵盤奏者リック・ウェイクマン(Rick Wakeman)、そして80年代にバンドを牽引したトレヴァー・ラビン(Trevor Rabin)という、通常の本隊ラインナップでは揃うことのなかった3人(通称ARW)によるパフォーマンスだ。

70年代の長編プログレと80年代のアリーナ・トラックが並ぶ構成

スティーヴ・ハウらが率いるもうひとつのイエスと並行してツアーを行っていた時期の記録だが、本作の面白さは何と言ってもウェイクマンとラビンという、資質の異なる名手ふたりの共演にある。1991年の『Union』ツアーを除けばほぼ接点のなかったふたりが、同じステージで互いの楽曲に音を重ねている。

「Hold On」や「Changes」といったラビン主導のソリッドな楽曲では、ウェイクマンのハモンド・オルガンやシンセサイザーが分厚い装飾を施し、楽曲のスケール感を一段引き上げている。逆に「Heart of the Sunrise(燃える朝焼け)」や「Roundabout」といった70年代の代表曲では、ハウのクラシカルで緻密なトーンとは対照的に、ラビンが歪みの効いた野太いギターで切り込んでいくのが実にスリリングだ。

安定したリズム隊とジョン・アンダーソンの衰えぬ歌声

演奏を支えるのは、クリス・スクワイアへの敬意を込めてリッケンバッカーを唸らせるリー・ポメロイ(ベース)と、タイトな推進力を生み出すルー・モリーノ3世(ドラム)の実力派ふたり。その盤石なボトムの上で、70代を迎えてもなお伸びやかな高音を維持するジョン・アンダーソンのボーカルが響き渡る。

ハイライトのひとつである15分超の「Awaken」では、教会のパイプオルガンを思わせる重厚な響きとアンダーソンのハープ、ラビンの情感あふれるリードギターが噛み合い、長尺ならではの起伏をじっくり聴かせる。さらに「Owner of a Lonely Heart」ではウェイクマンがショルダー・キーボードを持ってステージを動き回るなど、ライブならではのサービス精神もたっぷり。複雑な歴史を辿ったバンドの楽曲群を、腕利きのミュージシャンたちが純粋に楽しんで鳴らしている空気が伝わってくる一枚だ。

トラックリスト

  • A1 - Intro/Cinema/Perpetual Change
  • A2 - Hold On
  • I've Seen All Good People
  • B2 - Lift Me Up
  • And You And I
  • C1 - Rhythm Of Love
  • C2 - Heart Of The Sunrise
  • D1 - Changes
  • D2 - Long Distance Runaround/The Fish (Schindleria Praematurus)
  • E1 - Awaken
  • F1 - Make It Easy/Owner Of A Lonely Heart
  • F2 - Roundabout
2026.05.06

Eden – Heimkehr (1980)

Eden『Heimkehr』(1980)――祈りと緻密なアンサンブルが交錯するジャーマン・シンフォニック・ロック

ノルトライン=ヴェストファーレン州リューデンシャイトのキリスト教青年共同体から産声を上げたバンド、Eden(エデン)。1970年代後半の西ドイツにおいて、聖書のテキストを題材にしながら、プログレッシヴ・ロックの構成美へと落とし込んでいたグループだ。1980年に発表された通算3作目(バンドとしてのラスト作)『Heimkehr』(帰郷)は、彼ら特有の澄んだリリシズムとアコースティック/エレクトリックのブレンドが落ち着いた形でまとまっている。

Novalisや初期Eloyを思わせるたおやかな音像

クラウトロックの奔放な実験期を経て、ノヴァリス(Novalis)やエロイ(Eloy)といった叙情派シンフォニック勢が地盤を固めていた当時のドイツ。本作『Heimkehr』の質感もそうした空気と共鳴しており、どこか英国のルネッサンス(Renaissance)にも通じるクラシカルな気品を漂わせる。

サウンドの要となっているのは、後にシンフォニック・プロジェクト「Yavanna」でも手腕を振るうディルク・シュマーレンバッハ(Dirk Schmalenbach)の鍵盤とヴァイオリンだ。分厚く広がるストリングス・シンセサイザーとピアノ、そこにハンス・フリッチュ(Hans Fritzsch)の伸びやかなエレキギターが重なり、派手なギミックよりもアンサンブルの滑らかな響きを大切にした音作りが印象に残る。

大曲「哀歌」と「帰郷」に息づくドラマ

聴きどころとなるのは、A面の大半を占める10分の大曲「Die Klagelieder des Jeremia(エレミヤの哀歌)」と、B面のタイトル曲「Heimkehr(帰郷)」だろう。聖書の一節をドイツ語で歌い継ぐ男女混成のコーラスは素朴ながら芯があり、ハンス・ミュラーのドラムが刻む変拍子やリズムの転換とともに自然と熱を帯びていく。

また「Psalm 137」「Psalm 126」といった詩篇をモチーフにした小品でも、アコースティック・ギター主体のフォーキーな手触りと、室内楽的なストリングスのアレンジが無理なく同居。宗教音楽という出自を感じさせつつも、決して閉じた世界観にはならず、プログレ・ファンが純粋にアンサンブルの妙味を楽しめる一枚に仕上がっている。

トラックリスト

  • A0 - Intro (2:00)
  • A1 - Die Klagelieder Des Jeremia (10:00)
  • A2 - Psalm 137 (5:10)
  • A3 - Psalm 126 (5:45)
  • B1 - Heimkehr (10:11)
  • B2 - Herr, Ich Bin Nicht Würdig (5:45)
  • B3 - Neues Land Im Licht (7:00)
2026.05.06