Tangerine Dream – Atem (1973)
Tangerine Dream『Atem』(1973)レビュー
Tangerine Dreamの『Atem』は、1973年にUKで発表された4作目のアルバムである。のちに「ベルリン・スクール」と呼ばれる電子音楽の流れを強く印象づける前段階にあり、シンセサイザー主体へ移る直前の、より実験色の濃い時期を映した作品でもある。初期Tangerine Dreamの中では、ロックのバンド感よりも、音そのものの配置や持続、空間の扱いに意識が向いた一枚という位置づけが見えてくる。
作品の位置づけ
1973年のTangerine Dreamは、Edgar Froese、Christopher Franke、Peter Baumannを中心に、電子楽器を軸とした独自の方向へ進みつつあった時期である。前年までのより即興的で生々しいサウンドから、のちの『Phaedra』で決定的になるシーケンサー主体の形へ向かう途中にあり、『Atem』はその過程に置かれている。UK盤として出たことも含め、当時の英国プログレッシブ・ロック、あるいは実験音楽の文脈で受け止められた作品といえる。
レーベル面では「Cosmic Couriers」の作品として扱われている。Tangerine Dreamの初期作品群に通じる、ジャーマン・エクスペリメンタルの空気を持った一枚である。
音の特徴
『Atem』の中心にあるのは、曲の展開をはっきり示すというより、音の断片や持続音、打楽器的な要素を組み合わせていく構成である。電子音の冷たさだけで押し切るのではなく、フレーズの間に余白があり、音響の動きがゆっくりと変わっていく。
この時期のTangerine Dreamは、後年の「整った電子音楽」という印象とは少し異なり、もっと手触りのある演奏感を残している。キーボード、フルート、パーカッション、テープ操作のような要素が混ざることで、曲ごとに輪郭が変わるのが面白いところである。ロックバンドとしての推進力より、スタジオでの実験と即興の記録という性格が前に出る。
同時代との関係
同時代のドイツ音楽では、CanやAmon Düül II、Ash Ra Tempel、Faustなどがそれぞれ異なる方法でロックと実験を結びつけていた。Tangerine Dreamはその中でも、より電子音響の側へ寄っていく立場で、のちのクラウトロック/電子音楽のイメージ形成に大きく関わることになる。
『Atem』は、そうした潮流の中でも、まだ「曲」より「場」の感覚が強い。後年のテクノやアンビエントに接続されるような反復感は、ここではまだ輪郭段階にあり、むしろ音の発生そのものを追っている印象である。
アルバム内で注目される点
この作品では、タイトル曲「Atem」がアルバムの核として語られることが多い。静かな導入から徐々に音の層が重なっていく流れがあり、初期Tangerine Dreamの方法論を端的に示す楽曲である。派手なフックで押すタイプではないが、アルバム全体の方向をつかむ入口になっている。
また、ジャケットと音像の結びつきも強い作品で、当時のTangerine Dreamらしい内省的な空気がそのままパッケージされている。視覚と音の両方で、1973年のバンドの位置が見える構成である。
聴きどころの整理
- シンセサイザー主導へ移る直前の初期Tangerine Dreamの記録
- 即興性と音響実験の比重が大きい構成
- のちの『Phaedra』につながる前史としての面白さ
- クラウトロック、英国プログレ、実験音楽の交点にある作品
まとめ
『Atem』は、Tangerine Dreamが後年に確立するシーケンサー主体のスタイルに到達する前、電子音楽の可能性を手探りで広げていた時期を示すアルバムである。1973年という時点で、すでにこのバンドがロックの枠外へ踏み出していたことがよくわかる内容で、初期作品群の中でも過渡期の重要作として位置づけられる。
派手な代表曲で覚えるタイプのアルバムではないが、Tangerine Dreamの原点をたどるうえで外せない一枚である。
トラックリスト
- A – Atem (20:25)
- B1 – Fauni-Gena (10:43)
- B2 – Circulation Of Events (5:49)
- B3 – Wahn (4:31)