Evangelos Papathanassiou – Ignacio (1977)
Vangelis名義で知られるEvangelos Papathanassiouの「Ignacio」
ギリシャ出身の作曲家、Evangelos PapathanassiouことVangelisによる「Ignacio」は、1977年に再びこのタイトルで世に出た作品だ。電子音楽、モダン・クラシカル、アンビエントの要素を含む内容で、Vangelisらしい鍵盤中心の響きと、映像作品を思わせる構成感が前面にある。
この作品はもともと1975年に「Can You Hear The Dogs Barking?」およびフランス語表記の「Entends-tu Les Chiens Aboyer?」として出ていたものが、1977年の再発で「Ignacio」という題名になったもの。タイトルはメキシコ映画「No Oyes Ladrar Los Perros?」の主人公名に由来する。オリジナルの時点から、作品の性格そのものは既に固まっていたと見てよさそうだ。
作品の位置づけ
Vangelisは、1970年代のプログレッシブ・ロック周辺から、のちの映画音楽やアンビエント寄りの作風まで広く知られる人物だが、「Ignacio」はその中でも初期の電子的、室内楽的な感触を持つ時期の一枚として捉えやすい。大げさな展開で押すというより、音の重なりや余韻で進むタイプの作品で、後年の映像音楽につながる手つきも見える。
同時代の電子音楽やプログレ周辺の作家と比べると、シンセのスペックを見せる方向よりも、旋律の置き方や和声の運びを重視する印象がある。たとえば、同じく鍵盤主体の音作りを展開した作家たちの中でも、Vangelisはアコースティックな響きの残し方がはっきりしている。
盤としての1979年版
今回の盤は1979年リリースのものだが、作品そのものは1977年に「Ignacio」として出たものとして扱うのが自然だろう。1979年の盤は、その後の流通上の再プレスや再発にあたる位置づけで、内容面では1977年版の延長線上にある。Vangelisの初期作品では、こうしたタイトル変更や再発がしばしば見られる。
音の印象
実際に聴くと、派手なリフや強いビートで引っ張るタイプではなく、音の層がゆっくり重なる流れが中心だ。電子音だけで冷たくまとめるのではなく、鍵盤の響きに温度が残っているのが特徴的。短いフレーズの反復や、余白を使った進行が目立ち、映像のない場面にも風景が立ち上がるような作りになっている。
代表曲として広く知られた定番曲が前面にある作品ではないが、Vangelisの初期の語法を追ううえでは、のちの大作に通じる断片が詰まった一枚として見ることができる。映画音楽寄りのドラマ性と、アンビエント寄りの静けさ、その両方の間に置かれた作品という印象だ。
まとめ
「Ignacio」は、Vangelisの初期電子音楽の輪郭をつかむうえで外せないタイトルのひとつだ。1975年の初出から題名を変え、1977年に「Ignacio」として再登場した経緯も含めて、作品の流通史そのものにVangelisらしさがある。1979年盤は、その流れを受けた日本盤として位置づけられる。
トラックリスト
- A – Ignacio
- B – Entends-Tu Les Chiens Aboyer?